明かし時…2ヒストリー・サン・ガールズ1
赤髪の少女、歴史神ナオと袴にワイシャツ姿の青年、歴史神ムスビと総髪の侍、時神過去神の栄次は現在長い階段を登っていた。
ここは霊的太陽に行くための階段。
辺りはとても静かでナオ達が歩く足音しか聞こえない。階段は宙に浮いており、まっすぐに太陽に向かって伸びていた。
ナオ達を先導しているのは霊的太陽に住む、太陽神の使いサルと太陽神になって間もない少年である。
太陽神の使いサルは現在人型をとっており、茶色の着物に髷を結っている目の細い男になっていた。
「サルさん……この階段は一体いつになれば終わるのですか?先程からずっと歩いておりますが……。」
歴史神の少女ナオは先の見えない階段をため息交じりに仰いだ。
「もう少しでござる故、辛抱するのでござるよ。」
太陽神の使いサルはやたらと「ござる」を連発しながらナオを励ます。同じく歴史神の青年ムスビもうんざりしながら階段を登っていた。
「太陽にこれから行くっていうのにさ、全然暑くないんだな……。むしろ寒いよ。」
ムスビが疲れ気味のナオを気遣いながらサルに尋ねた。
「まあ、ここは霊的空間でござる故、暑くはないのでござろう。人が見ている太陽は灼熱でござるよ。」
サルはにこりとムスビにほほ笑んだ。ムスビはため息をつくと隣を歩いている時神栄次に目を向けた。
総髪の侍、栄次はただ黙々とムスビの横を歩いていた。
「あんたは疲れてないのか?表情がなさすぎて怖い。」
「俺は普通に歩いているだけだ。ただ歩いているだけなのに疲れるわけがあるまい。」
「いや……階段……つらくね?どんな体力してんだよ。もう。」
ムスビは息も上がっていない栄次に再びため息をついた。
しばらく歩くと鳥居が見えてきた。
「あ!鳥居です!」
「あそこの鳥居から霊的太陽である暁の宮でござるよ。」
サルの発言でナオとムスビは苦しそうに顔を歪めながら必死で鳥居に向かい足を進めた。
そしてなんとか太陽の門である鳥居を潜る事ができた。
「はい。着いたよ。お疲れさま。」
サルの隣にいた太陽神の少年はいままで言葉を発さなかったがナオ達にその一言だけ言った。
「ええと……こばるとさん……あなたも全く疲れを感じさせませんね……。」
ナオは真っ青になりながら額の汗を拭った。
「うーん……。そんなに疲れるかなあ?というか、僕はこばるとじゃないってば。僕はまだ名前をもらっていないんだよ。」
太陽神の少年はため息交じりにナオに答えた。
「……アヤさんは大丈夫でしょうか……。」
「そんなに心配ならさ、用事が済んだら見に行こうよ。」
ナオのつぶやきにムスビが元気に答えた。アヤとは時神現代神の名前である。元時神である太陽神の少年が記憶をすべて失ってしまったため、アヤはショックを受けてしまった。
「そうですね……。ここから戻るわけにはいきませんし……。」
ナオは橙のような茶色のような地面に建っている大きな天守閣を見上げた。
「ここが暁の宮か……。」
「でけぇなあ……。」
栄次とムスビもナオにならい天守閣を見上げた。
天守閣の外では門番をしているサルが多数いた。腰に剣をさしている。
「そういえば……あなたもサルなのにどうして剣をさしていらっしゃらないのですか?」
ナオは先導しているサルを不思議そうに見つめた。
「ん?小生でござるか?小生はサキ様付きのサル故、普段は霊的武器は消しているのでござるよ。」
「……輝照姫大神付きのサル……でしたか……。」
「あんた、けっこう位が上そうだな……。」
サルが歩き出したのでナオとムスビもそれぞれつぶやきながら続いた。
「じゃ、僕はちょっとやる事があるからここで。」
太陽神の少年が天守閣に入るための門の前で小さく手を振っていた。
「……うむ。『壱に向かう前に戻るのを忘れずに』でござる。」
サルは太陽神の少年に注意をすると太陽神の少年は「わかってる。」と一言言って去って行った。
「彼は一緒に来ないのですか?」
「何か用事があるようでござる故、ついてこないようでござる。実は小生もそろそろ睡眠時間、ここから先は陸勤務の太陽神が案内するでござる。」
サルは天守閣の入り口までナオ達を誘導した。
入り口には端正な顔立ちをしている赤髪の青年が立っていた。少し長い赤い髪を後ろで縛り、太陽のデザインが入っている中華系に近い着物を着ていた。
頭には太陽を模した冠がついている。おそらく太陽神だろう。
「炎天照槍神様、後はよろしくお願い致すでござる。」
サルはその太陽神に頭を下げるとナオ達を手で促した。
「よろしくお願い致します。」
ナオ達も小さく頭を下げた。
「なるほど。貴方達が歴史神か。私は炎天照槍神。霊的武器は剣だが私は普段外に出ない霊的呪具、槍を所持している。エンと呼んでくれて構わない。」
赤髪の青年はエンと名乗ると無表情のまま小さく頭を下げた。
「な、なんだか堅苦しい奴だな……。」
ムスビは小さくナオに耳打ちした。
「そうですか?私はとても堅実で素敵だと思いますよ。」
ナオがほほ笑んでムスビに答えた時、栄次が険しい顔をしている事に気が付いた。
「栄次……どうしましたか?」
「俺はなんだかまずい予感がする……。」
「え?ま、まずい予感とは……?」
「わからん。勘だ。」
栄次がつぶやいた時、エンが天守閣へ入るよう促していたのでナオ達は口を閉じてエンに従い歩き出した。




