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明かし時…1ロスト・クロッカー7

 マンションの廊下、アヤの部屋の前でナオは何回かチャイムを鳴らした。


 「……反応が……ありませんね……。家に入っていくところまで見たので家にいるはずなのですが……。」


 「……待て。時神の力を濃厚に感じるぞ……。」

 ナオと一緒についてきた寡黙な侍、栄次が静かにナオに言い放った。


 「時神の力……!?アヤさん!いらっしゃいますか?アヤさん!」

 ナオはドアを叩き、アヤに直接呼びかけた。しかし、アヤの返答はない。


 「さきほど家に入って行ったのだ……いないわけがない。だが……この扉の先から誰かがいる気配がない。」


 「アヤさん……さきほどの男性と何か関係が……。」

 ナオは栄次の言葉でドアを叩くのをやめた。


 「……やはり、先程、あの路地で見た男は時神だったか……。」


 栄次は腕を組み、男の身なりを思い出す。小柄な体で学生服を着た少年……。栄次の時代では学生服というものが存在していない。栄次からすれば洋装をしている少年だ。


 ナオはダメもとでドアノブを握った。


 「……あ、あら?鍵がかかっていなかったようですね……。」

 「開いていたか……。どうするのだ?入るのか?」

 栄次に問われ、ナオは眉間にしわを寄せた。


 「……人様のおうちに勝手に入り込むのは私はしたくありませんが……ここは仕方がありません……。入ります。アヤさんが心配ですので。」


 「そうか……。では俺も入る事にしよう。」

 ナオと栄次は玄関先で靴を脱ぎ、物音ひとつしないアヤの部屋へと入って行った。


 部屋の電気はついていた。


 「アヤさん!」

 ナオがアヤの自室、時計が沢山ある部屋に顔を出した。そこにはアヤの姿はなかった。


 「……アヤさん……。これはずいぶんとおかしな状態になっていますね。」

 ナオは部屋の様子を見て小さくつぶやいた。


 電気がついており、真ん中のちゃぶ台にまだ食べていないおにぎりが置いてある。


 先程までここにいたという雰囲気とぬくもりが残っていた。


 「つい先程、今の今までここにいたようだ。床の一部が温かい。」

 栄次がちゃぶ台付近の床の一部に手を置いていた。


 「突然消えてしまったという事ですか?アヤさんもあの男の子も?」

 「そういう事になる。」

 「時神が時渡りをした可能性は……?」

 「……時神は原則、時を渡れない。俺も時は渡れないぞ。」

 栄次の答えにナオの表情が青くなっていく。


 「で、では……なぜ突然消えてしまったのですか?」

 「……可能性があるとすれば……あれか。」

 顔色を悪くしているナオに栄次は鋭い瞳を向けた。


*****


 アヤとこばるとはアヤの部屋にいた。

 「……?」

 アヤは状況が理解できず、何も言葉を発することができなかった。


 「ふーん。昨日の君の部屋に来たみたいだよ。」

 「……?何にも雰囲気変わってないじゃないの。」


 「そりゃあ変わらないさ。だって昨日の君の部屋だもの。変わっているとすれば……あれだけかな?」

 こばるとは不安げなアヤにほほ笑みながら目の前の箱を指差した。


 「……っ!これは昨日買った時計の箱じゃないの。捨てたはずだけど……。」

 「だからここは昨日の君の部屋なんだよ。」

 こばるとはため息をつきながらその場に座った。


 「……昨日に戻ったって事なの?なんで?どうして?こんなこと……あるわけないわ。」

 アヤは動揺し、部屋をウロウロと歩き始めた。


 「ちょっと落ち着いてよ。だから僕は時の神で時を渡れるんだよ。」

 こばるとが頭を抱えているアヤをなだめつつ、座るように言った。アヤは目を忙しなく動かし、戸惑っていたが素直にこばるとの横に座った。


 「冗談よね……。」

 「冗談じゃないよ。あー、おにぎり向こうに置き忘れちゃったね……。」


 よくみるとおにぎりどころかちゃぶ台もない。アヤは普段、ちゃぶ台をしまっている。

 床に散らばっているまだ片づけていない安売りのチラシもすべて昨日のものだった。


 「……本当に一日ずれている……。あなた……。」

 アヤは恐怖に支配された顔でこばるとを見つめた。


 「そんなに怯えないでよ。それよりもお腹がすいたよ……。おにぎりは置いてきちゃったし……この辺のファミレスにでも行こうか!」

 こばるとは笑顔でアヤを一瞥した。


 「……行こうかって……私のお金よね……。だから。」

 アヤは震えながらもかろうじて声を出した。


 「お願い!」

 「……まったくしょうがないわね。もう一度おにぎりを買うのもなんだか疲れるし……近くのファミレスくらいなら行ってもいいわよ。」

 「やった!」

 こばるとの必死の表情でアヤの恐怖感は幾分か和らいだ。


 仕方なしにアヤはこばるととファミレスに行くために家を出た。外は明るく、眩しい太陽が頭上にあった。そしてぽかぽかと暖かい。


 「あら……明るいわね。今何時かしら?」

 「お昼の十時か十一時くらいじゃないかな。感覚的に。」


 「昨日の十時か十一時って事よね?」

 「そうだね。」

 アヤはやっと冷静に物事を考えられるようになってきた。昨日に戻った事をなんとか受け入れる事ができたようだ。


 コンビニに向かう道とまったく同じ道を歩いている途中、少し心に余裕が出てきたアヤはこばるとに質問をした。


 「あなた、さっき、歴史の神に追われているみたいなことを言っていたけど何をしたのよ?」


 「……それなんだけどね、正確に言えば歴史の神と一緒にいたあの時神過去神が僕を殺そうとしているんだ。理由はちょっと言えないんだけど。」


 「……殺そうとって……物騒すぎるわ。時神って種類があるの?」

 「うん。過去神、現代神、未来神の三神がいるよ。僕は現代神。」


 こばるとがそう答えた刹那、なんだか騒がしい声が聞こえた。アヤ達は先程寄ったコンビニの少し先の交差点に来ていた。目と鼻の先にファミレスがあるがその横は工事現場だった。


 「危ない!」

 工事現場の誰かが叫ぶ声でアヤは工事現場に目を向けた。突然吹いた強風に鉄骨を運んでいたクレーン車が横転しかけて、クレーン部分がそのままアヤにぶつかってきた。


 「ひっ!」

 アヤは小さく悲鳴を上げしりもちをついた。


 ……ぶつかる!


アヤはそう思って目を強くつぶった。しかし、吊っていた鉄骨が近くの電信柱にぶつかりクレーン車は完全には倒れず、アームもアヤにぶつからなかった。


 鉄骨の二、三本は道路に散乱した。幸い車が通っておらず、投げ出された鉄骨は誰にも当たらなかった。


 「なっ……。危なかった……。こ、ここに電柱がなかったら……死んでいたわ。」

 電信柱は軽くヒビが入っていたが倒れてはいなかった。


 「アヤ……大丈夫!?」

 こばるとが震えているアヤの元へ駆けつけた。


 「だ、大丈夫よ。ケガもないし……。」

 アヤが小さくつぶやいた時、クレーン車を運転していた男性が慌ててこちらに向かって来た。


 「大丈夫かい!」

 クレーン車の運転手は顔面蒼白のままアヤに駆け寄った。


 「は、はい。私は大丈夫でした……。あの……あなたにおケガは……?」


 「ああ、俺は大丈夫だよ。いきなりあんな風が吹くなんてびっくりしたよ。クレーン車が倒れなくて良かった……。とりあえず、警察と救急車を呼ぶから……。」

 運転手の言葉にアヤはまたかとため息交じりに思った。



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