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明かし時…1ロスト・クロッカー11

 アヤ達はとりあえず、ファミレスで春野菜を使ったセットメニューを二人でつつき、ある程度お腹をいっぱいにした。


 「実はね……。」

 少し安心したこばるとがアヤにひかえめに声をかけてきた。


 「ん?どうしたの?」


 「実は神は別に食事をとらなくてもいいんだよ。僕達はこの世界に生きているわけじゃないんだ。僕達は人間から想像して作られたプログラムのようなものだからパソコンのデータと同じなんだ。」


 「あら……。そうだったの?じゃあ、こばると君はお腹がすいてなかったのね。」


 アヤはもう何を聞いても驚かなかった。驚く事が多すぎて今更驚けなくなったのだ。


 「うん……。まあ、食べなくてもいいんだけどやっぱりお腹はすくんだよね。電子機器の充電と同じ感じかなあ。高天原では皆、人間が想像した物を食べているね。その場にあって実はその場にない。想像物がデータ化されて置いてあってそれを体に取り込むみたいな感じ。はたからみると人間と同じように普通に食事しているように見える。」


 「へ、へえ……じゃあ、私もそうなるの?私、これから時神になるのよね?」

 アヤはからのお皿を店員に渡しながら尋ねた。


 「時神は人間から神に変わっていくから君の場合、まだしばらくは変わらないと思うよ。と、言っても時神の生が人間から始まるっていうのも人間が想像してできたルールなんだけどね。だから君は人間の想像から人間と変わらない仕組みにされたわけだよ。えっと、つまり今の段階でも君は人であって人じゃないんだ。」


 「なるほどね。私は人間に想像されて作られた人間って事ね。今は。」


 「そういう事だね。」

 「時神は人に見えるって言うのも人が決めたルールなの?」


 「うん。『昔から時神は人に紛れて生活をしている』って人間が決めたんだよ。」

 こばるとの言葉でアヤは神が人を支配しているのではなく、人の想像力が神を生み出していることを知った。


 「……人は考える力でルールを作り、それで自分達を無意識に縛っているわけね。」


 「ま、まあ……そう言われればそうかもしれないね。でも、この世界の人は皆けっこう楽しそうに生きているからいいんじゃないかな。それでも。」


 「そうね。人は考える生き物だもの。大脳が発達しているからね。」

 アヤはふふんと笑うとお冷に口をつけた。


 「大脳……。こ、細かい話はよくわかんないけど、そろそろ出ようか?あ、大丈夫、もう僕は君を殺そうなんて思わないから。歴史は元に戻したよ!」


 「え?あ、うん。」

 必死な顔のこばるとにアヤは戸惑いながら答えた。


 「僕、君といると……なんだか落ち着くんだ。同じ現代神同士だからかな。」

 「……こばると君……。」

 こばるとは小さくほほ笑むとそっと立ち上がった。アヤはそんなこばるとをせつなげに見つめていた。




 栄次はしばらく時神の神力とやらを探るべく目を閉じていた。

 「栄次、どうですか?」

 ナオは藁にも縋る思いで栄次に尋ねた。栄次はそっと目を開けると首を横に振った。


 「すまん。……人の気配はある程度わかるが……神となると……。殺気などのむき出しの感情ならば神だろうと人だろうとわかるのだが。もしかすると近くにいないのかもしれぬ。」


 栄次はすまなそうに下を向いた。


 「そうですか……。では少しだけマンションの廊下で彼らが帰ってくるのを待つ……というのはどうでしょうか?戻ってくる可能性にかけるのです。」


 「そうだね。どうしようもないし。そのうち、あの子達が近くを通ったら栄次レーダーが発動するかもしれないし。」

 ムスビは隣で佇む栄次に笑いかけた。


 「……お前達はお気楽だな……。」

 栄次は呆れた顔をしていた。


 「ま、とにかくじゃ。アヤの部屋にいるよりも外に出て待ち伏せしようぞ!そちらのが見つけやすいかもしれぬからの。」


 ヒメに言われ、ナオ達は頷きあうとアヤの部屋を出ていった。

 

 ナオ達が外に出た時、帰ってきたアヤとこばるとに遭遇した。

 「あっ!見つけました!」


 「アヤ!逃げよう!」

 ナオの叫びとこばるとの声が同時にマンションに響いた。


 こばるととアヤは踵を返し、走りだした。


 「ま、待ってください!」

 ナオが引き留めようと追いかけた刹那、逃げるこばるととアヤの前に銀髪の若い男が立ちふさがった。


 「……っ!?」

 こばるととアヤは驚いて立ち止まった。


 パーマがかかった銀髪の若い男は着物姿だった。ムスビが先程見た、あの走り去る若い男に似ていた。


 「そこまでですよ。」

 銀髪の男がこばるとをまっすぐ見つめ、静かに言い放った。


 「お前、やっぱり龍雷水天神(りゅういかずちすいてんのかみ)かよ。」

 ナオの隣にいたムスビがため息交じりに言った。


 「……あなた……僕を知っているのですか?ああ、神の歴史を管理する神々ですか。それは知っていますよね。僕の事。」


 銀髪の男はムスビ達に柔らかくほほ笑んだ。アヤとこばるとはなぜだか銀髪の男を前にまったく動けなくなっていた。威圧のようなものを感じる。


 「ああ、一応知っているよ。お前は龍神なのに高天原南の竜宮におらず、なぜか東のワイズ軍にいるんだよな。この時神の件はお前ら東のワイズ軍が関与する内容じゃないぞ。」


 ムスビの影に隠れているナオを庇いながらムスビは威圧的に言葉を投げた。

 銀髪の男はムスビの威圧を受け流しながら平然と答えた。


 「あなた達は確か西の剣王軍ですね。この件は西の剣王軍の管轄でもありませんよ。時神は北の冷林軍に所属しておりますのでこの件に関与できるのは冷林軍か時神くらいでしょう。」


 普通に銀髪の男と会話をしていたムスビは一つ、おかしなことに気が付いた。


 「ちょっと待て。なんでお前がこの件について知っているんだよ?今は昨日なんだぞ?」


 「何をわけのわからない事を言っているのです?僕はただ、そこのヒメちゃんが急に走り出して行ってしまったのでついてきただけですよ。まあ、その前から歴史が動いていたのは知っていましたから僕も元凶を捕まえようと動いていましてね。」


 銀髪の男の発言でムスビは首を傾げた。


 「じゃあ、あんたは昨日のあんたなのか?」


 「ですから……昨日昨日とあなたは何を言っているのです?あなた達は明日から来たとでも言うのですか?未来から来たと?」

 銀髪の男はナオ達が未来から来たことを知らないようだ。


 「なんであんたはこの子を捕まえに来たんだ?」

 ムスビは先程から黙り込んでいるこばるとを見つめ尋ねた。


 「ヒメちゃんのためですよ。あと、西の剣王軍の中で唯一、彼を裁けるのは人間の歴史を管理しているヒメちゃんです。西の剣王軍のヒメちゃんか時神か時神が所属している北の冷林軍かが彼を裁けるのです。僕は東のワイズ軍ですがヒメちゃんの手助けをしただけですよ。別に裁こうなんて思っていません。」


 「ふーん。ずいぶんとヒメちゃんに肩入れしてんだな。」

 ムスビは銀髪の男に目を細めた。


 「イド殿はワシのお友達じゃ!」

 ムスビの横でヒメが元気に声を上げた。


 「……イド殿?」


 「彼は井戸の神としても信仰を集めておる。故に皆、彼の事をイドさんと呼んでおるぞい。」

 ヒメはムスビが眉をひそめていたので笑顔で解説した。


 「そ、そうなんだね。で?友達なの?」

 ムスビはヒメに優しく問いかけた。


 「うむ!」

 ヒメちゃんはまた元気に答えた。ヒメの反応にムスビは困惑した表情を浮かべ、銀髪の男、イドに再び目を向けた。


 「……まあ、大方、西の剣王軍か北の冷林軍に借りを作るようにワイズにでも言われたんだろ。あんた。」


 「どう思われてもかまいませんけどね。」

 納得のいっていないムスビにイドは不気味にほほ笑んだ。


 その中、ナオだけは何か違和感を覚えた。というかナオは知っていた。ナオは神々の歴史を管理している。イドとヒメがもっと深く、切り離せない関係であることをナオはわかっていた。


 「イドさん……違いますね……あなたとヒメさんは……。」


 ナオが言いかけた時、タイミング悪くアヤが叫んだ。


 「なんだかわからないけど、こばると君には手を出させないわよ!」

 アヤはこばるとを庇うように立ち、ナオ達神々を鋭い瞳で睨みつけた。


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