明かし時…2ヒストリー・サン・ガールズ3
「ふい~危なかった……。」
ムスビが震えながら言葉を発した。太陽神達の声とナオ達を探す足音が絶えず響く。
「……ムスビ、助かりました……。」
現在ナオ達は持ち上げた畳の下のスペースに入り込んでいた。ここは物置部屋のようで畳の下に物をしまえるスペースがあったようだ。畳の下にも意味があるのかないのかわからない物体が沢山しまわれている。
「ナオさん!ナオさんは無茶ばっかりするんだからさっ。俺、いい加減怒るぜ。」
ムスビは狭いスペースに膝を曲げて座っており、ナオと密着した状態で挟まっていた。
「ごめんなさい……。どうしても究明したかったんです……。サキさんに会えればムスビの能力と栄次の能力と私の力で彼女に纏わりついているアマテラス大神の歴史を見る事ができるかもしれなくて……。」
ナオは今にも泣きそうな顔でムスビを見つめていた。ムスビとナオの顔は今、とても近い。
「や、やっぱり会いたい理由はそっちだったか。……くそぅ!その顔、かわいいっ!ぎゅーってしたくなる……。くそぅ!かわいすぎる……。」
ムスビはワキワキと指を動かしている。
「ムスビ、あまり動くな。俺が狭い。」
栄次がムスビを制し、小さくつぶやいた。
「あんたとはあんまり密着したくないんだけどね……。」
「俺もごめんだ。しかし、現状は仕方あるまい……。それで?これからどうするのだ?」
栄次はムスビにかぶさるようになっているナオに目を向けた。
「そっ……そうですね……。壱の世界に行けるまでここで隠れて、壱の世界に行ったら休まれているサキさんが動き出すと思われるのでサキさんにコンタクトをとります。そしてサキさんの歴史を見たらまたここに隠れて太陽の門が開いた時に素早く滑り込んで現世に戻ります。……どうでしょう?」
ナオは自信満々に栄次とムスビを見た。
「……俺、それうまくいかないと思うんだけど……。」
「同感だ。」
ムスビと栄次は呆れた顔でため息をついた。
「……と、とりあえずサキさんに出会って記憶を見てからです。そこから捕まっても高天原裁判前に逃げ出せれば……。」
「俺、逃げる自信ないんだけど……。」
「同感だ。」
ムスビと栄次は再び深いため息をついた。
「……も、もうここまで来てしまいましたから……や、やりましょう!……そ、それと本当に色々とごめんなさい……。」
ナオは冷汗をかきながらあやまった。ナオは色々とうまくいかず、落ち込んでいるようだった。
「ま、まあ、とりあえず……うまくいかないかもだけどやってみようか。」
「……判断はお前達に任せる。」
ムスビと栄次はナオの表情を見て従う事に決めた。どうせここまできたら弁明もできないしどうにもできない。
それならばとことんやろうと決めたようだ。
ナオ達は息をひそめてしばらくその場にいた。
しばらく動かずにしていたが太陽神達にバレる様子がないので余裕が出てきたナオは近くにあるよくわからない物体を眺めはじめた。畳の下は暗いがだいぶん目が慣れてきてある程度は見えた。
「……ん?」
ムスビに覆いかぶさりながらナオは近くに転がっていた巻物を拾い上げた。
「……これは……。」
「ん?どうしたの?ナオさん。って、ナオさん、この物置の触っちゃまずいってば!そんな危なそうな巻物、どこで拾って来たの?元の場所に戻しなさい。」
ムスビが怯えながらどこかの母親のようにナオに注意した。
「ムスビ、この巻物……何かの記述が封印されております。太陽神に関しての事のようですが……。」
ナオはムスビの制止を軽く流し、興奮気味にムスビと栄次に巻物を見せた。
「……だから、封印ならさ、解いちゃいけないから封印なんだよ。ナオさん、解く気満々じゃないか……。」
「話し方、雰囲気とは似合わず、ナオはかなり大胆なのだな。」
ナオを必死で説得しているムスビを眺めながら栄次は深いため息をついた。
「この巻物が使えれば先程のように記述されている神の神格を一部使う事ができます!」
「さっきの能力ってそれだったんだ……。火が出たり風が出たり……。って、そうじゃなくてなんで使おうとしているの!俺、ダメっていったよな?」
ナオが封印されている巻物を開こうとしたのでムスビが慌てて止めた。
「……私はもしかするとこの巻物の記述を知っているかもしれません……。今、初めて見たのに知っているような気がするのです。」
「だから、ナオさん……。」
「おい、ナオの様子が変だぞ。」
ムスビに被せるように栄次が声を発した。
「……な、ナオさん?」
ムスビもナオの雰囲気に気が付いた。ナオの瞳が紅色から黄緑色に変わっており、何やら電子数字のようなものがナオの瞳に流れていた。
「……どうして……いままでこの記憶を忘れていたのでしょうか……。」
ナオは無意識に言葉を発していた。
「な、ナオさん!ナオさん!」
「……はっ……。」
ムスビに肩を叩かれてナオは我に返った。
「……ナオ、どうした?」
栄次は厳しい顔つきでナオを見据え、声をかけた。
「……わ、わかりません。……何か……私が本来持っていなければならない歴史が欠如しているような気がするのです。私はなにかとても大切な事を忘れてしまっている……。どうしても……思い出せない……何か……。」
ナオは切なげに巻物を見つめていた。
「……ではその巻物の中身を読んでみるといい。」
「おい!栄次!」
ムスビは栄次を睨みつけた。
「ムスビ、これは手がかりになるかもしれないのだ。お前達はアマテラス大神などの神が概念になったとされる歴史の究明がしたいのだろう?これは太陽にある巻物だ。アマテラス大神が関わってくる内容かもしれない。」
「だからってナオさんに危険が及んだらどうするんだよ。」
ムスビが栄次に鋭く声を発したがナオがムスビを優しく止めた。
「ムスビ、心配していただき、ありがとうございます。何かわかるような気がしますので私はこの巻物を開いてみようかと思います。」
「だから……ナオさん……。ま、まあ……ナオさんがそこまで巻物が見たいっていうなら仕方ないか。……どうせ言っても聞かないし。」
ムスビは大きくため息をついた。
「では……開きます。」
ナオは巻物に右手をかざした。巻物の封印の解き方はなぜだか知っていた。巻物はナオの神格を読み取ると何の抵抗もなく自ら広がった。
刹那、ノイズと共にナオに謎の記憶が映像化して流れてきた。
ジジ……ジジ……
はっきりとは見えないし音もうまく聞こえない。
「な……なんの歴史ですか?これは……。」
ナオは戸惑いの声を上げた。
映像は真っ白な空間を映していた。その真っ白な空間に一人の少女が不安げに立っている。その不安げに立っている少女の横には太陽の冠をかぶっている美しい女性がいた。
「本当に行くの?」
十歳になっているかなっていないか、それくらいの歳の少女が女性に尋ねた。
「……ええ。向こうの人間を見捨てることなんてできないから。」
女性はせつなげにほほ笑むと白い空間の先へと歩いて行った。
少女が立っている先からは暗い宇宙空間のようだった。女性は白い空間から宇宙空間に飛び込み消えていった。
ジジ……ジジ……
またノイズがナオの耳に入る。
少女がこちらに向かい、何かを話している。しかし、ナオは聞き取れない。
「大丈夫です。あなたはこちらにいて大丈夫ですから。」
頭から突然自分の声が響いた。
刹那、ブツンと何かが切れるような音がした。その音と共に映像は砂のように消えていった。
「……き、消えました……。あの太陽神だと思われる女性とあの少女は誰なのでしょうか……。私の声が聞こえた所からするとこれは私があの場所にいた事になります……。その場にいたのならどうして歴史を思い出せないのでしょう……。」
ナオは必死で自分の記憶を辿った。消えた女性、不安げな少女……顔の検索、神の検索をしても彼女達を思い出すことはできなかった。




