明かし時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー8
ワープ装置が高天原北を差していた。ナオ達は高天原北へとワープしたようだった。
「高天原北に来たようですね。」
辺りは砂漠のような砂地で神が住んでいる感じではない場所だった。
ナオ達がふうと一息ついた時、すぐ近くでワープ装置の数字が回っていた。
「……?」
「うえ?な、なんだよ!」
ムスビが叫び、身を引いた刹那、アヤとミノさん、イドさん、そしてヒメさんが現れた。
「どういう事よ!」
アヤは地面に足をつけるなり、イドさんに掴みかかった。
「どういう事とはなんでしょう?」
イドさんは首を傾げ、おどけたようにアヤに尋ねた。
「世界の仕組みを一緒に調べようって仲間になったんでしょ!なんで私達が危険になるワイズの所にワープしたのよ!」
「アヤ……落ち着けよ。」
興奮しているアヤをミノさんが慌ててなだめる。アヤはミノさんを見向きもせず、イドさんをまっすぐ睨みつけていた。
「あー……そうですねぇ。ワイズからあなた達を捕まえろと言われていまして……『あなた達が危険だから』なのではなく、『あなた達が危険になる』んですよ。このままだと。」
「どういう事よ?まったくわからないわ。」
「ですから、世界の仕組みを探る事は『あなた達が危険にさらされる』という事です。ワイズ達はあなた達が危険にならないようにしているんですよ。それから僕はハナから仲間ではありません。」
イドさんはふふんと鼻で笑った。
「仲間じゃないならなんでワイズの所からワープしたの?私達を捕まえたかったんでしょ?あなた、意味がわからないわよ。矛盾しているもの。」
アヤはイドさんの虚言を暴こうと必死だった。
「まあ、それは色々と問題がありまして……。」
イドさんはちらりとヒメさんを見た。
ヒメさんはイドさんを鋭く睨みつけながら何かを考えていた。
「色々な問題って何よ!ヒメを助けてくれたことは感謝するけど……。」
「……イドさんは娘さんを……守ったのですよ。」
アヤの話し途中でナオが小さくつぶやいた。
「……?」
ナオの言葉にアヤ達は訝しげな目を向けた。
「ヒメさんはイドさんの娘さんで先程、ワイズがヒメさんを拘束しようとしたため、仕方なく逃げたのです。ヒメさんが何をしたのかはわかりませんがワイズが言っていましたよね……『人間を消滅させようとたくらむそいつはもう放っておけない』と。」
ナオはしんと静まり返った一同を見回しながら静かに言い放った。
「イドさん、私はヒメさんが何をしようとしているのかはわかりませんがあなたはすべてを知っていたのでしょう?」
ナオの言葉にイドさんは強い威圧を発した。
「僕にはわかりませんねぇ。それから僕はヒメちゃんとは顔見知りなだけです。娘じゃありませんよ。残念ながら僕には娘はいないんです。」
イドさんは笑みを浮かべながらナオを睨みつけていた。イドさんの言葉を聞いたヒメさんは少し期待に満ちた顔をしていたが悲しげな顔に変わっていた。
ナオはイドさんの威圧に耐えられず、膝をついた。
「ッ……やはり強い……。」
「ナオさん!」
「ナオ!」
ムスビと栄次が辛そうなナオのそばに寄り、背中をさする。ムスビはイドさんを睨みつけ、叫んだ。
「……うそつけ!あんた、ヒメちゃんとの親子関係を隠しているそうじゃねぇか!」
「……親子じゃないと言っているでしょう。そんなに顔が似ていますか?今はジョークの気分じゃないんですよ。」
「じゃあ、あんた、なんでそんなに辛そうな顔してんだ。」
ムスビの言葉にイドさんは奥歯を噛みしめ、顔を歪ませていた。
「……やっぱりやめるのじゃ……。」
イドさんとムスビが睨み合っているとヒメさんが小さくつぶやいた。
「え?」
突然のヒメさんの発言でまた皆は静まり返った。
「……ワシは取り返しのつかない事をしようとしておった。実はアヤの仲間になったわけではないのじゃ。」
「どういう事よ?あなた、一緒にこの世界のシステムについて調べてくれるって言ったじゃない。高天原に入る方法もやりかたもあなたが教えてくれたんでしょ。」
アヤはヒメさんの言葉に動揺していた。どうやらヒメさんとアヤは世界のシステムについて一緒に調べようとしていた仲らしい。
「ワシは人間をすべて消滅させる計画を練っておった。」
「なんだって!」
ミノさん、ムスビ達が叫んだがナオとアヤになだめられ静かに戻った。
「ワシはアヤの持っている時神の能力とワシの持っている人の歴史を管理する能力を使って人が存在しないという定義のシステムを創る予定じゃったのじゃ。つまり、アヤを騙したのじゃ。
それで……たまたま、人の縁を守る縁神、北の冷林が人間の願いを聞き入れて力を使いすぎてしまった故、弱くなっておったからワシは人間を直接管理している冷林を消せば、後はワシとアヤの能力で人間を消滅させられると考えて弱くなった冷林を封印したのじゃ。
じゃが……人間を消す事はワシらが消滅することになると気が付いた……。ワシらは人間の祈りから生まれたのじゃからな。」
ヒメさんは目にじんわりと涙を浮かべながら切れ切れに言葉を紡いだ。
「ちょっと待て……なんで人間を消そうなんて思ったんだい?」
ムスビがヒメさんの様子を窺いながら尋ねた。
「……もういいのじゃ。ここまでやっても来てはくれんかった……。」
ヒメさんは切なげに空を見上げた。
「……お父様に会いたかったのですか?」
ナオが切なげに空を見上げているヒメさんに静かに尋ねた。
「……もういいのじゃ。取り返しのつかない事をすればずっと姿を現さなかった父上が叱りに来てくれるかもしれぬと浅はかで自分勝手な考えを持っていた……。ワシは最悪じゃ。」
ヒメさんは暗い瞳でナオを見据えた。
「……ヒメさん、きっとあなたはお父様であるイドさんに守られていたのですよ。彼は先程、ワイズに『僕が冷林を元に戻すまで彼女には手出しさせない』と言っていました。」
「え……。」
ナオの言葉にヒメさんはそっとイドさんを仰いだ。
「……勝手な事を……。あなたの話は仮説でしょ?」
イドさんはやれやれとため息をついた。
「……では証拠をお見せいたしましょうか!」
ナオはこの強敵なイドさんの歴史を見る事ができるチャンスだと思い、素早くイドさんの巻物を手から出現させるとイドさん目がけて飛ばした。
「やっ、やめなさい!」
イドさんの焦った声を最後に辺りは真っ白に染まった。




