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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
四部「明かし時…」隠された神の歴史
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明かし時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー4

 三神は剣王への居城へと足を速め、剣王の城が間近に見える部分までやってきた。


 「……おかしいですね。周りの民家に住む神々に出会いませんでした。道が恐ろしいくらいに静かです。」

 ナオは誰とも会わなかった事を警戒していた。


 「思いっきりな罠か、アヤ達の混乱に手一杯で西の神々がいないのかわかんないけど静かなもんだね。」

 ムスビも目の前にそびえる立派な天守閣を見上げた。


 「アヤさん達が高天原へ入った事に剣王はそこまで本気になるでしょうか?」


 「えーと、ずーっとさ、気になってたんだけど、アヤはヒメちゃんを連れていたんだろ?ヒメちゃんは剣王の側近だぞ。たしか。」

 ムスビは民家に隠れつつナオに言った。


 「そうなのですか?」

 「ナオさん……なんでそういうところが抜けているんだ?」

 ムスビはナオのひらめいた顔を見てため息をついた。


 「……なるほどな。側近か。その側近がアヤ側について何をしているのかわからんが剣王達、西の武神達が何かしらで動いている可能性はあるな。」

 栄次は武神達の気を探っていた。しかし、特に気配は感じなかった。


 「栄次、まさか城に誰もいないって事はないよね?」

 ムスビの質問に栄次は首を傾げた。


 「……わからん。気はまったく感じられない。だが、気配を消せるのならば近くにもうすでにいるかもしれない。」


 「おい……。頼むぜ。あんたがいないと俺達ほんと、何にもわからないんだから!」

 「すぐに対応する努力はする。」

 戸惑うムスビに栄次は静かに一言言った。


 「とりあえず、城の中に入ってみましょう。」

 ナオは栄次とムスビをちらりと見ると息を大きく吐いて城内部へと足を進めた。


 「ああ……ナオさん!待ってよ。」

 「はあ。」


 さっさと歩き始めたナオにムスビと栄次は慌てて追いかけた。

 三神は城門をするりと通り抜け、警備すらいない城内に入り込んだ。


 城内も不気味なほど静かだった。


 「誰もいらっしゃらないのでしょうか?いつも剣王の居城にはたくさんの武神が遊びにきているはずです。」

 「遊びにって……仕事でしょ……。」

 ナオのボケにムスビが素早く突っ込みを入れた。


 「……誰の気も感じないが空気が張り詰めているように思うぞ。」

 栄次の言葉でムスビとナオの顔が青くなった。


 「空気が張り詰めているってなんだかいやな予感がしますね。」

 ナオは何も隠れるところのない廊下から辺りを見回したが神の影すらも見つけられなかった。両脇にある障子戸はすべて開け放たれている。和風全開の畳の部屋もすべてよく見えた。


 「な、ナオさん、やっぱり罠だよ。戻った方がよくない?」

 ムスビは完全に怯えており、体を震わせていた。


 「……いいえ。もう後戻りはできません。剣王にお会いできましたらこの巻物で……。」

 ナオは手からタケミカヅチ神の歴史が記されている巻物を出現させた。


 「その前に捕まっちまうよ。」

 ムスビはため息交じりにナオにつぶやいた。


 「ナオ、逃げる経路とかは考えているのか?」

 栄次は困惑した顔でナオを見ていた。栄次もどこか落ち着かない雰囲気だった。


 「……はい。高天原産のワープ装置、この腕輪を使って素早くワープします。高天原内でしたらワープが可能です。」

 ナオは着物で隠れていた右手首をさらしてムスビ達に見せた。右手首には銀色の腕輪が光っていた。


 「おお。ちゃんと考えてたんだね。しかし、いつの間にそんなもんを……。」

 ムスビが声を発した時、ちょうど階段にたどり着いた。ナオは階段を上りながらムスビに答える。


 「追われている時期ではなかった時に高天原で買いました。」


 「な、なるほど……使い方とか大丈夫なの?」

 「ええ。おそらく。」

 階段を上り終えたナオ達はまた部屋が続く廊下へと足を踏み出した。


 刹那、栄次が左腰に差している刀に手をかけた。それを見たムスビとナオは顔を引き締めて辺りを窺った。


 「……。」

 しばらくその場に立ち止まっていると前方から西の権力者、剣王が頭を抱えつつこちらに向かってきていた。


 「うぅわっ!心の準備ができてないのにいきなり現れた!」

 ムスビが戸惑いと不安げな顔でナオと栄次を見た。ナオも栄次もあまりの神力にまったく動くことができず、ただ、頬から汗がつたっていた。


 余裕のない三神とは裏腹に剣王は飄々と声をかけてきた。


 「ふーん。ずいぶん遅れてアクションを起こしたんだねぇ……。いずれ来るだろうと思っていたから放置してたんだけど、この立て込んでいる時期に来るとはさすがだなあ。」


 「かっ……体が動かない……。」

 ナオ達はまるで体が鉄になってしまったかのように動けなくなっていた。


 「そりゃあねぇ。逃がすわけにはいかないし。今現在、西の神々はほとんど仕事でいなくてねぇ。あいにく、それがし一神なんだよ。」

 剣王は笑みを浮かべつつ、ナオ達のそばまでやってきた。


 「……っ!」

 「おっと。」

 ナオが剣王に向けて巻物を飛ばそうと試みたがすぐに剣王に腕を取られてしまった。


 「……栄次!」

 ナオは栄次に向かい叫んだ。栄次は動かない体を無理に動かし、剣王に斬りかかった。


 「まったく、元気だねぇ。」

 剣王はナオを片手で乱暴に投げ捨てると栄次の剣技を軽やかにかわし、距離を取った。

 ナオは思い切り太い幹の柱にぶつかり小さく呻いた。


 「ナオさん!」

 ムスビが慌ててナオの元へと近づき、苦しそうに咳こむナオを優しく抱き起した。


 栄次は刀を剣王に向かって構え、出方を窺っていた。


 「全員ここで捕まってもらうよ。ああ、あんたらがしたことはだいたいわかっている。時神過去神のみ罪はなく、霊史直神(れいしなおのかみ)暦結神(こよみむすびのかみ)のみ罰するわけだ。あんたらはそれがしの管轄だが武神ではない。歴史神故、武神のルールでは裁かない。」


 剣王はどうしようか迷っている雰囲気でナオとムスビを見ていた。


 「け、剣王のルールとは弐の世界(夢幻、霊魂の世界)であなたと戦い、勝てば無罪というシステムの事ですか?」

 ナオは剣王の様子を窺いつつ尋ねた。


 「そうそう。でも、あんたらは歴史神だ。このルールを採用すると君達に死刑を宣告しているのと同じになっちゃうからねぇ。まあ、武神相手でも負けた事ないから基本死刑だけど。この罰を採用する事はほとんどないけど、まれに狂気に染まる武神とかもいるからそういうのが出た時だけにやる事あるよ。罰に関しては後で決めるとしてさっさと捕まってくれないかなあ。神が世界を乱すようなことをしちゃダメでしょ。」


 「簡単に捕まるわけにはいきません。」

 ナオが剣王に向かい素早く巻物を投げた。刹那、剣王は巻物を素早く避け、一瞬でナオ達との距離を詰めた。


 「……っ!」

 栄次が慌てて応戦体制をとるが、剣王は栄次の剣技を再び軽々と避けた。

 必死にナオを庇うムスビを剣王は躊躇なく蹴り飛ばした。


 「うぐっ……。」


 剣王の重たい蹴りはムスビの腹に入り、前のめりに倒れるムスビの背に肘打ちを食らわせた。ムスビは立っている事ができず、その場に倒れた。剣王はうつぶせに倒れているムスビを足で踏みつけるとナオを睨みつけた。


 「むっ……ムスビ!」

 ナオは怯えた表情で剣王を見上げた。


 「っち……。」


 栄次が剣王に向かい再び刀を振りかぶる。剣王は手から剣を出現させると軽く凪いだ。

 刹那、突風のような風が吹き、栄次は勢いよく遠くに飛ばされ、壁に激突した。


 「……っぐ……か、かまいたち……か?」

 風圧を受けただけなのだが栄次の肩先から血が流れ出ていた。


 栄次を遠ざけた剣王は再びナオに向き直る。


 「さあて。逃げないようにちょっと気を失ってもらうよ。」

 「……そうはいきません!」

 ナオは先程投げた巻物をまた手に呼び戻し、剣王に投げつけようとした。


 「おっと。そうはいかないよ。」

 剣王は剣の柄でナオのみぞおちを強く突いた。


 「あうっ……。」

 「……落ちなかったか。」

 ナオは飛びそうになる意識を必死で元に戻した。


 剣王はムスビを神力で動けなくするとナオに顔を近づけた。


 「君はそれがしらの歴史を知らない方がいい。知ってもいい事はない。それと、今なら罪は軽くて済むぞ。優しい優しい太陽神の頭が君を許してくれるみたいだからねぇ。」

 剣王はナオの顎をクイッと上げた。


 「……あなたが隠し持っている歴史を見せなさい……。」

 ナオは再び巻物を呼び戻す。


 「聞き分けがない子だねぇ。その腕、折っちゃった方がいいかなあ?……それがしはわりと女に容赦はないんでね……。」

 「……っ。」

 剣王の底冷えする声にナオはガタガタと震え上がった。


 「腕、折られたくないでしょ?それがしも女の子の叫び声は聞きたくないんだよねぇ。今、大人しくそれがしに従うならば許してあげる。……逆らうなら……。」


 剣王が最後まで言い終わる前に栄次が刀を振りかぶり、剣王に向かい振り下ろした。


 「……君も、なかなかいいセンスしているけどもっと精進した方がいいねぇ。」


 剣王は栄次の剣技を再び軽く避けた。ナオはその隙に呼び戻した巻物を剣王に向かい投げた。剣王は剣技に気を取られナオが投げた巻物を避ける判断が遅れた。


 「……あれ?……油断したねぇ……。」

 剣王が舌打ちした刹那、真っ白い光が辺りを覆った。


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