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流れ時…2タイム・サン・ガールズ14

 「この声……歴史神?」

 「うむ!」


 目の前にいきなり歴史神、ヒメちゃんが現れた。


 「天狗からは解放されたのか?」

 プラズマは救いを求めるような目でヒメちゃんを見つめた。


 「まあ、そうじゃな。あんなものはただの情報交換にすぎぬ。それで……」

 ヒメちゃんはプラズマから目を逸らすと太陽神達に目を向けた。


 「太陽神殿、あの女は巫女。つまり人間じゃ。アマテラス様をその身に宿す事ができる神童じゃった。ただそれだけじゃ。何をそこまで怯えておる。」

 ヒメちゃんの言葉に太陽神達の動きが止まった。


 「おい、どういう事だ?」

 栄次がヒメちゃんを横目で見る。


 「実はの、ここまであの女をつけていたのじゃ。

 おそらくそのままつけただけだったらすぐに見つかってしまったじゃろうがあの小さきサキが見つからぬように色々やってくれたのじゃ。

 その隙にワシはあの女の情報を……歴史を引き出した。あの小さきサキが何者なのか、サキも何者なのかいまだわからぬが……あの女だけはわかったのじゃ。」


 ヒメちゃんは太陽神に背を向け、今度はアヤ達を見た。


 「まあそれはいいとして……あの女をおとなしくさせるため、時神が必要じゃ。」


 「?」


 「あの女が何をしたいのかはわからぬ。

 じゃがアマテラス様を切り離せばその思惑は終わるじゃろう。

 残念ながら奴の人間の時の記憶までしか引き出せんかった……。


 での、アマテラス様は概念じゃ。

 概念には時間はない。じゃがそれを扱う人間の方には時間の鎖が巻かれている。


 しかし長くアマテラス様をその身に宿しているとだんだん、扱う人間も概念になってくるのじゃ。……それ故、彼女は目元がはっきりせん。

 年齢も止まっておる。


 彼女はそうしてアマテラス様とだんだん融合していき、最後は概念に成り果てる。それが目的かどうかはわからぬが、あの女が概念になっても困る。

 故、その前に時神がもう一度あの女に時間の鎖を巻く必要があるのじゃ。」


 ヒメちゃんの説明が静かな部屋に響き渡った。


 「時間の鎖……。やり方がわからんな。そういう事はやった事がない。」


 栄次は頭を捻った。

 太陽神達は時神とヒメちゃんの会話を戸惑いながら聞いていた。

 もう襲ってくる気配はなさそうだ。皆、救いの目をこちらに向けている。


 「大丈夫じゃ。時神はこの世界の秩序を無意識に守る。故、その秩序を乱す者を許すはずがない。本能に逆らわなければ女を枠に戻そうとするはずじゃ。後はそれに従えばよい。」


 アヤはヒメちゃんの言葉を聞いて先程の事を思いだした。


 いままでの自分にないくらいの強気であの女を睨みつけていた自分。怖がるはずなのになぜか怒りの感情を持った。それもなんで自分がこんなに怒っているのかわからないくらいのだ。


 おそらくこれは感情的にではなく、本能的に怒っていたのだ。


 「で?俺達はあの女をとりあえず追えばいいのか?」

 「うむ。」

 プラズマの質問にヒメちゃんは単純に答えた。


 「ところで歴史の神はどうやってこの宮に入ったの?」


 「月の宮から来たのじゃ。

 夕暮れになると太陽と月が一瞬だけ同じ世界に被る時があるのじゃ。


 月神、その配下の兎達に協力してもらい、まず夕暮れの時間、壱の世界に月が現れたと同時に門を開いてもらい、月の宮へ入る。


 太陽が陸へ消える前に月から太陽へワープできる装置を使い太陽へ侵入、多少の時間差がしょうじたもののうまく陸の世界の太陽へ顔を出せたという事じゃ。


 月から太陽へワープできる装置は兎達が最近つくったもので試運転もかねてという事で使わせてもらえたのじゃ。


 太陽と月が被る時のみ使用可能らしいがの。

 ほとんどお互い干渉がないため太陽に興味を抱いた兎が興味本位と猿に対するいたずら目的でつくっていたのが最初だったとか。


 まだ幼い少女の兎じゃった。まあ、その少女はそのことが知れ、月神達からこっぴどくお叱りを受けていたようじゃがワシは助かったぞい。」


 ヒメちゃんはアヤに向かい笑いかけた。


 「なるほどね。やっかいな兎に助けられたと……。」

 「そういう事じゃ。とりあえず、あの女を追うのじゃ!」


 ヒメちゃんは不安そうな時神達を押し出した。

 太陽神達は何も言わずに救いの目をこちらに向けながら脇へ逸れた。

 アヤ達は太陽神達に避けられながら歩き出した。


 「俺達に任せても良い事があるかわからないぞ。」

 プラズマはヒメちゃんに不安混じりの声で叫んだ。

 ヒメちゃんは勝ち誇った顔で大きくうなずいただけだった。


 アヤ達はとりあえずあの女を追いかけるべく走った。

 しかし、もう付近には女はいなかった。


 「おい、いないぞ……。早く見つけないと……。」

 「サキが危ないかもしれないわね……。」

 プラズマの続きにアヤが追加した。


 「大丈夫だ……。少し待て。」

 栄次はそっと目を閉じ、何かに集中していた。


 「ああ、そうか!ここには何百年も侍やっている男がいるじゃないか。」

 「プラズマ、少し黙っていろ。」 


 栄次は女の気配を探しているようだ。

 神の気配はなかなか見破れないが人間の気配ならば手に取るようにわかっていた。


 いままでの戦での経験が彼の神経を研ぎ澄ましていたからだ。

 襲われぬようにしきりと背後に気を配っていた事もあった。


 「あの女は巫女だ。人間だ。だから気配を感じられると思ったんだな?」

 「……その通りだが……見つからん……。」

 「見つからない?そんなわけないだろう?お前、寝てても気配には反応するじゃないか。」


 「……上だわ。」


 プラズマと栄次の言い合いを突然アヤが遮った。


 「……上?お前……わかるのか?」

 「本能に従うのよ。あなた達にはわからないの?」


 「……わからん。」

 「わかんないな。」


 栄次とプラズマは首を傾げていた。

 栄次は気配を即座に感じ取る事ができる。

 プラズマも栄次程ではないがある程度は察知できる。


 栄次やプラズマは気配を探るという能力があるため、大事な時神の能力を塗りつぶしてしまっているのだ。


 しかし、アヤにはその能力がない。


 おそらく、アヤは何も邪魔するものもなく、素直に本能を感じられたんだろう。

 

 「とりあえず、上よ!」

 アヤは栄次とプラズマの手を引き歩き出した。


 「アヤがこんなに積極的なんてな……。」

 「好きな男もこうやって引っ張るのか?アヤは。」

 「ふざけている場合じゃないの!」


 プラズマのつぶやきにアヤは声を上げた。

 なんだかこんな時なのに余計な事を考えてしまった。


 ……私は好きな男には従う方よ!……とか。


 いやいや……本当にふざけている場合ではない。


 アヤは頭からプラズマの言葉を消し、足を速める。


 「痛ててて……。乱暴だなあ。悪かった。ついて行くから引っ張るなよ。」

 プラズマはうんざりした声でアヤにあやまった。


 「今のアヤを怒らせるな。感覚が鈍るだろう。色々お前が悪い。」 

 栄次も半ばアヤの変貌に戸惑いながらアヤのフォローに入った。


 「俺だけ悪者か。ちょっとからかっただけだろ。」


 アヤはほとんど会話せずただ栄次とプラズマを引っ張り進んだ。まるで道がそこにあるかのように女の居る場所がわかった。

 そのうち、耳に時計の音がカチカチと鳴り響いてきた。


 もう何も声は聞こえない。

 感情もない。

 知らぬ間にただの機械のようにアヤは歩き続けていた。


 「お、おい!アヤ……。」

 栄次がアヤを止めたのでアヤはやっと我に返った。


 「え?」

 我に返ったアヤはさらに驚いた。自分の足元に大きなアナログ時計があり、秒針を刻んでいた。


 「何よこれ!」


 時計は物理的な感じではなく霊的な時計だ。つまり魔法陣のような形だ。

 「現代神の力がここまでとはな……。」

 栄次が特に驚いた風もなくつぶやいた。


 「な、何なの?」

 アヤはただ戸惑いながら栄次とプラズマの顔を見回した。


 「これはな……。時を乱すという禁忌をおかした人間に刑の執行を告げる時計……だな。おそらく。どこかの文献で読んだ気がする。」

 栄次はプラズマに目を向ける。


 「んん……見たことはないがたぶんそうだな。これは現代神のみ持つ能力。

 現代神は過去神、未来神を導く力がある。


 現代神はこの刑の執行者となるため、無意識にオートマチック化するんだったかな。何と言うか、いままで時間を乱す人間なんて何千年も出てないだろ?


 俺も本で読んだだけだからな。よくわからない。」


 プラズマはアヤに笑顔を見せる。アヤからすれば全然笑えない。


 「一体、どこにそんな本があるのよ!これ、私があの女をなんとかするって言うんじゃないでしょうね?」


 「いや、それはない。時神は三人で一つの神だ。俺達三人であの女を止める。」


 栄次の言葉にアヤの不安は少しなくなった。

 一人でやれと言われたら荷が重い。


 アヤはそんな何百年も生きていない。

 まだ十七になったばかりの高校生だ。


 まあ、これからずっと十七歳なわけだが栄次のように修羅場をくぐって来てはいない。


 「……。」

 栄次は不安そうなアヤの頭に手を置いた。


 「上……だったな。この階段を登ればいいのか?」

 栄次は廊下の先にあったエスカレーターを指差す。


 「行くぞ。アヤ!男がエスコートする方が好きなんだろ?」

 プラズマはアヤの手を取ると走り出した。


 「ちょっ……!」


 そのままエスカレーターを駆け上がる。走っているとアヤの不安は消えて行った。


 栄次とプラズマも感じているようだが三人で走っているのに一人のように感じる。先走る未来、その後を追うように現代が続き、その後を過去が通り過ぎて行く。

 ちょうど人間の時間軸のようだ。


 子供の頃は未来の事ばかり考え、大きくなるにつれ現実を知り、今を生きる事に精一杯になる。そして歳を取り過ぎ去った過去を懐かしむ。


 今まさにその順番でアヤ達は走っている。このまま……一体化したままどこまでも走り抜けられそうだった。


 「待ちなよ。」


 しかし、アヤ達の時の流れはこの一言で止まった。


 「サキ!」


 エスカレーターを登った先に小学生のサキが立っていた。サキはただならぬ気配を出している。


 「ごめん。こっから先は行かせらんないんだ。」

 無表情のサキをアヤはまっすぐ見つめた。


 「あなた、邪魔をするの?どうして?あの時助けてくれたじゃない。お母さんを止めるんでしょ?」


 「止めたいよ。だけどね、殺させはしない。たとえお母さんがあたしに振り向かなくてもあたしはお母さんの娘でいたいんだ。」


 サキはどうしたらいいか迷っている顔をしている。


 「殺す?なんであなたのお母さんを殺さなければならないのよ?私、殺人はごめんだわ。」


 「お母さんは時を乱しただけでなく人間から時間を奪おうとしているんだ。

 そんなお母さんを時神が許すわけないじゃん?


 お母さんは止めたいけど時神は制裁としてお母さんを殺す。お母さんはあんたらを消したいみたいだけど、もしお母さんが負けたら……。」


 サキはこちらを睨んできた。


 「お前は外見に合わずけっこう生きているだろう?神だからな。その割にはずいぶん子供じみた事を言うんだな。」

 プラズマの言葉にサキは目を伏せた。


 「あたし、外見は変わらないけど歳はまだ十七、生まれて十七年しか経ってない神。アヤと同い年だよ。太陽神は成長が遅いんだ。……もう一人のサキ、彼女があたしの外見年齢。」


 「お前が太陽神なら、じゃあ、もう一人のサキは何なんだ?」


 「あたしは今、太陽神の称号を捨てている。今はただの神。そして産まれたばかりの頃……あたしは人間だった。」

 「人間だと?」

 栄次は驚いて聞き返した。


 「栄次、今はあの女を追った方がいいんじゃないか?この子の話を聞いててもしょうがない。」

 プラズマはサキの時間稼ぎに気がついていた。


 「そうだな。進もう。」

 「ダメだ。進みたいならあたしを倒す事だね。」


 栄次とプラズマが足を踏み出した時、サキの気配が凄い勢いで広がった。


 「つ……強い……。」


 栄次の頬に汗が伝った。アヤも粟粒のような汗が噴き出してきた。


 「小娘だからって気を抜いていたら俺達が死にそうだ。」

 プラズマが銃を構えるがその手が震えていた。


 「一体、どうして人間の子がここまでの威圧を出せるのよ……。」


 「そんなのあたしが知りたいよっ!」


 アヤの言葉にサキは叫んだ。


 ……あたしが人間だったらきっとお母さんと平和に暮らせていけたんだ!


 お母さんも普通の家に生まれたら普通に生きてた!

 普通に暮らす事をどれだけ祈ったかわからない。


 神であるのに祈りを捧げている自分に悲しくなった。


 「サキ……。」

 アヤの呼びかけにサキは一言「ごめん。」とあやまるとアヤ達に襲いかかってきた。


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