明かし時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー7
天御柱神が栄次を拘束しようとした刹那、突然目の前が光りだした。
「ん?なんだ?これはワープ装置か?」
天御柱神はいったんワイズを光から遠ざけた。
栄次もとりあえず距離をとる。
急に光りだした部分からアヤとヒメさん、イドさん、そしてミノさんが陽炎のように現れた。
「こんな時に……お前らが来たかYO……。」
ワイズはため息をつきながら突然現れたアヤ達を呆れた目で見つめた。
「……ここはワイズの城じゃな?おかしいのぅ……剣王の城に着くワープ装置じゃったのに……。」
可愛らしい顔つきのヒメさんが若干ふくれっ面でなぜかイドさんを睨みつけていた。
「さあ?僕を睨みつけても何も変わりませんよ。そのワープ装置、ワイズの元へ行くワープ装置だったんじゃないですか?」
銀髪ゆるゆるパーマの龍神、イドさんはヒメさんににこりと笑みを向けた。
「また、おたくが邪魔したのか?おたくは敵なのか味方なのかどっちだよ。」
金髪の狐耳、ミノさんがヒメさん同様にイドさんに鋭く言い放った。
「ミノ、落ち着いて。ケンカしている場合じゃないわ。」
「ケンカじゃねぇよ……。」
アヤの言葉にミノさんは深くため息をついた。
話を聞く限りだとこの四神はあまりうまくいっていないようだ。
なんとなくそれを感じていたがナオはそれには触れずにアヤに小さく尋ねた。
「アヤさん……どうしてここへ?」
「ナオ……私達はここに来るつもりじゃなかったのよ。でも、さっきからなぜかずっと誰かに邪魔されてて……。」
アヤはちらりとイドさんを見る。イドさんはほほ笑みながらアヤを見返してきた。
「アヤさん達は一体何がしたいのですか?」
「……それは……。」
アヤが詰まった刹那、ワイズがヒメさんに神力の鎖を飛ばした。
「お前がすべての原因、ここで捕まってもらうYO。」
ワイズがそう言葉を発し、神力の鎖がヒメさんにぶつかる寸前、別の神力が激しく辺りを動かした。
「ワイズ、話が違いますよ。」
強い神力でワイズの神力をはねのけたのはイドさんだった。
「何が違うんだYO。人間を消滅させようとたくらむそいつはもう放っておけないだろうがYO。」
ワイズは不機嫌そうにイドさんを睨みつけた。
「行方不明の冷林を僕が元に戻すまで彼女には手を出さない約束のはず……。」
「おい、どういう事だ?」
イドさんの発言にミノさんが訝しげに声を上げた。
その時、ナオ達はワイズの神力が消えている事に気がついた。先程のイドさんの力で拘束されていた鎖も切れてなくなったようだ。
ナオはチャンスだと思い、思兼神の巻物をワイズめがけて投げた。巻物はムスビを通り過ぎてワイズの元へとまっすぐ飛んでいった。
「……っ!」
あまりの不意打ちに天御柱神もワイズも反応ができなかった。
辺りはまた真っ白に染まった。
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ふとナオの前にワイズと剣王が立っていた。ナオは咄嗟に構えたが彼らが記憶の中の彼らであることに気が付き、構えを解いた。
「剣王、じきにこの世界を生きる神々はこの世界が分裂した事も私達の元の姿も忘れる……。皆再生される……お前も……変わるのか?」
ワイズは剣王に静かに言葉を発した。
辺りは真っ白な空間だ。特に何もない。先程の剣王の記憶の続きのようだ。
「いいや、それがしは変わんないねえ。それがしはKにこの世界を見守る役として選ばれたんだ。見守る役は元の世界の状態も知らないとさ。君と同じだよ。
それがしと君だけこの世界では異物になるねぇ。いや……遺物かなあ。それがしらはこれから何にも知らない再生された神々の中でうまく溶け込んでいかないといけない。
かつ、しっかりとこの世界の元の姿を覚えておかないとならない。今の世界のデータをちゃんと覚えておかないと新しい世界になった時、データの修復ができないでしょ。Kは弐(夢、幻の世界)にしかいられないし。」
剣王はやれやれとため息をつくと真っ白な空間を見つめた。
「そうだね。私にはKの一部が入り込んでしまったし、私も記憶を失うことなくこの世界に居続けるんだろうね。向こうに行ったアマテラスや月読、スサノオなんかは大丈夫なのかね?まあ、私は知らないけどよ。」
ワイズはケラケラと笑いながら剣王と同じように白い空間に目を向けた。
白い空間は徐々に消えていき、結界のようなものが張られ始めた。結界が張られた奥は白い空間ではなく、真っ暗な宇宙が広がっていた。
「ん?お前は……。」
「さて、始まったよ。他のKも結界を張るのに大忙しさ。」
剣王とワイズの前に先程のツインテールの少女が現れた。
「そうか。」
ワイズがKと名乗った少女に小さく頷いた。
「言っておくけど……私達、全世界のKがこの世界を創るんじゃないからね。私達はあくまで世界のシステム。平和を願った人間達や、動物達、そして神々の感情エネルギーがデータとなって私達に命令をしているだけだから。私達は創っているんじゃなくて手伝っているだけ。」
Kと名乗った少女は結界の外を眺めながらほほ笑んだ。
記憶はそこまでだった。またも砂のように映像が消えていった。
辺りは徐々にワイズの居城へと戻って行き、白い空間は完全に消え失せた。
「……K……。」
一緒の記憶を見たらしいアヤはぼそりとつぶやいた。アヤがぼうっとしているとすかさず隣にいたイドさんがアヤの手を握った。
「とりあえず、行きましょう?」
「え?」
「おい!ちょっと……。」
イドさんは他のミノさん、ヒメさんの手も取ると一度ジャンプをしてワープ装置を起動させた。
「私達も行きましょう!」
ナオも素早くムスビの手を握り、栄次を呼び寄せた。
「あ!待てYO!お前らは……」
ワイズの声を最後にアヤ達他、ナオ達も同時にワープし、その場から消えた。
「っち……参ったYO……。ナオに逃げられた……。くそっ!」
「ワイズ、あのナオとかいう女はなんなんだ?何をしようとしている?」
全員が消えてしまってから天御柱神が頭を抱えながらワイズに尋ねた。
「……あのナオって女は自分の首を自分で絞めようとしているだけだYO。ただそれだけSA。」
「……?」
ワイズの答えに天御柱神は首を傾げたがおそらくここから何も言わないだろうと判断し、そこから口を閉ざした。




