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明かし時…1ロスト・クロッカー14

 アヤはまだ不安げな顔をしていた。


 「さてと……ヒメちゃん、歴史も戻ったようですし、僕はここでお暇させていただきますよ~。」


 「うむ!ありがとうなのじゃ!」

 ヒメは去っていくイドにとりあえず手を振った。


 「お待ちください!」

 足を出しかけたイドに向かいナオが叫んだ。


 「……?なんでしょう?」

 イドは出しかけた足を戻し、振り返らずにナオに尋ねた。


 「あなたはこの件を東のワイズに報告するつもりなのでしょうが、あなたは龍神、本来ならば南にある竜宮の所属が適切なのではないですか?」


 ナオの言葉にイドは何かを考えているようだった。こちらからだと顔が見えず、何を考えているのかはわからない。


 「あなたならすべてが見えているのではないですかね?神々の歴史を見る事ができるのならば……。」

 イドは感情のこもってない声でナオに答えた。


 「……私はある程度のザックリした部分しかわかりません。あなたの歴史には不可解な部分が多いのです。あなたの歴史から……今は概念化したと言われているスサノオ尊の何かを感じました。私が興味を持ったのはスサノオ尊についてと、後はヒメさんの事です。」


 ナオが静かにイドの背中に言い放った。刹那、イドがナオ達を振り返った。

 イドは神力を威圧に変え、ナオ達を鋭く睨んだ。


 重たいものが背中にのしかかってくるような感覚がナオとムスビと栄次を襲った。


 ヒメにはその威圧が向いていなかったのか不思議そうにナオ達を見ていた。

 アヤはイドの異様な雰囲気に怯え、その場に崩れ落ちた。


 「……お前が僕と流史記姫(りゅうしきひめ)の何を知っているのか知りませんが……口を滑らすとどうなるか……今ここで教えてもいいんですよ。」


 イドは先程の穏やかな感じではなく、鋭く突きさすような声音でナオ達を震え上がらせた。主に恐怖で埋め尽くされていたのがナオとムスビだった。栄次は刀の柄に手を置いたままイドを睨みつけている。


 栄次はかろうじて立っているような状態だった。ナオとムスビはなぜか体が非常に重く、そのまま膝をつき、頭を地面に押し付けるような形をとらざる得なくなった。


 つまり、イドに土下座をしているような状態だ。


 「……か、体が動かない……。」

 ムスビは苦しそうにつぶやいた。


 「こ、これは……強力な言雨(ことさめ)……。」

 ナオは自分から滴る汗を見つめ、体を震わせた。


 「い、イド殿!やめるのじゃ!何故、いきなりナオ達にこんなことをするのじゃ!」

 近くで見ていたヒメはイドを睨みつけながら叫んだ。


 「ああ、すみません。ヒメちゃん。僕の神力が勝手に出てしまったようです。ヒメちゃんも西の剣王軍に色々と報告をしなければならないでしょう?僕と一緒に高天原に行きましょう?ね?」


 イドは先程の雰囲気を一瞬で消し、ヒメに優しくほほ笑んだ。


 「うむ……そうしたいのじゃが……彼らを元の世界に送り届けんと……。明日のワシが勢いで彼らを今日に連れて来てしまったようじゃが……ワシは明日に彼らを戻す術を知らぬ。過去には送れるが未来となると……。」


 「そこは問題ないでしょう。ここには神になりかけの時神現代神がいるのですから。彼女はまだ人間の力を持っています。歴史を動かせ、人の想像力で未来にも行ける。彼らを明日に飛ばすことくらい可能でしょう。ほら、ヒメちゃん。行きましょう?」


 イドはどこか焦るようにヒメに声をかけていた。


 「う、うむ……。確かに報告は早い方がいいのぅ……。あ、ナオ殿、ムスビ殿、栄次殿……色々とありがとうなのじゃ!ワシはここでお暇する故、後は時神現代神のアヤになんとかしてもらうのじゃ!もしダメそうじゃったらワシが戻ってくるまでそこにいるのじゃ!」


 威圧から解放されたナオ達はその場にへたり込んでいた。ヒメはそれを心配しながらもイドの呼びかけであっさりと高天原へ行く事を決めた。


 「これで剣王に褒めてもらえるぞい。それから色々と有名になっていつか父上にワシを見つけてもらうのじゃ。」


 「……ヒメちゃん……そろそろ行きましょう。」


 ヒメは切なげにほほ笑むと複雑な表情をしているイドと共にその場から消えていった。


 イドとヒメが消えてしまった後、ナオは肩で息をしながらマンションの壁に背中をつけた。


 「……あの龍神は……ヒメさんとの親子関係を隠しているのですね……。どうして隠す必要なんて……。」


 「ナオさん?今……なんて言った?」


 ムスビも肩で息をしながらマンションの壁に背中を預けた。腕で額の汗を拭う。


 「ムスビ……気づいていなかったのですか?あの二神は親子ですよ。イドさんの方は親子関係を隠したいと思っている様子でヒメさんの方は父親を知らない雰囲気でした。それにスサノオ尊も絡んでくるとは……あの二神についてはもっと調べないといけません……。」


 ナオが小さくつぶやいた時、栄次の膝ががくんと動き、片膝立ちになった。あまりにも強力な神力を浴び続け、それが突然消えたため、緊張の糸が切れたようだった。


 「だが……あの神は隙がなさそうだった。俺もあれほどの神力を提示されると何もできん。あれを調べるのは危険すぎるぞ。」

 栄次はため息交じりに言うと頭を抱えた。


 「はい……その対策は今度考えるつもりです。あれに接触するのは現状ではかなり辛いでしょう。うまく彼の歴史が見えるようになんとかしなければなりません。その前に明日に戻りましょう……。」


 ナオは栄次に言葉を返すとアヤに目を向けた。アヤは震えながら頭を抱え、隅の方でうずくまっていた。


 「あ、アヤさん……。」

 ナオはよろよろと立ち上がり、アヤのそばまで寄った。


 「な、なんだったのよ!一体!」

 「あ、アヤさん……落ち着いてください。私達を明日に戻してもらえませんか?」

 ナオはアヤをなだめ、元の時間軸へ戻すように頼んだ。


 「……明日に戻すって何を言ってるのよ!私、そんなやり方知らないわよ!もう何?もういや!」

 アヤはさらに蹲り、震える身体を自身の腕で抱いた。


 「……な、ナオさん……。」

 ナオとアヤの間に入り込もうとしたムスビを栄次が止めた。


 「やめておけ。会話は女同士の方が良いだろう。俺達が入り込んだら余計彼女は怯えてしまうような気がするぞ。」


 「そ、そっかな……。なんか俺もそんな気がしてきた。ナオさんに任せるか……。」

 栄次の静かな制止にムスビは肩を落としつつ、再び壁にもたれかかった。


 「アヤさん、何とか頑張って明日に戻してもらえませんか?それからあなたも戻らないといけません……。明日に戻れたらこばるとさんに会いに太陽まで行きましょう?こばるとさんは太陽神になっていますからおそらく太陽にいますよ。ね?」


 ナオはアヤの肩を優しく叩き、諭すように言った。アヤはナオの言葉を聞き、顔を上げた。


 「……そっか。こばると君が生きているのかちゃんとこの目で確かめないとね……。そういえばこばると君が元の時間軸に戻れるようにってこの腕時計をくれたの。この腕時計は明日、私達からすれば今日ね……に完成の腕時計なんだって。明日に完成するはずの時計が昨日にあるのはおかしいけど、これで明日に戻れるんじゃないかしら?」


 アヤはピンク色のオーダーメイドらしい腕時計をナオ達に見せた。


 「それで戻れるのならば私達を未来へ戻していただけませんか?」

 ナオはアヤの様子を窺いながら恐る恐る言葉を発した。


 「戻せるかわからないけど……とりあえずやってみるわね。」

 少し元気が出てきたアヤはとりあえず、腕時計を色々と触ってみた。


 ひっくり返してみたり、ベルト部分を触ってみるなど一通りやった後、アヤは静かに顔を上げた。


 「……ど、どうでしょうか?」

 「わからないけど……なんだかわかる気がするの。」

 アヤは複雑な表情でナオを見据えた。


 「もうここはアヤさんに任せます。とりあえず、ムスビと栄次を呼びますね。」


 ナオは少し離れたところでこちらの様子を窺っているムスビと栄次を手招きして呼んだ。

 栄次とムスビは静かにナオの元まで来た。アヤをあまり刺激しないように様子を窺っている。


 「ではアヤさん、やってみてください。」

 「で、できるかわからないわよ。」

 自信なさそうな顔をアヤはナオに向けた。


 「とりあえず……お願いします。」

 ナオのほほ笑みにアヤは戸惑いながら、感覚を研ぎ澄ますために目を閉じた。


 「ふう……やっぱりよくわからないわ。ダメね。」

 アヤはため息をつくと同時にすぐに目を開けた。


 「そ、そんな事ないようですよ。」

 ナオは辺りを見回してほっとした顔をしていた。


 「え?」

 アヤも辺りを見回す。アヤ達はなぜかアヤの部屋にいた。チラシも散らばっていない。例の時計は箱からちゃんと出ていた。


 「も、戻ったみたいだよ……?」

 「そのようだな……。」


 ムスビと栄次も突然の事で頭が回転していなかったが辺りを見回して戻ってきたことを知った。


 「え?私、目を閉じただけよ?他は何にもしていないわ。それなのに……。」

 「無意識に時神の力を使ったのではないでしょうか?なんにしても助かりました。」


 ナオもよくわからなかったがとりあえず戻って来れたことを喜んだ。



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