明かし時…2ヒストリー・サン・ガールズ7
ナオ達はしばらく廊下を進み、階段付近までやってきた。上に上がるための階段の目の前にサルと照姫がいた。
「……ここまで来てしまったでござるか……。やたらと暴れていたようでござるが……。」
サルは困惑した顔でナオ達を見つめた。サルは手に太陽の霊的武器である剣を持ち、後ろにいる照姫を守っている。
「あなたがここにいらっしゃるという事はこの上にサキさんがいらっしゃるという事ですね。」
ナオはまっすぐな瞳でサルを見据えた。
「……照姫様……上へ……。ここは小生が食い止める故……。」
「サル……。」
サルの後ろにいた照姫の表情は怯えていた。ここまで来る事ができると思っていなかったようだ。
「照姫様。上へ逃げるのでござる。」
サルの厳しい目つきと声を聞き、照姫は身体を震わせながら階段を上って行った。
「……こちらはしっかりと招いたはずでござる……。そちらが罪に問われるかもしれぬ事柄を丁寧に説明申し上げたのにも関わらず、攻撃を仕掛けるとは……。」
サルは怒っているようだったが剣の構え方は冷静だった。
「私はサキさんに会いたいと申したはずです。私達がしたことを正当化するつもりはありませんけれども歴史の隠蔽が行われているとしたら私は黙っていません。」
ナオはサルと戦うつもりだった。どうせ話し合いをしても状況は変わらない。
ナオは手から巻物を出現させる。
……加茂別雷神、雷神!
ナオが巻物を読んだ刹那、雷がサルを襲った。サルの動きは素早く、雷を軽やかに避け、剣をナオに向けて振りかぶった。栄次が刀を抜き、ナオの元へと向かったが間に合いそうになかった。
「ナオさん危ない!」
その時、ムスビが冷汗をかきながらナオを後ろへ引っ張った。ナオの鼻すれすれをサルの剣が凪いだ。
「む、ムスビ、助かりました。」
ナオの表情も心なしか青かった。
「……ここまでやった以上、小生は手加減などしないでござるよ。」
サルの鋭い瞳がナオを突き刺した。
「わ、私もここまでやってしまった以上、後には退けないのですよ。」
ナオは肩で息をしながら言葉を返した。
「お互いに退けないという事でござるか。」
サルは再び首謀者のナオを狙って攻撃を仕掛けた。しかし、これは栄次の刀で弾き返された。
「白金……栄次……。壱の世界ではお世話になったのでござるがな……。陸だと敵……でござるか。」
「……?何を言っている……。」
「何でもないでござる。」
サルは栄次の問いかけに答える様子はなく、剣を振りかぶった。栄次は素早くサルの剣技を受け止めた。
しばらくサルと栄次の攻防戦が続いた。
「ナオさん?あのサルの歴史は大丈夫なのかい?」
ムスビが袖で汗を拭いながら重たい息を吐いているナオに尋ねた。
「……重要な歴史は持っておりませんがあのサルはもうひとつの世界、壱の世界の事情を知っているサルです。
壱では彼は壱の世界の栄次と共闘しているようですね。サキさんと世界の時を守るために……。アヤさんも協力しているようですよ。まあ、これは深く知る必要もないでしょう……。」
「もう歴史を見た後だったのか……。ナオさんいつの間に……。」
「彼らの表の歴史を知る事は簡単です。」
「そ、そう……。」
栄次とサルの戦闘を怯えながら眺めながらムスビはとりあえず返事をした。
ムスビがこれからどうするかを小声で尋ねようとした時、足音がすぐ近くでした。
「ムスビ!」
ナオが突然ムスビを突き飛ばした。
「うぐっ!?」
炎の揺らめきがムスビの視界に入った。ムスビとナオは体勢を崩し倒れると足音がした方向を向いた。
「!」
目の前にエンが立っていた。
「……貴方達を捕縛する。」
「……な、ナオさん……。」
エンの鋭い瞳に完全に委縮しているムスビは怯えた目でナオを見据えた。栄次はサルとの戦闘でこちらに来ることができない。
それを一瞥したナオは深く深呼吸すると再び巻物を出現させた。
「……これは太陽を弱らせてしまいそうなので使わずにいましたが……仕方ありません……。私にもどれだけ負荷がかかるか……。」
巻物は禍々しい雰囲気のものだった。ナオはそれをゆっくりと読んだ。
「……っ!ま、まさかそれは……!」
エンの焦りの声とナオが巻物を読む声が重なった。
……オオマガツミ神、厄災……
巻物を読んだ瞬間にフロアが黒く染まった。
「うっ……。」
エンとサルは同時に苦しみだした。
「お、おい……これはなんだ……。」
栄次は突然苦しみだしたサルとエンを茫然と見つめていた。
「お、オオマガツミ神……です……。この厄神の力は太陽神の力とは真逆です。常に希望の太陽にはこの力は毒なのですよ……。」
「おい、ナオさん……そんなことをしたら……。」
「だ、大丈夫です……。この神の神格は破格です……。ほんの少ししか持ってこれませんでした……。はあ……はあ……しばらく彼らは動けません……。早く先に進みましょう……。」
ナオはとても苦しそうに喘いでいた。
「ナオさん……どうしてそこまで……。」
「……わかりません。どうして私はこんなにもムキになっているのか……。」
ナオはふらふらとした足取りで階段を上り始めた。ムスビは慌ててナオの肩を抱くと栄次に目配せをして歩き出した。
「まっ……待て!そ、その先は……っ。」
エンが苦しそうに栄次の着物を掴んだ。
「太陽神サキがいるんだな……?」
「あ、あの方は大切なお方だっ……。頼む……何もしないでくれ……。」
「……案ずるな。危害が及びそうならば俺がナオを止める。」
エンの必死の表情を見て栄次は静かに言い放った。そしてエンに背を向け、ナオ達を追っていった。
照姫は焦っていた。彼女はサキの代わりに会議に出ていただけであってその他に特殊な能力はなかった。
照姫は目に涙を浮かべながら自分の不甲斐なさを感じていた。
……自分の技量のなさが彼らを取り逃がし、暁の宮を危機にさらしている……。
……サキ様になんて言えばいいの?
照姫は蒼白の顔で輝照姫大神サキが休んでいる襖の前に立っていた。
「……さ、サキ様……。お、お休みの所申し訳ありません……。」
照姫は震える声で襖越しに様子を窺った。
「さっきから騒がしいようだけど、一体何があったんだい?」
襖の奥からサバサバしている女の声がした。
「て、敵襲を許してしまいました……。」
「なんだって!?」
女の声に照姫はビクッと肩を震わせた。
怯えているとすぐに襖が開いた。そして照姫を素早く中に入れた。
「さ、サキ様……も、申し訳ありません……。」
「あんたにケガはないのかい?他の太陽神、猿達は無事かい?」
ウェーブかかった黒い長い髪を持つ可愛らしい顔つきをした女、輝照姫大神サキはそっと照姫の肩を抱いた。
サキは霊的着物に身を包んでいた。赤色の着物だ。とても気品のある美しい着物だった。
「わかりません……わかりません……。ごめんなさい。サキ様……。」
「わかった。落ち着いておくれ。あんた達はあたしが守るから。……もうじき壱に行く準備をしなくちゃいけない時間だ……。それまでに今暴れている奴らをいったん外に出さないと。」
サキは怯えている照姫を優しく包むように抱くと涙を拭いてあげた。




