明かし時…1ロスト・クロッカー17
「ええ、あなたは太陽神の神格もお持ちのようですので太陽への門を開いていただきたいのです。」
「太陽への門?俺、やり方知らねーぞ……。」
「え?知らないのですか!?」
ミノさんはナオの声にびくっと肩を震わせた。
「し、知らねーよ……。太陽なんて行った事ねーし……。」
「困りましたね……。」
ナオはムスビ、アヤ、栄次にそっと目を向けた。
「他に太陽神がいる神社はないのか?」
栄次がアヤに問いかけた。
「……この辺じゃあ、ないわね……。ちょっと遠いところにあるのは噂で聞いた事あるけど。」
「仕方ありません。そちらに行きましょうか。」
ナオがアヤの言葉を聞き、早急に決断した時、ミノさんが何かを思い出したようにのんびり声を上げた。
「あ、そういやあ……この紙なんだが……ここを訪ねてくるだろう神に渡してくれって昼間に太陽神から頼まれて……それっておたくらか?」
「太陽神からですか!……やはりお呼びがかかりましたか。それはおそらく私達です。お預かりします。」
ミノさんはナオに怯えつつも一枚の紙を懐から取り出し、ナオに渡した。
……明日、明け方に使いの猿をこの神社によこすのでその猿と共に来ていただきたい。
文はこの一行だけだった。
「ずいぶんと簡素な文章ですね……。まあ、よいですけど。明け方にこの神社にくればよろしいのですね。わかりました。では本日はここに泊まりましょう。」
「うえっ!?」
ナオの発言にミノさんから変な声が出ていた。
「ちょ、ちょっと泊まるって……。」
いままで人間だったアヤはナオの発言に耳を疑った。
「な、ナオさんー!ちょっとそれは……。」
元々神のムスビも動揺の声を上げた。
ミノさんの神社は泊まるというよりかは野宿に近い。
「実は……ミノさんからはイソタケル神の記憶が一瞬見えました。それで少し、お話をしたいと思ったのが本音です。イソタケル神は現在行方不明になったスサノオ尊の息子です。イソタケル神は健在ですが居場所がわかりません。故に情報収集をしたいなと……。」
ナオはもじもじとムスビに泊まろうと言ったわけを話した。
「や、やっぱりそういう感じたと思ったよ……。まあ、ナオさんがそれでいいっていうなら俺もそれでいいよ。ミノさんだったっけ……がいいならな。」
「……俺はお前達に従う。」
ムスビと栄次はため息交じりに賛成の意を見せた。
「わ、私はいやだから帰るわ。……じゃ、じゃあ私は明日の夜明けにまた来るわね。」
「ああ、じゃあ俺が送っていくよ。」
アヤが去ろうとしていたので慌ててムスビが追いかけた。
「アヤさん、ごめんなさい。また明朝会いましょう。それと……ムスビ、彼女をしっかりと送ってあげてくださいね……。」
ナオは軽く手を振っているムスビの背に追加で言葉を発した。
「まあ、俺が彼女を送り届けても良かったのだが……ここはムスビに任せようか。」
栄次はため息交じりに言うとミノさんをちらりと視界に入れた。
「お、おい……勝手に話を進めるんじゃねぇよ……。」
ミノさんは栄次の視線に怯えつつ、小さく声を発した。
「今夜だけ……お願いいたします!」
ナオはミノさんに丁寧にお辞儀をした。
「うっ……ま、まあ、敷地はそこそこ広いから……俺は別にいいけどな……。」
ミノさんは困惑したまま、とりあえず了承した。
ムスビが帰ってきてからナオはミノさんに色々と質問をしたがイソタケル神はおろか、スサノオ尊の事すら聞き出せなかった。ミノさんは何も知らないようだった。
「……あの一瞬の歴史は……なんだったのでしょうか……。」
「俺が覚えてないだけかもしれないぜ。」
ミノは色々と聞かれて疲れた顔をしていた。
「そうですか……。では少し、あなたの事を調べさせていただきますね。……あなたに関わった花泉姫神については覚えておりますか?」
「……知らねぇなあ……。誰だそれ?」
ナオは断片的なミノさんの歴史を検索するがミノさんは何にも覚えてなさそうだった。
「そうですか。ではまた別の方向で後ほど調べさせていただきますね。」
「はあ……もうそっちで勝手に調べてくれ。俺は疲れた。寝るぜ……。」
ミノさんは頭を抱えつつ、再び賽銭箱に横になった。賽銭箱が寝床なのか……。
「あ!ミノさん……まだお話が……。」
「ナオさん……こんなに質問したらあいつも疲れるだろ。きっと神の名前を覚えていないんだ。あいつ。だからこの神を知ってる?って聞いても名前がわからないから答えられないんだ。もう、こっちで頑張って調べようぜ。俺も疲れちゃったよ。」
ムスビは眠くなってしまったのかウトウトとしていた。栄次は刀を片手に座ったまま眠っていた。
「……仕方ありませんね……もう休むことにします。……と、いうか……こ、ここで眠るのですか?」
ナオは社外の賽銭箱前の三段くらいの階段に座っていた。
「そうだろ……。ナオさんが野宿するって言うから……。」
「……。」
ナオが言った事なのだが実際にここで眠るとなると少し躊躇いが生まれた。
「なんだ?寝られないのかい?だから止めたのに……。ミノさんとやらがもう寝てるから社内に入る事はできないぜ。こいつを起こせば社内の霊的空間で眠れるかもしれないけどね。この社を開く鍵はこいつだし。」
ムスビは賽銭箱の上でだらしなく寝ているミノさんを呆れた目で見つめた。
「……お、起こすのはかわいそうですね。わかりました。ここで眠ります……。」
「ああ、ナオさん、男ばっかで怖いんだろ?大丈夫だよ。何にもしないから。怖いなら俺が抱きしめて守りながら寝てあげようか?ん?」
ムスビはニコニコとほほ笑みながらナオに近づいてきた。
「あ、あなたが一番怖いです。ムスビ。」
「なんていうか……ナオさんはなんだかふわふわしてて抱き枕にちょうど良さそうな感じなんだよねー……。」
「そうですよね。あなたはそういう神でした。」
ナオは顔を青くしたまま、ムスビから少し離れた。
「冗談だよ。でも怖いなら俺が近くにいてあげるよ。」
「……ありがとうございます。でも……大丈夫です。おやすみなさい。」
「……そ。わかった。じゃ、おやすみー。」
ムスビはナオに優しくほほ笑むとナオから少し離れて横になった。
ナオはムスビの優しさを感じ、こちらに背を向けて横になっているムスビにほほ笑んだ。




