流れ時…2タイム・サン・ガールズ15
サキが太陽神になってしまったのは五歳の時だった。
サキの母がアマテラスを宿したままサキを産んだ。
その時サキは神になる事はなく、ちゃんと人間として生まれた。
家系が家系なだけに巫女の力は強かった。
その強い巫女の力が突然五歳の時、神の力に変わった。
人間だったサキはどうすればいいかわからなかった。
外を歩いても誰にも気がついてもらえなかった。
ただ、母だけが自分の存在に気がついてくれた。
母は自分を抱きしめてくれた。
その時はもうすでに母の目はなかった。
しばらくして原因を独自に調べてみた所、サキが神になってしまった原因はやはりアマテラスだった。
サキはもともとアマテラスの加護を受けた太陽神として母に宿っていた。
しかし人間の中にいたため、生物の理として人間につくりかえられて産まれたのだ。その人間としての力は人間の母から離れた段階で徐々になくなっていった。
そして五年の歳月を経てサキの人間としての力は完全に消滅し、神として生まれ変わった。
なぜ母はアマテラスを憑依させていたのかはわからない。
わからないがサキは母がよからぬことをしようとしているのだろうと思っていた。
しかし、それを止められなかった。
母親を怒らせたくなかったし、悲しませたくもなかった。
だから今、こうやって母親に従っている。
「なんであなたと対峙しなければならないの?サキ。」
サキが炎を振りまいた時、アヤが複雑な表情でこちらを見ていた。
……わかっているんだ。あたしだってわかってんだけど……。
サキは炎の中から剣を取り出した。
この剣は他の太陽神達が持っているものとは違う。
エネルギーに満ちた剣だ。
この剣を小学生くらいの女の子が扱えるのかとアヤ達は思っているだろう。
「あたしの特別性の剣さ。すごい軽いんだ。」
アヤ達の表情で何を言いたいのかがわかったのでサキは言葉を追加した。
その間にまわりを炎で囲んだ。
一対三になるのだ。
万が一、走り去られたらいけないと思っての事だ。
サキは栄次をまず狙った。
この強い剣客は早く消しておいた方がいい。
横を見るとアヤが不安げにこちらを見ている。
アヤは放っておいてもいいだろう。
プラズマもサキが剣を出した事に戸惑いを感じている。
こちらを強いまなざしで見つめているのは栄次だけだ。
この男は戦慣れをしすぎている。
……ほんと、あたし何がしたいんだろ……。
サキは剣を振るった。
この剣は剣術をやるというよりは炎を扱うのに近い。
風をうまく使い、炎の行き先を決める。サキの剣は軽々と栄次に避けられてしまった。栄次が先程までいた所に火柱が通りすぎる。
「あんた、やっぱ勘が鋭いね。」
「炎が出るのか……。」
「まあね。」
上下左右に剣を振るってみるが栄次は刀も抜かずに避けて行く。
「ちっ……火柱まで計算して避けているのかい……。」
サキは舌打ちしながらつぶやいた。
「剣術がまるでなっておらんな。先程の猿や太陽神の方が強かったぞ。」
「言うと思ったけどねっ!」
サキは薙ぎ払うと同時に剣から手を離した。剣は炎を上げながら消えた。
「!」
その消えた剣が今度突然栄次の後ろから出現した。サキが指を動かすとその剣は栄次に向かい飛んで行った。
「栄次っ!」
プラズマの声で栄次が気づき、体を捻らせて避けた。
剣はまた炎に包まれ消えた。
「なるほどな。その剣は炎なわけだ。それがお前の能力か。」
「一発でわかったのかい?やっぱり剣客は騙せないか。」
「アヤ、プラズマ、あの女を追え。」
栄次はサキから目を離さず静かに言った。
「お前、まさかこの小さい女の子を……。」
不安げにプラズマは栄次を見つめた。
「……大丈夫だ。手加減は知ってる。だが問題は俺が大丈夫かという事だな。」
「でもこの炎の中……。」
アヤがオドオドとつぶやいた時、
プラズマがいきなりアヤの手を握って走り出した。
先程持っていた銃とは別の銃を取り出し炎に向かって発射した。
その銃口から爆風が飛び出し、炎の一部を消した。
「栄次、死ぬな。」
プラズマは栄次の方を見てにこりと笑った後、アヤを強引に引っ張り走った。
「ちょ……まちなさいよっ!」
アヤは戸惑いながらプラズマに連れ去られた。
「行かせないってば。」
サキがアヤ達に突進しようとした時、栄次が横から刀を振るった。
サキが着ているワンピースの肩先が少し切れた。
布がヒラヒラと静かに飛んで行く。
「止まったのは賢明な判断だ。動いていたら肩先、斬れていたぞ。」
「っち……。まいったねぇ。」
サキが止まった一瞬にアヤとプラズマは炎を抜けていた。
サキは頭を抱えて栄次を見つめた。
「悪いな。俺で良ければ相手する。」
「冗談じゃない。あんたなんか相手にしていたら命が足りないよっ!」
サキは叫ぶと逃げようとした。
しかし、栄次の刀が風を切って襲ってきた。サキは剣で刀をかろうじて弾く。
「俺としては逃げられても困る。」
「まったく、あんたに全部ペースを持ってかれたよ……。やるしかないね……。」
サキは剣をゆっくり構えた。
「……武人を相手にするという事は死を覚悟するという事だ。お前にそれができるか?」
「できるわけないじゃん……。あたし、武人じゃないし。」
「そうか。」
栄次は無表情のまま剣を構えるサキを見据えた。
……あたしの能力の高低を構えだけではかろうとしている……。
これは武人として戦うには分が悪いね……。
だけど、神としてならあたしの方が上だ。
少し戻ってきた太陽の力をみせてやろうかな。
サキが動いたので栄次も即座に反応した。
「……そうか。武人としてはやめたのか。」
「だからもともと違うってば。」
サキは炎と光を栄次に交互に飛ばす。光で目がくらみ、炎で焼き尽くす作戦だ。
「こんなところで火葬はごめんだな。」
栄次は目をつぶり、冷静に感覚だけで避けた。
しかし、炎が頬にかすった。頬からはなぜか切り傷のような傷がつき、そこから血がポタポタと垂れた。よく見ると腕にもかすり傷ができている。
「余裕はダメだね。」
「確かにな。俺も気を抜いたら焼かれてしまいそうだ。」
サキが追い詰めているはずなのに追い詰めている感じがまるでしない。
これも栄次の武人としてのテクニックなのか。なんとも居心地が悪い。
サキ本人もいまいち本気になれていない。
それ故、この戦いが何なのかわからなくなってきた。
凄く中途半端。
お互い本気で殺し合いをしようとは思っていない。
むしろ、怪我なく済まそうとしている。
サキには『お母さんを止めたい』という感情と『お母さんの好きなようにやらせたい』という感情があるため、あまのじゃく状態だ。
「ねぇ、あんたさ、あたしと遊んでいる気なのかい?」
「それは考えられんだろう。少しでも気を抜いたら俺は殺されてしまうのだからな。」
「……。そうかい。」
サキは一度本気の力をぶつけてみようと思った。
この太陽神としての不完全な力をぶつける事によって何か変わるわけではないだろう。
だが、サキはぶつける場所がほしかった。栄次ならばおそらく死にはしないだろう。
「雰囲気が変わったな……。」
「あたし、太陽神と呼べない神だけどけっこう強いと思うよ。」
「だろうな。」
お互い顔を引き締めそれぞれの構えをとった。




