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明かし時…1ロスト・クロッカー最終話

 結局ナオはあまり眠れなかったが神社は夜明けを迎えた。早起きしたアヤが夜明けと共にすぐさま神社にやってきた。


 「おはよう。あら?ナオはなんだか寝不足のようね。」

 アヤはナオの目元を見て首を傾げた。


 「え、ええ……まあ、少し眠れなくて……。」

 ナオは弱々しい声でアヤに笑いかけた。ムスビと栄次はもう起きていた。良く寝たのか顔はスッキリしている。


 「ナオさん、やっぱり寝られなかったのかい。だから俺が……。」

 「も、もういいです!大丈夫です!」

 ニヤニヤしているムスビにナオはきっぱり言うとそっぽを向いた。


 「……それで……この男は……。」

 栄次が呆れた顔でだらしなく眠るミノさんに目を向ける。


 「ま、まあ今回は猿が迎えに来て下さるというので別に今起こす必要はないでしょう。」


 「そうだね。起こすのも大変そうだしな。放っておこうぜ。」

 ナオとムスビがため息交じりに言った時、突然太陽から光が差した。


 「お?」


 光は徐々になくなり、代わりに鳥居と長い階段が現れた。その階段脇に灯篭がなぜか浮いている。


 階段から一人の男が降りてきた。男は頭に髷を結っていて、髪、着物、すべてが全体的に茶色だった。目は細くて見えているのか見えていないのかわからない。


 「あなた方が例の神々でござるか?」


 男は語尾に「ざる」をつけて問いかけてきた。ナオ達は一発で彼が猿である事に気が付いた。霊的動物は動物姿にもなれるが基本は人型をとっていると聞く。


 この猿も現在は「猿」なのではなく、人型表記で表す「サル」なのであろう。

 紛らわしいので人型の時の彼らを表すのはカタカナと神々の中で決まっているようだ。


 「霊史直神(れいしなおのかみ)、ナオでございます。」

 「暦結神(こよみむすびのかみ)だ。」

 「時神過去神、白金栄次だ。」

 神々はそれぞれ名乗った。


 「あ……私は……えっと……アヤよ。」

 アヤは名乗るのに慣れていなかったため、まごまごとしていた。


 「ふむ……それでは彼の事でお話があるのでついてきていただけるでござるか?」

 サルは後ろに佇む男の子に目を向けた。


 「……っ!」


 アヤの目が大きく見開かれた。サルの後ろに立っていたのは立花こばるとだった。


 「こばると君!良かった!生きていたのね!」


 アヤはこばるとを見てほっとした顔をしていた。しかし、こばるとの表情はアヤとは真逆だった。不安に満ちた顔……。


 「……こばると君って僕の事?君は誰なの?」

 「……え……?」


 こばるとから驚くべき言葉が発せられた。アヤの表情も自然と強張った。


 こばるとはあの時の学生服を着ておらず、赤と黄色ベースの着物を着ており、頭に太陽を模した冠をつけていた。


 「誰って……私はアヤ……。」


 「アヤ?ごめん、僕達……会った事あったっけ?僕は昨日に生まれたばかりの太陽神だ。輝照姫大神(こうしょうきおおみかみ)、サキ様からサルと共に彼らを迎えに行ってこいと言われたのでついてきただけだよ。……へえ、ここが現世なのか。今度サキ様に頼んで案内してもらおっと。」


 「……あなた……何言って……。こばると君……。」

 こばるとは今まで住んでいた現世を物珍しそうに眺めていた。


 「こばると君って僕はこばるとって名前じゃないんだけど……。まだ名前をもらっていないからさ、何とも言えないけどコバルトよりもオレンジとかレッドとかの方がいいなあ。」


 こばるとは楽しそうに笑った。


 いままでの記憶すべてがなくなってしまっているようだった。


 いや、記憶を無くしているというよりもまったく違う神としてこの世に突然生まれた神と言った方が正しいのかもしれない。


 アヤはなんだかわからず、震え、顔を手で覆い泣き出した。


 「……あ、あれ?どうしたの?僕、なんか変な事言った?」

 こばるとはアヤを心配そうに見つめていた。


 「やはり記憶が上書きされてしまいましたか……。アヤさん……彼はもう違う神です。違う神として生まれ変わったのですよ。ですのでもう……彼はこばるとさんではありませんし、時神でもございません……。彼は顔だけこばるとさんですがまったく別の神です。」


 ナオは自分で提案をした手前、気持ちは複雑だった。


 「何よ……上書きって……あのこばると君はもういないの?これじゃあ助けた事にならないじゃない!あなたがああしろって言ったのよ!」


 アヤは目の前の現実を認めたくなかった。ナオを睨みつけ、鋭く叫んだ。


 「……ですが……彼をあそこから救うのはこれしかなかったのですよ……。元々、彼は消えなければいけなかった神……この世界のシステムには逆らえません。この世にあるものには必ず終わりがあるのと同じです。」


 「そんなの……そんなの私は認めない……。こばると君はこばると君だわ。神がこの世に存在しコンタクトが取れるのなら……この世界ともコンタクトが取れるはず。そうしたら私はこの世界のシステムと戦ってやるわよ!」


 アヤは子供のように泣きながら叫んだ。


 「あ、アヤさん……落ち着いてください!この世界はちゃんと意味があって動いています!矛盾などが生じないようにきれいに動いているのです!この世のシステムをどうこうするのは無理です!」


 ナオはアヤの肩に手を置き、諭すように言った。しかし、アヤはナオの手を振り払った。


 「私はこの世界がきれいに動いているなんて思わないわ!こばると君は絶対に救ってみせる。この世界のシステムを変えてやるわ!」


 アヤはよほどショックだったのか捨て台詞を吐き、泣きながら走り去っていった。


 「あっ!アヤさん!」

 ナオが追おうとしたがムスビが止めた。


 「心配するなって。あの子がこの世界をどうこうできるわけがないんだからさ。……おい、そこの狐神、いい加減起きろ!」

 ムスビはナオをなだめるとミノさんを叩き起こした。


 「んむ……なんだよ?まだ夜明けじゃねぇか……。」

 ミノさんは寝ぼけながらムスビを見据えた。


 「今すぐにあの女の子、アヤを追え!そして俺達の代わりに慰めてやってくれ。」


 ムスビは走り去るアヤを指差し、静かに言った。


 「……ん?全然状況が読めねぇが……泣いている女は放っておけないな……。」

 ミノさんは寝起きだったがアヤの状態が尋常ではない事にすぐに気が付き、慌ててアヤを追い始めた。


 「……あいつ、けっこういいやつだな……。」

 ムスビは走り去るミノさんを満足げに見つめた。


 「……ふむ。お前もいい男だったぞ。」

 ムスビの判断が気に入ったのか栄次は腕を組みながら小さく頷いた。


 「そりゃあどうも。……さて、じゃあナオさん、あの子はあの狐耳に任せて俺達は俺達の目的を果たそう。な?」


 「……ムスビ。……そうですね……。アヤさんの事は気になりますが私達は自分の仕事をしなければなりません。……太陽に行きましょう。」


 ナオは若干落ち込みながら鳥居の前で待っているサルと元こばるとに目を向けた。


 「あの子はいいのでござるか?」

 「ええ。あの子の事は今は忘れてください。」


 「そうでござるか……それでは太陽へ案内するでござる。」

 サルが促し、ナオ、ムスビ、栄次は鳥居を潜り太陽へ続く霊的空間に足を踏み入れた。


 「それでは、太陽の姫君に会いに行きましょう。ムスビ、栄次。」

 「そうだね。」

 「元こばるとの件とアマテラス大神の件だな……。」

 ナオの言葉にムスビと栄次は目を合わせると大きく頷いた。


 


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