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明かし時…1ロスト・クロッカー15

「じゃあ、明日になったわけだし、まずはこばると君に会いたいわ。太陽神になっているはずよね?」


 アヤはそわそわと部屋を見回しながらナオを急かした。


 「え、ええ。おそらく太陽神でしょう。しかし、私達は太陽神達が住む霊的太陽に行く方法がありません。」


 「そんな!あなたがこばると君に会いに行きましょうって言ったのよ。何かないの?」


 表情が曇るナオにアヤは焦りながら尋ねた。


 「え、ええと……あるにはあるのですが……。そうですね……。この付近で太陽神の神格を持つ神がいらっしゃれば、その神が太陽への門を開いてくれるかもしれません。」


 「あるわよ。」

 アヤはすぐさま答えた。


 「え?あるのですか?」

 アヤの返答があまりに早かったため、ナオは少々驚いた。


 「階段を登って本殿までは行った事ないけど階段下に石碑があってその石碑に日穀信智神(にちこくしんとものかみ)って書いてあったわ。日の文字が入るんだから太陽神よね?あなた達みたいな姿の神がいるのかしら?」


 「ああ……日穀信智神は穀物の神……つまり実りの神ですね。ですが太陽神の神格も確かに持っているようです。私達も太陽に用があるので一緒に行きましょう?」

 ナオはアヤの手を優しく握ると歩き出した。


 「え、ええ。そうね。あなた、何で今言った神の事を知っているの?って、神様だから知ってるのは当たり前なのかしら?」

 アヤは戸惑いながらナオについて歩く。


 「私は神々の歴史を管理しておりますので検索すればすぐにわかりますよ。」

 ナオはアヤに笑いかけたが当のアヤはさらに困惑していた。


 「アヤちゃんだったっけ?ナオさんは神々の歴史を管理しているからさ、神さんがたくさんいすぎて覚えられないんだよ。だからよくわからないけど、ネットのように情報を検索してそれを引っ張り出しているんだと俺は予測しているよ。よくわからないけど。」


 ムスビがナオの説明をした。アヤは余計に戸惑い、首を傾げた。


 「か、神ってすごいのね……いろんな意味で。」


 「いや、人間の脳の処理能力もパソコンと同じシステムだと俺は思っているけどね。だから神もおんなじだよ。」


 「へえ……。」


 笑顔のムスビにアヤはかろうじて返事をすると部屋から出てマンションの廊下を歩き始めた。ナオ、アヤ、ムスビの後ろで寡黙のまま栄次もついてきた。


 外は過去へ行く前と同じく真っ暗だった。


 「とりあえず、日穀信智神の神社へ行きましょう。」

 「そうね。」

 ナオの発言でアヤがそこからナオについて追及する事はなかった。


 アヤのマンションからすぐ近くに例の神社はあった。神社は大きなスーパーマーケットの裏にひっそりと建っていた。


 「この階段を登ると社があるわよ。」

 アヤが鳥居の前にある階段を指差した。ここだけ森が残っており、街灯もなく、空は星がきれいだった。


 「ていうか、夜だったっけか?」

 ムスビが階段を登る前にナオ達に尋ねた。


 「ええ、夜でしたね。確か、時計が狂う前は六時か七時くらいでしたから。……ん?……では、と、時計は今狂っているのでしょうか!」


 ナオはムスビにのんびり答えていたがふと時計が狂っていたことに気が付き慌てて叫んだ。


 「な、ナオさん落ち着いて……。そ、そういえば時計どうなったんだ?狂ったままかな?」

 ムスビも時計が狂っていたことを思い出し、焦りだした。


 「問題ない。」

 ふと隣から静かに栄次の声が聞こえた。


 「え?」

 「俺とアヤが戻した。」


 驚いている二神を一瞥してから、栄次はうつむいているアヤに目を向けた。


 「そう……ね。戻し方がわからないはずなのに……わかるの……。わかったの……。頭の中で時計の針の音がして気が付いたら勝手に戻してた……。」

 アヤは動揺した声で言った。


 「そうですか……。あなたはもう時神という事ですね。世界のシステムがあなたを導いたのでしょう。」


 「……私はもう人間じゃないの?」


 「……あなたははじめから人間であって人間ではなかったのですよ。時神のシステムです。人々が『時神は人の生からはじまり、徐々に神になっていき、近くから人を見守っている』という想像をしたため、あなたは時神でありながら覚醒するまで人間の殻を被っていた……という事になります。ですので……。」


 ナオはどこか自慢げにアヤに語ったがアヤの表情を見て口を閉ざした。


 アヤはとても悲しそうな顔をしていた。


「その事はこばると君から聞いたわ……。」


 「ど、どうしました?アヤさん……。」


 ナオはよくわからず、アヤの顔を覗き込んでいた。それを見た栄次はナオにそっと声をかけた。


 「俺もそうだったが……いままで人として歩んできた生を全否定された気分になったのだろう。俺達時神はお前達のように最初から神だったわけじゃないからな。


……アヤもおそらく今、自分の中の時が止まっている事を実感しているのだろう。この気持ちは実感してから来るものだ。」


 「……そ、そうですか……。」


 ナオは初めから神としてこの世に存在していた。故にアヤ達の気持ちがよくわからなかったが栄次の言葉を聞いてなんとなくアヤの気持ちがわかった。


 つまり、生まれたての人間の子供が狼に連れ去れて、その狼に育てられて大きくなり、狼だと思って生きてきたがまわりから人間だと言われ突然人間に戻された……という話と気持ちは似ているかもしれない。


 「……それでこばると君は時神の生を否定されて今は太陽神になっているの?」

 「そうなりますね。」

 アヤのせつない問いかけにナオは困惑しながら答えた。


 「ま、とにかく……時計が大丈夫なら階段登ろうか?」


 ムスビは話がこじれていく予感がしたため、とりあえず太陽へ行く事を提案した。


 「そうね……。でも今、太陽じゃなくて月が出ているんだけど太陽に行けるの?」

 「あ……。」

 アヤの発言にナオ達は固まった。


 「いけないな。他の国は違うかもしれないけど日本では霊的月と霊的太陽が交互にこの世界に来ることになっているからね。今は夜だから……こっちの世界にあるのは霊的月だ。」


 ムスビは腕を組んでため息をついた。


 「何よ?霊的月と霊的太陽って……こっちの世界って?」


 「人間が見ているのは月と太陽です。しかし、神々が住んでいるのは霊的月、霊的太陽と呼ばれる霊的空間です。世界各国で月と太陽の感覚は違いますので世界各国で霊的空間も違うのですよ。日本では太陽にある暁の宮、月にある月光の宮が主な霊的空間です。」


 ナオの説明にアヤは頭を抱えた。


 「わ、わけわかんないわ。この世界っていうのはだから何?」


 「この世界は六つの世界でできていると言われております。私もほとんど知らないのですが壱、弐、参、肆、伍、陸と表記するようです。


この世界は陸の世界。もう一つ、鏡のように存在する世界それが壱の世界です。その霊的月と霊的太陽はこの世界陸と鏡の世界壱を交互に回っているのです。


ですので今は月が出ていますからこの世界陸にいるのは月神という事になります。反対に今、鏡の世界壱には太陽神がおります。」


 「……うーん……。」

 アヤは信じられないといった顔をしていた。


 「まあ、そのうちわかってくるでしょうから特に考えて生活する必要はないですよ。」

 ナオはアヤの肩を優しく叩き、ほほ笑んだ。


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