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明かし時…1ロスト・クロッカー13

「うっ……。」

気が付くとこばるとは苦しそうに呻き、栄次の前に跪いていた。ナイフがマンションの廊下に落ちる。


こばるとに外傷はない。ただ、こばるとが苦しがっているだけだ。


「うっ……うう……。力が抜けていく……。た、立てない……。」

こばるとは苦しそうに呻きながら小さくつぶやいた。


「それはそうだろう。お前は時神としての力を失っているのだ。そのうち、人間の力の方が強くなり、いままで止めていた時間が大きく動き出し、お前は消える。」

栄次は冷酷に言葉を発した。


「そ、そんな……。僕はまだ……。」

「いや……もう気が付け。お前は寿命なのだ。」

認めようとしないこばるとに栄次は諭すように言葉を発した。


「やだ……やだよ……。」

「こばると君!」

アヤがこばるとのそばに寄り、座り込んでいるこばるとの背中をさすった。


こばるとはアヤに力のない瞳を向けると悲しそうにつぶやいた。


「……自然の……摂理か……僕達、神も……運命には逆らえない……。この世界の生き物が必ず死ぬように……僕達、神も……用がなくなれば消えてしまう……。」


こばるとはもう座っている事もできず、そのまま冷たいコンクリートの廊下に倒れ込んだ。


「こばると君!しっかりして!二人で時神やるって約束したじゃない!こばると君!」

アヤはこばるとを揺するがこばるとの反応は薄かった。


こばるとはかすかに笑っていた。


「……本当は……わかっていたんだ……。でもちょっとだけ世界に抗ってみたかった。」

「まだ……まだ抗えるかもしれないわ!」

アヤの言葉にこばるとは何も答えなかった。


……どうしよう……。このままじゃこばると君が……。


「アヤさん!」

アヤが弱っていくこばるとに焦っていると不意にナオの声がした。


「……?」


アヤは顔を上げてナオの方を向いた。ナオは何かを叫んでいた。ナオの発言で周りの神が驚きの表情に変わった。アヤは動転している頭でナオが叫んだ言葉を反芻した。


彼女はアヤにこう言っていた。


……こばるとさんの事を考えて祈れ!と。


「ど、どういう事……?」

「アヤさんがなってほしいと思う神になるように祈りなさい!時神以外で!」


ナオの言葉にアヤは考える余裕もなくとりあえず、祈った。ふと、空に輝く太陽が目に入った。


……こばると君が輝けるように……そうだわ!


……こばると君を太陽神に!


そう強く願った時、アヤから強い光が飛び出した。その強い光はこばるとを覆い、包み、こばるとごと跡形もなく消えてしまった。


「……っ!?」


こばるとと強い光が消えた後、アヤの目の前に水色の人型クッキーのような物が浮いていた。顔と思われる部分には渦巻のペイントがしてあって体型はぬいぐるみのようだった。


「なっ……なにこれ……?」


アヤが茫然と水色の人形を眺めているとイドが大きくため息をついていた。


「はあ……北の冷林を呼んでしまいましたか……。そうですね……あなたの中にはまだ人間の力が残っているんでした。人間の信じる力が……。」


「ど……どういう事?このぬいぐるみみたいなのは……何よ!こばると君は?どこ!」

アヤはイドに向かい、慌てて叫んだ。


「まあ、落ち着いてくださいよ。説明しますから。


 ……北の冷林とは高天原北を統括する縁神(えにしのかみ)の通り名です。縁神、冷林は人の願う力に作用し、縁を結ぶ神。


 あなたにはまだ人間の力が残っていたのでその部分があなたの祈りに反応して冷林が出てきたと予想します。まったく……そこの歴史神が余計なことを言いましたから……。」


イドはムスビの後ろに隠れているナオをちらりと横目で見た。


「それで?こばると君はどうなったのよ?」


「ええ。彼はおそらく太陽神になったのでしょう。あなたが祈り、信仰したからあなただけのための新しい神として生まれ変わりました。


 ……人間が祈ればなんだって神になってしまう。反対に信仰されなくなったら消えてしまうんです。


 ……あなたの人間の力はこれから徐々に消えていくので、あの元時神はあなたの人間の力が消えない内に他の信仰を集める必要があるわけです。あなた以外の信仰心を集められないとすぐに消える事となるでしょう。」


イドは「まあ、これもありですかね。」とつぶやき、天を仰いだ。


水色の人型クッキー、冷林は一言も発することなくさっさとどこかへ行ってしまった。


アヤの願いがかなったとわかったのでもういる意味はないと判断したようだ。


「こばると君には会えるの?」

アヤは消えてしまった冷林の事を不思議がるわけでもなく、イドに再び尋ねた。


「会えますよ。太陽に行けば。……それと……まあ、僕とかヒメちゃんと暦結神は関係ないと思いますけど、霊史直神はこれから高天原会議にかけられるか、もしかすると太陽神のトップから呼び出しがあるかもしれません。」


 「……まあ、それは仕方ないので!」

 ナオはどこか嬉しそうに答えた。


 「ナオさん……なんであんた、嬉しそうなんだよ……。とっちめられるかもしれないんだぜ。」

 ムスビが隣で呆れた目を向けた。


 「ムスビ……。私達の目的は高天原の四大勢力と月と太陽に神々の歴史の確認をすることだったでしょう?普段、顔すら見る事のできない雲の上の神々と会話ができるのですよ!」


 ナオは弾む声でムスビにささやいた。


 「はあ……すげぇ度胸……。まあ、ナオさんが行くっていうのならついていくけど。」


 ムスビは顔を青くしながらとりあえず頷いた。先程から様子を窺っていたヒメが不思議そうに重大な事を口にした。


 「ああ、それからのぉ……本当に今更じゃが……なんでこの現代の時代に時神の過去神がいるのじゃ?」

 ヒメは首を傾げていた。


 「歴史が変わらない範囲で一部の彼のデータだけ現代に持ってきました。」

 「それはまあ、違法じゃないですけど、あまり良くないんじゃないですかね?」

 ナオの発言にイドは顔を曇らせた。


 「まあ、どちらにしろ、高天原の会議に出られるというのですからその件も高天原面々にお話いたします。」

 ナオは堂々と胸を張った。


 「……だからなあ……胸を張れることじゃないんだけどなあ……。なんでナオさん、偉そうなんだよ……。」

 怖いもの知らずなナオにムスビは頭を抱えた。


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