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明かし時…1ロスト・クロッカー9

 アヤは再び行われた事故の質問攻めから脱出し、やっとのことでファミレスの椅子に腰を落ち着けることができた。


 「はあ……なんでこんなに私……死にかけるのかしら?」


 アヤは独り言を言いながら向かいに座っているこばるとを見つめた。こばるとはどこか苦しそうに目を伏せていた。


 「……ねえ……こばると君……。突然どうしたの?大丈夫?……な、何でも好きなもの食べていいから元気出して。」


 アヤは急に元気のなくなったこばるとにメニューを差し出し、柔らかくほほえんだ。


 「アヤ……。僕はね……僕は実は……。」


 こばるとはアヤに何かを言おうとしていた。店員がお冷を置いて去っていくのを見つめるとすぐにまた口を閉ざしてしまった。


 「ん?どうしたの?なんか悩みでもあるのかしら?悩みがあるのなら相談に乗るわよ。」

 アヤの優しい声にこばるとはさらに顔を歪ませた。


 「……。」


 「どうしたのよ?さっきまでの元気は?お腹すいているんでしょ?ほら、メニュー。」

 アヤがメニューを再び差し出した時、こばるとが小さく声を発した。


 「僕は……やっぱり君を殺せない……。殺したくない……。」

 「……何?」

 アヤはこばるとが発した一言に首を傾げていた。


 「でも僕は……僕は死にたくない……。」

 「……だから何を言っているのよ?」

 こばるとはアヤの戸惑った顔を見つめた。


 「いままで起きた事故は僕が歴史をいじって動かしたんだ。僕は江戸後期くらいから出現した君をそこら辺の事件事故の歴史を動かしてずっと殺そうとしていたんだ。全部、運がいいのか、かわされちゃってさ。


君は……なかなか時神として覚醒しなくて何度も同じ顔で転生しているんだよ……。何度も何度も歴史を動かして君を殺そうとした……。でも、君は生き残ったままだ。」


 「ちょっと待って……。何言っているかわからないわ!話が飛びすぎよ……。」

 こばるとの暗い瞳を見ながらアヤはさらに困惑した顔で近くに置いてあったお冷に口をつけた。


 「……君はこれから時神になる神……向上異種、別名タイムクロッカー。反対に僕はこの世界から消える時神……劣化異種……別名ロストクロッカー……。」


 「ろすと……くろっかー……?」


 アヤの動揺はさらに大きくなり、こばるとの瞳は徐々に光がなくなっていった。


 「ねえ、アヤ、君は死んでくれって言ったら死ぬ?」

 こばるとは苦しそうな表情でアヤに尋ねた。


 「何言っているのよ……。そんなことを言われたって死ねるわけないでしょ。」

 アヤはまったくこばるとの心情が読み取れなかった。だいたい、何を言っているのかよくわからない。


 「そう。だから僕は……君を殺さないといけないんだよ……。」


 「ちょ、ちょっと待ってよ。理由を聞かせてちょうだい!あなた、さっきからわけわからないわよ。」


 「僕達時神の仕組みはね……自分よりも強い力を持った時神が生まれた時に弱い方が消滅する仕組みなんだ。僕は君よりも力が劣っている……。だから僕は死なないといけない。


でもね……僕は死にたくないんだ。これから時神になる君を殺せば僕はずっと時神として生きていられるはずなんだ。でもね、僕がいつまでも生きていると他の時神が殺しにくるかもしれないんだ。」


 こばるとの追い込まれているような表情でアヤは冗談だと笑い飛ばせなかった。


 「……それって選択肢は私が死ぬかあなたが死ぬかしかないの?そういう極端な選択だけじゃなくて二人で生きる道を探すって選択はないの?」


 アヤは戸惑いながらこばるとに話を合わせた。


 「……それは無理だと思うんだ。」


 こばるとはほぼ即答した。アヤは困惑した顔のまま、こばるとに言い放った。


 「無理じゃないわ!やってみないとわからないでしょ!大丈夫。私はあなたに味方をするから。」


 アヤは向かいに座っているこばるとの震える手にそっと手を置いた。こばるとはとても悲しそうな顔をしていたがなんだか安心しているようにもみえた。


 「……。君は本当に優しいんだね……。やっぱり人を殺した事なんてない僕にこんなことは無理だ。僕が生きたいから君を殺すなんておかしな考えなんだ。」


 「こばると……君。」


 こばるとは再び目を伏せた。理由はまだよく理解していなかったのだがこばるとの瞳から涙が零れ落ちるのを見てアヤはなんとかして彼を助けてあげたいと思った。


 「こばると……君……。」

 「僕、死にたくないよ……。助けて!助けてよ!」

 絞り出すような声を出し、こばるとはアヤの手を握り返した。


 「……大丈夫よ。二人とも生きられる方法を探しましょう?ね?こばると君。」

 「……アヤ……ありがとう。」


 こばるとは小さくアヤにお礼を言った。アヤには目の前にいる彼がとても小さくか弱い存在に見えた。

 


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