明かし時…2ヒストリー・サン・ガールズ4
「……。」
ナオはしばらく黙っていた。
「な、ナオさーん……。だ、大丈夫?」
あまりにナオの反応がないので恐る恐るムスビは尋ねた。
「ナオ、大丈夫か?」
栄次もナオを気にかけて声をかけた。
「……ええ。大丈夫です。私、決めました。こんな場所に隠れていないで堂々とサキさんに会いに行きます!」
ナオは突然、きりっとした瞳でムスビと栄次を仰いだ。
「おいおい……ナオさん!いきなり何言い出すんだよ。おかしくなっちゃったのか?」
「おかしくはなっておりません。隠れていてもサキさんには会えないかもしれないのですよ。でしたら、強行突破でサキさんに会う方が手っ取り早いです。」
「だからさ、サキが動き出す壱の世界に行ってから会うって、さっきナオさんが言ってたじゃないか……。」
ムスビが慌ててナオを制した。
「……ですが……もういてもたってもいられないのです。」
「……仕方あるまい。俺はナオの意向に従う。」
栄次はナオの好きにさせる事にしたらしい。
「おい……栄次……。あー……もう……外に出てもいいけどさ、ちゃんと現世に帰れる算段はついているのかな?」
ムスビは頭を抱えつつ、ナオに重要な事を確認した。
「それは問題ありません。この巻物を見つけましたから。私は巻物から記述された神の神格を一瞬だけ体に宿すことができます。ですのでこの巻物は太陽神の記述のようですからこの巻物から一瞬だけ私は太陽神の神格を得る事ができるわけです。そうすれば門も開けるでしょう。」
ナオは自信満々に解説をした。
「……い、一応、考えていたんだね。ナオさん……。」
ムスビはナオの自信に満ちた顔を見てナオの意見に従う事にした。
「私も太陽神相手に頑張って本気を出しますので……お願いします。ついてきてください!」
ナオはムスビと栄次に小さく頭を下げた。
「もう……わかったよ。ナオさん……、最初からナオさんについてくって決めちゃったからどっちにしろ、ナオさんに従うよ……。」
「……俺はお前達の意向に従う。」
「ありがとうございます!」
ナオに乗ってくれたムスビと栄次にナオは心から感謝をした。
「ナオさん、ここから出る前にサキがいそうな部分を予測した方がいいと思うよ。」
「そうですね。私は暁の宮の最上階ではないかと踏んでおります。」
ムスビにナオは確信した顔で大きく頷いた。
「根拠はあるのかい?」
ムスビはナオの強い視線を受け止めながら尋ねた。
「ありません。」
「ないんかい!」
ナオの即答にムスビも素早く突っ込みを入れた。
「……最上階にサキがいなかった場合、逃げられる確率はあまりないぞ。最上階だからな。」
栄次は刀の柄を撫でながら静かに声を発した。
「……私は全力で戦いながらサキさんを探します。」
「なるほど。はなから逃げる気はないと。」
栄次の言葉にナオはこくんと頷いた。それを見たムスビは一人青い顔で怯えていた。
「では行きましょう!」
「ほんとに行くのかよ!」
ナオが決意のこもった瞳で栄次とムスビを見ると畳を上にあげた。ムスビの怯えた顔をちらりと見つつ、ナオは飛び上がると突然手から巻物を出現させた。
……加茂別雷神、雷神!
ナオが巻物を読んだ刹那、近くを通り過ぎた太陽神の近くに雷が走った。
「……っ!?」
太陽神の一人は驚いて身を引いた後、ナオ達に目を向けた。雷を合図に蒼白のムスビと刀を構えている栄次も畳から飛び出した。そして栄次はそのまま太陽神に攻撃をしかけた。
まさに奇襲だ。
「れ、歴史神達を見つけたぞ!……っ!」
太陽神の一人が叫ぶのと栄次がみねうちを食らわせるのが同じくらいだった。
「ナオ、ムスビ、行くぞ。」
栄次が最上階へと走り出す。ナオとムスビも何も考えずに登り階段へと足を進めた。
……イソタケル神、木種の神!
ナオはまた巻物を出現させると群がる太陽神、猿達に向けて読んだ。
どこからともなく木のツルが太陽神、猿達に巻き付き、動きを封じた。
「っく……守りを固めろ!」
太陽神の一人がツルに巻き付かれながらも上階の者に叫んだ。
ナオ達は身動きができない太陽神達を横目で見ながら階段を上がった。
栄次は刀を構えつつ、襲ってくる太陽神達の攻撃を受け流していた。ムスビはその後を蒼白な顔で駆けている。
「な、ナオさん……なかなか本気だな……。」
「捕まるわけにはいきませんから。かなりの体力を消耗しますが仕方ありません。」
ムスビがナオを一瞥する。ナオは肩で息をしていた。
「ナオさん、大丈夫かい?辛そうだけど。」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
ナオは深く深呼吸すると再び巻物を出現させた。
……天御柱神……厄災神!
台風並みの風が吹き、構えていた太陽神達を吹き飛ばした。ナオ達がこんなに暴れているというのに暁の宮はびくともしていない。暁の宮は強い霊的空間のようだ。
階段を登りきった辺りでナオは足を止めた。目の前に男が一人立っていたからだ。
「……待て。」
男は燃え盛っている槍を片手に持っていた。
「エン……。」
その男はエンだった。エンは周りの太陽神達、猿に自分の周りを固めるように言うとナオ達を睨みつけた。
「……ナオ、気を付けろ。こいつは抜きに出て強いぞ。」
栄次がエンから目を離さずにナオにささやいた。
「……。ええ。上に行くためには何とかしないといけません。」
ナオは素早く手から巻物を出現させる。
……加茂別雷神、雷神!
ナオが巻物を読むと雷が発生し、エンに向かって落ちた。
「……っ!」
しかし、エンは軽やかに雷を避けてナオに襲い掛かってきた。ナオは槍の柄で腹を強く突かれた。
「ぐうっ……。」
ナオは腹を抱えてうずくまり、ふらついたがすぐにムスビに抱きとめられた。
「なっ……ナオさん!っち、あんな思い切りやるなんてひでぇやつだな。……って……。」
ムスビがエンに悪態をついた時、エンはもうムスビの目の前にいた。炎の槍がひるんでいるナオを襲う。ムスビは慌ててナオをかばい、目を閉じた。
刹那、キィンと金属同士がぶつかる音が響いた。ムスビが恐る恐る目を開けると目の前に栄次の背中が映った。
「え、栄次!」
「勝てるかわからんがやってみよう。」
栄次は刀で槍を薙ぎ払った。エンはいったん後ろに退き、再び構えた。
「……栄次、ごめんなさい。」
「いい。お前は休んでいろ。」
すまなそうなナオを横目で見つつ、栄次は冷静にエンと対峙した。
エンが先に動いた。燃え盛っている槍先で栄次を突く。栄次はあまりの速さに怯んだが避けながら横凪ぎに刀を振るった。
エンは後退してかわしたが着物の一部がスパッと切れた。
「……。なかなかお強いな。」
エンは小さくつぶやくと槍を炎に変えて飛ばした。栄次は飛んできた炎を避けたがその後に懐に飛び込んできたエンに気が付き、刀で凪いだ。
また金属がぶつかる音が響く。エンは今度、太陽神特有の武器、剣で栄次を襲っていた。
刀と剣がぶつかり合い、お互いの腕を軽く切り裂いた。
エンはそれに怯む事無く、どこからか炎の槍を出現させて栄次に飛ばした。栄次は炎を避けたがその後ろにはムスビとナオがいた。
「……っち……。」
栄次は後ろでぼうっと立っているムスビとナオを突き飛ばした。炎はムスビとナオのすれすれを飛び遠くで激突した。栄次はそれを確認すると不安定な体勢のまま、間近にせまっていたエンの剣技を刀で薙ぎ払った。
「あ、あいつ……すげぇな……。なあ、ナオさん……。」
ムスビはナオと共に腰を落としながら栄次を茫然と見つめていた。
「え、ええ……。本気になった彼の剣術、反射神経は素晴らしいです。彼がいなければあそこで終わっていました。」
「ごめん。俺がもっと強かったらなあ。」
ムスビがナオの言葉に落ち込んだ顔で答えた。
「え?あ、い、いえ、あなたはそのままでいいのですよ。ここまでついてきていただいただけでも私はとても嬉しいです。」
「な、ナオさ~ん……。」
ムスビはナオを抱きしめオイオイと泣いた。
「それより、ムスビ、あの神、エンが槍は太陽神の呪具だと言っておりましたね。しかし、太陽神の霊的武器は剣です。なぜ、あの神だけ槍も霊的武器として出せるのでしょうか?」
「……ん?え?それは出せるからなんじゃないかな……。」
ナオの疑問にムスビはてきとうに答えた。
「いや……あの神、もしかすると何か重要な歴史を持っているのかもしれません。」
「な、ナオさん……?また無茶しようとしてるんじゃ……。」
「無茶ではありません。ムスビ、力を貸してください。」
ナオの光の入った強い瞳にムスビは「またか。」とため息交じりに頷いた。




