明かし時…2ヒストリー・サン・ガールズ9
記憶はまた風に流れて消え、今度はだいぶん後だと思われる記憶が流れた。
今とさほど変わらないサキ、それから時神のアヤ、栄次、そして未来神だと思われる男がサキの横に並んでいた。
「……これは……いつの記憶なのでしょうか?」
「……つい最近だよ。その時神達は壱の世界での彼らだ。」
ナオの疑問を解消するようにサキが小さく答えた。あまり思い出したくない記憶のようだった。
「壱の世界での彼ら……ですか。そういえばサルさんが栄次に壱の世界では共に戦ったとかおっしゃっておりましたね。」
ナオが話す間にも記憶は流れていく。鎖につながれたアヤメがぼんやりと浮かび上がった。アヤメの外見はもう何十年もたっているのにも関わらず、まったく変わっていなかった。そのアヤメに向けて罪状を告げる時神達。
この世界は沢山の神、人間が助け合いながら存在している。ただ、権力だけで相手をひれ伏せながら太陽神の上に立ってもそれを他の神が許さない。アヤメは恐怖で太陽を支配していた。アマテラス大神の力を凶器に使い、ほかの太陽神達が逆らえなくしていた。
それを人間の時間管理をしていた時神達が制した。彼女は人間の価値観を無視し、この世界から外れようとしていたからだ。
完全に外れてしまった場合、彼女を助ける術がない。この世界から拒絶されたら死んでからも彼女は弐(夢、霊魂の世界)にすらも行けずにどうなってしまうかもよくわからない。
時神達はそれを心配していた。
「人間の時間管理を越えてしまった人間か。そして神になろうとした人間……。」
壱の世界にいる栄次が小さくつぶやいた。
「時間の鎖によって裁かれるというわけね。」
壱の世界のアヤも落ち着いて鎖にまかれたアヤメを見ていた。
その中、記憶中のサキがアヤメに苦しそうに言葉をかけた。
「やっぱり人間には神の力は異物なんだ……。お母さんを狂わせたのはアマテラスだよ。」
「あなた、いつからそんなに口が悪くなったのかしら。」
アヤメはサキを睨みつけた。憎しみか怒りかが表情に出る。
「お母さん……鎖の締め付けが強くなっている事に気がついているかい?」
「!」
アヤメはサキの言葉で気がついた。自分の力がじわじわと抜けていく感覚がアヤメを襲った。
「何よこれ!私はアマテラスなのよ!」
アヤメはサキに鋭い声で叫んだ。
「お母さんはアマテラス大神じゃない。アマテラスを憑依させた巫女。人間。お母さん、いい加減気がついてよ。」
「私はアマテラスよ!時神を消して人間に太陽を拝ませるのが使命なの!」
叫んでいるアヤメをサキは呆れた目で見つめた。
「お母さん、太陽神の誰もがそんな事思ってないんだよ。」
「思っているわ!だから皆私に従った!私はアマテラス。私の言った事がすべて。」
そう言っている間に若い顔つきのアヤメから若さがなくなっていく。顔にしわが増え、いままで生きてきたはずの年数の歳に戻った。時神が時間の鎖を巻き、アヤメを正常の状態に戻した所だった。
「ごめん。お母さん、いままで間違った道を歩ませちゃって……。」
「触るんじゃないわ!」
サキはアヤメを抱きしめたがアヤメは拒絶した。サキはこんな状態で親の愛なんて感じられるわけなかった。
……お母さんは本当の神になりたかった。なれない事に気がついていた。あたしが……本当は生まれた時から太陽神だったって事が許せなかったんだ。あたしは何の苦労もなく神になったんだから恨まれてもしょうがないか。
そしてお母さんはきっとアマテラスを憑依させすぎて少しおかしくなっちゃったんだ……。
そう、そうだよ。……アマテラスを憑依させすぎたんだ。きっとそれが原因なんだ。
だからお母さんは……。
サキは目からこぼれる涙に気がつかなかった。なんで泣いているのか気がつきたくはなかったが気づいてしまった。
……あたしはお母さんに愛されてなかったんだ……。
「……サキ……さん……。」
ナオは茫然とサキを見つめていた。
「……もういいだろう?あたしはね、アマテラス大神の力を沢山持っているけど、すごくほしかった力じゃないんだよ。まあ……今はもうお母さんの代わりに太陽を活性化させようと頑張る方面に頭がいったから前ほどのダメージはないけどねぇ。ただ……あの時はちょっと悲しかったね。」
サキは苦しそうに微笑んだ。
「そうですか……。ですからあなたには太陽神としての歴史がないのですね。その代わり、アマテラス大神の歴史が残っていたというわけですか。」
ナオは静かにサキの瞳を見据えた。
サキは一瞬だけ悲しい顔をしたがすぐに元のサキに戻った。
「で?気は済んだのかい?じゃあ、あんたらを捕まえないといけないね。あんたらは暁の宮のあたしの部下を傷つけた上に業務に支障を出させて……ああ、あとあれだね。最初の罪、立花こばるとの件。」
サキの睨みが一層強くなり、瞳がオレンジ色に染まる。サキの輝かしい雰囲気は同時に厳かな神力を出し、あまりの力強さにナオ達は一歩も動けなかった。
「……ナオさん……。やっぱ、俺達はすごい神にちょっかいを出しちゃったみたいだね。……ど、どうするんだよ……。」
ムスビが震えながらナオに目をやった。ナオも先の事を考えておらず、冷汗を流しながら固まっていた。
「こ、これはまずいです。サキさんの力がこれほどまでとは……。」
ナオが小さくつぶやいた時、ムスビとナオを庇うように栄次が刀を構え、前に出た。
栄次の頬からも冷汗が流れていた。
「ん?ああ、あんたは時神過去神、栄次だね。……知っているよ。」
サキは燃え盛っている剣を栄次の目線に合わせた。
サキは壱の世界で栄次と接触していた。陸の世界では会ってはいないが太陽神は壱と陸を交互に回っているので陸の世界の栄次の顔を知っていた。
壱の世界での話は別の話なのでここでは省く事にする。
「……悪いけど、ここまで暴れたんじゃあ救いようがないねえ。あんた達を今すぐに捕まえて高天原へ送るよ。」
「そ、それは困ります……。ムスビ、栄次、とりあえず逃げますよ!」
ナオはサキの神力に怯えながらもなんとか一歩ずつ退き始めた。
「……逃がさないよ。」
サキが素早く剣を振るった。剣からは勢いよく炎が上がり、ナオ達の退路を断った。
「うわあっ!あちちち!」
ムスビが情けなく叫んでいる間、ナオは栄次の影に隠れながら逃げる術を探していた。
……もう一度……オオマガツミ神を……。
ナオは考えている暇はないと躊躇いもなくオオマガツミ神の巻物を手から出した。
「サキさん……いきなりご無礼をいたしました。申し訳ありません。」
ナオは再び深くお辞儀をすると巻物を読んだ。
……オオマガツミ神……厄災神。
「……うぐっ!?」
またも真っ黒な世界が床に広がり、厄災神の力がサキと照姫を苦しめた。
サキは特に希望側の力が強いため、真逆のこの力には他の神々以上に苦しんでいた。
「なっ……なんだい……これは……ううっ!」
「ご、ごめんなさい。サキさん。……これで……にげ……。」
ナオは最後まで言い終わる前にその場に崩れ落ちた。
「ナオさん!」
慌ててムスビがナオを抱きかかえた。
「ナオさん!ナオさん!」
ムスビの呼びかけにナオは全く反応しなかった。ナオは自分の神力以上の力を巻物を通して出してきた。故に体力の消耗が激しく、意識を失ったようだった。
「ムスビ、ナオを抱えろ。逃げるぞ。この厄災神の力はおそらく長くはもたない。」
「わ、わかった!でもこっから出ても現世に帰れないんじゃないか?」
「そうかもしれぬが……とりあえず、外へ出るぞ。」
「わ、わかったよ。」
ムスビはナオを抱えると「あちち!」と言いながら炎を飛び越えて走って行った。
それを見届けてから栄次も走り出した。
「ま、待ちな!畜生……なんだい?この力は……。」
「サキ様、動いてはいけません。お体に触ります。」
ナオ達を捕まえようと焦るサキを照姫が慌てて制した。そんな様子を見ながら栄次は一言「すまない。」とつぶやいた。




