明かし時…2ヒストリー・サン・ガールズ5
「彼の歴史を見ます。……ムスビはそのままで問題ありません。」
「……う、うん。」
ムスビの返事を聞いてからナオはエンの記述がしてある巻物を出現させた。
「この巻物に書かれている文字は彼の表の歴史を記述したものです。重要な歴史があるとすれば裏の歴史でしょう。ムスビと私の能力で隠されている歴史が露わになります。」
ナオは手を前にかざした。すると出現させた巻物が光りだし、エンに向かって高速で飛んでいった。
「!?」
エンは驚き、栄次から距離をとったが巻物はエンを取り巻いた。
「な、なんだ……っ。これは!」
エンがもがいている中、ナオはもう片方の手をムスビに向けた。刹那、ムスビの体が光りだし、ある記憶が流れ出した。
ぼやけていた視界が明瞭になってくると先程見た美しい女性とエンが暁の宮の門の前に立っている様子が見えてきた。
……あれは……さっきの女性、やはりアマテラス大神……?
ナオはほほ笑んでいる女性をじっと見つめた。
女性はエンに何かを話している。
「……本当に行ってしまわれるのですか?」
エンが苦しそうに小さく声を上げた。
「……ええ。これからこの世界と向こうの世界は完全に分離するわ。向こうの世界は太陽神はおろか、どんなに小さな土地神だっていない。
御利益も何もかもなくなってしまった世界だけどまだ、私達を必要としているかもしれない。
そうね……私や月読、スサノオがいなくなったらこの世界は新しくなるでしょう。そうしたら、もう一度、あなた達は人間に求められる神々になるのよ。私達は向こうの世界で人を守り続けるからあなたはこちらで頑張りなさい。」
「……。そんな……アマテラス様、消えてしまわれるかもしれないのですよ!」
エンは必死にアマテラス大神を止めたが彼女はほほ笑んで背を向けた。
「大丈夫。時期にあなた達は生まれ変わる。そうしたら私が存在していた記憶は完全に消滅するわ。」
アマテラス大神は少し歩いて再び振り向いた。
「アマテラス様……。」
「そんな悲しい顔をしないで。あなたは太陽神でしょう?……そうね。そうは言っても完全に忘れ去られるのは悲しいわ。じゃあ……あなたに私の霊的武器、槍を渡しましょう。」
アマテラス大神はエンの元まで戻ると手から炎に包まれた槍を出現させ、エンに手渡した。
「アマテラス様、槍は現在、すべての太陽神の霊的武器でございます。この槍ではあなたがここにいた証明ができません。」
エンが槍を受け取りながら静かに言葉を発した。アマテラス大神はエンの悲しげな表情を見て軽くほほ笑むとまた、エンに背を向けて歩き出した。
「……大丈夫よ。槍はこれから霊的武器にはならないから……。」
「……え……?」
エンの不思議そうな表情を最後に記憶は風に流れて消えた。
「な、なんだ……?この記憶は……。」
エンは目を見開いてナオを見つめていた。エンの周りをまわっていた巻物は過去神栄次に向かって飛び、栄次の中に吸い込まれるように消えた。
「ま、巻物が消えたぞ。」
エンの横で栄次も驚きの声を上げていた。
「大丈夫です。巻物は歴史ですので過去神……つまり参(過去)の世界に帰ったのですよ。」
ナオは複雑な表情でエンを見据えつつ、言った。
「な、なんだ……私には身に覚えがない記憶だぞ!」
エンは戸惑い、ナオに向かい声を震わせながら叫んだ。
「……私もこの記憶は知りません。あの方はアマテラス大神のようです。」
「アマテラス大神だと?私達太陽神の概念的存在だぞ。本当にいるわけがない……。」
エンはアマテラス大神の事をまるで覚えていないようだ。
「……元はいたのですよ。あなた達は概念概念とおっしゃいますが……概念とはどこからきた歴史なのでしょうか?」
「……。」
ナオの質問にエンは何も答えられなかった。いままで知る必要のない当たり前の歴史だったから疑問なんて何もなかった。アマテラス大神は概念で本当はいない。
この太陽から出るエネルギーがアマテラス大神である。エンだけでなく、他の太陽神もそう思っていたのだった。
「……やはり、先に進ませていただきます。」
ナオは突然走り出した。
「あー!ナオさん待って!」
ムスビも慌ててナオを追う。
「まてっ!……ぐっ!?」
エンが槍を振りかぶろうとした刹那、栄次がエンに峰打ちを食らわせた。エンは小さく呻くとその場に崩れ落ちた。
「とりあえず、大人しくしていてもらおう。」
「ナイス!栄次!」
走り去るナオを追いながらムスビは栄次にガッツポーズをした。栄次は一つ頷くとナオとムスビを追い、走り出した。
周りの太陽神達を巻物で蹴散らしながらナオ達は階段を駆け上がり五階へと足を進めた。
「……はあ……はあ……。」
「ナオさん、大丈夫か?術を使いすぎたみたいだね。」
ムスビは苦しそうに喘いでいるナオを優しく抱きとめながら栄次に目を向けた。
栄次も太陽神達との交戦でだいぶん疲弊していた。
「こいつら一体一体が恐ろしく強い……。また大量に来られたら厳しいぞ……。」
栄次は肩で息をしながら五階へ入り込んだ。ムスビもナオを抱きながら栄次に続き五階へたどり着いた。
「待ってたよっ!エンはやられちゃったのかな……?ここから先はわちし達が行かせないよっ!」
五階に上がったら舌足らずな女の子の声が響いた。
「……子供か?」
栄次が目の前に立つ、少女を見つめた。少女は銀色の髪をしており、その髪のあちらこちらに太陽を模したアクセサリーがついていた。袖のない着物が子供らしさを出しており、どこからどうみてもお転婆な少女だった。
「子供っていうかァ……『子供の笑顔は太陽』って思った人間達が子供を模した神を作り、太陽神で豊作を願ったわけ。それがわちし。わちしは日女神っていうよ。」
銀髪の少女、日女神がにっこりとほほ笑んだ刹那、女の太陽神、猿達が四階に続々と集まってきた。
「うわー、あの銀髪の子、元気そうでかわいい~。」
大変な状況にも関わらず、ムスビは日女神をほほえましい顔で見つめていた。
「おい、ムスビ……そんなことを言っている場合ではないぞ。これはエン達男神達よりも大変だ。この階にいるのは女ばかりだ……。男達よりかは弱いが……。」
栄次は額に汗をかいていた。
「え?あ、ああ……そうだね……。よく考えればいままで女神に会わなかったな。太陽神達は普通にこの暁の宮に住んでいただけだし、俺達が勝手に暴れているだけだからこのままじゃなんかかわいそう……。」
ムスビは後ろの方にいる女の太陽神達に目を向けた。彼女達は剣は構えているものの手が震えている。先程の男神、猿達とは雰囲気が違った。
「……おそらく、男達が女達を上の階に上がらせ、待機するように指示したのだな。だから下の階の男共は上に行かせまいと躍起になって俺達に攻撃してきたんだ。」
「な、なるほど……。だから女が全くいなかったのか。ど、どうしようか?ナオさん……。」
栄次の言葉を聞きながらムスビは怯えた顔をナオに向けた。
「……ムスビ、彼女達の大半は怯えています。あなたの力が役に立つかもしれません。暴力は振るわないでください。私が見ていて辛いですから。」
ナオは肩で息をしながらムスビに目を向けた。
「わ、わかったよ……。言雨かい?ま、まあ、いいけど……なんかかわいそうだな……。」
ムスビはポリポリと頭をかいた後、雰囲気を威圧的に変え、女の太陽神達を睨みつけた。
「……どけ……。」
そして低く鋭くつぶやいた。
ムスビの一言でほとんどの太陽神達が怯えの色を濃く見せ、震えながら膝をついた。
「……ごめんね。大丈夫、何もしないからね。」
ムスビは効き目があまりに凄かったので慌てて雰囲気を消し、あやまった。
「あー!皆、大丈夫?ごめんね……。わちしだけで頑張ればよかったよね?皆は隠れているべきだった……ごめんね……。」
日女神にはムスビの言雨が効いていないようだった。日女神は立ち上がれない太陽神達、猿達を悲しそうに見つめてからナオ達を鋭く睨みつけた。
「あんた達……けっこうやるようだね。でもあちしは負けない!」
日女神は手から太陽神特有の武器、剣を出現させるとナオ達に飛びかかってきた。
素早く栄次がナオとムスビの前へ入り込み、日女神の剣を受けた。力の弱い日女神は栄次の剣技に弾かれ飛ばされた。
「うう……畜生……男達がやられちゃった今、わちししか強い太陽神いないのに……。」
日女神は小さくつぶやくと再びナオ達に飛びかかった。
栄次は素早く日女神の剣技を防ぐ。
「……っ!」
しかし、二回目に栄次の剣技を受け止めたのは鏡だった。鏡はかなり大きく、まるで盾のようだった。
日女神は鏡の盾で栄次の剣技を受け流すとがら空きの栄次の胴めがけて剣を横に凪いだ。
栄次は刀を盾に押し付けられたまま、素早く鞘を抜いて日女神の横凪ぎを受け止めた。
「鏡の盾……あの子の盾はなんだか他の太陽神達が防具として持っている盾とは違う感じがします。」
「ナオさん?」
栄次と日女神が攻撃を仕掛けている間、ナオは日女神の盾を目で追っていた。
「……この神も怪しいですね。やってみましょう。」
「ナオさん……やってみましょうってまさか……。」
ムスビが最後まで言い終わる前にナオは手から巻物を出現させた。
「歴史を覗きます。」
ナオは手を前にかざした。巻物はまっすぐに日女神へと飛んでいく。その後、もう片方の手をナオはムスビにかざした。先程と同じようにムスビの体が光りだす。
「……っ!?」
日女神は驚いて動きを止めた。そのせいで体勢を崩し後ろに落ちていった。それを慌てて栄次が抱きとめる。
「危ない。大丈夫か。」
「……き、斬られるっ!殺される!誰か……助けて……。サキ様ァ……。」
日女神は震えながら泣いていた。どうやら栄次に斬り殺されると思っているらしい。栄次は戸惑い、とりあえず頭を撫でた。
「すまぬ。……刀なんて抜いて悪かったな。」
栄次はそっと彼女を離した刹那、巻物が日女神の周りをまわり始めた。
「な、なにこれ?」
日女神が不安げな声を上げた時、ナオ達の目に再びアマテラス大神が現れた。




