明かし時…1ロスト・クロッカー4
時は少し遡り、アヤがマンションの一室から飛び出すのと同時にアヤが大切にしていた家宝とも言える和時計から突然、光が漏れた。
光はアヤの部屋全体をまばゆく照らした。しばらくして光が収まると和時計の前にはかわいらしい顔つきの学生服を着た男の子が立っていた。
……あの子がいない……。
男の子は不安げにアヤの部屋を見回す。
……入れ違いかな……。
……探さなくちゃ……僕の時神としての生が奪われちゃう。
男の子はため息をつくとアヤの部屋から外へと出ていった。
*****
「では。アヤさんのお宅に上がらせてもらいます。」
公園を後にしたナオ達はアヤが住んでいるマンションにたどり着いた。
今はアヤの部屋のドアの前にいる。
「あ、あんまり片づけていないから、ジロジロみないでね。」
アヤは一言、念を押してから鍵を開けた。
「……あれ?」
アヤがドアノブを引いたがドアは開かなかった。
「今ので鍵をかけてしまったのではないでしょうか?」
「そ、そんな事ないわよ。だって私、鍵かけて出てきたんだから。」
ナオの言葉をアヤは顔色を悪くしながら否定した。
「なるほど。密室事件かな。」
ムスビは探偵気分になっているのか渋い顔で頷いていた。
「別に事件ではなかろう……。」
栄次はため息をつきながらムスビを一瞥した。
「おかしいわね……。ちゃんと鍵をかけたのに……。」
アヤは首を傾げながらもう一度鍵穴に鍵をさした。そのままドアを引いたら今度はドアは普通に開いた。近くにあるスイッチを押して電気をつけ、アヤはナオ達を中に入れた。
「……妙ですね……。」
ナオは玄関先から廊下を眺め、唸った。
「ナオさん?探偵ごっこ的な感じになっているよ?」
ムスビがナオを見てケラケラと笑っていた。
「探偵ごっこではありません!ムスビもよく見てください!」
ナオは笑っているムスビを睨みながら廊下を指差した。
「ナオさん、怒らないで。」
ムスビは慌ててナオをなだめると廊下に目を向けた。
「わかりませんか?」
「あっ!」
ナオの言葉に返答したのはアヤだった。
「廊下が汚れてるわ!きれいにしてたのに。」
廊下には靴の跡のようなものが続いていた。
「……時神の神力を感じるな……。」
栄次がふとつぶやいた。
「時神の力だって?」
ムスビが廊下の先を覗くが誰かいる感じではなかった。
「とりあえず、お邪魔させていただきます。すぐに帰りますから。」
ナオはアヤに一つ頭を下げるとブーツを脱ぎ、アヤの家に上がった。
「あなた達は入らないの?」
アヤはムスビと栄次に目を向けた。
ムスビと栄次は少し迷っているようだった。
「あ……いや……男が女の子の部屋にズカズカと入っていいもんかなーって思っちゃってさ。」
「……俺もそれで迷っている。」
ムスビと栄次は顔を見合わせ、ため息をついた。
「別にいいわよ。もう……さっさと入って終わらせて。」
アヤは無理やりムスビと栄次を中に入れた。
ムスビと栄次は渋々中に入ると履物を脱ぎ、廊下を歩いた。
アヤの部屋までくるとナオが古い和時計の前でしゃがみこんでいた。
「ナオさん?」
「ムスビ、栄次、この時計ですが……神力が漂っているように思いませんか?」
「……時神の力を感じるぞ。」
ナオの問いかけに栄次が素早く答えた。
「時神の……力ですか……。」
「ああ。時神三神の内、俺が過去神だから未来神か現代神がこの時計の前にいたというところか……。」
「ていうか、何しに人んちの時計を見に来たんだよ。」
栄次の言葉にムスビがため息交じりに突っ込みを入れた。
「しかもその時神は靴を履いています。靴の向きからしてアヤさんの部屋から外へ出ていったとみられます。この時計から時神が突然飛び出してきた……と考えてよろしいのでしょうか?」
ナオは和時計を隅々まで眺めながら栄次に話しかけた。
「時計から飛び出したかはわからんが……俺の時のように誰かに呼ばれてここに出現した可能性もあるな。」
「……時神を呼べるのは歴史神だけです。呼んだと考えるのでしたら私以外の歴史神がアヤさんの部屋に未来神かもしくは現代神を呼んだと考えるのが妥当です。その歴史神がこの事件と関わり合いがありそうですね。」
ナオが栄次の返答に大きく頷いた。
「ナオさん、とりあえずこれからどうするんだよ?」
ムスビがナオを不安げに見つめていた。なぜだか大きな事件のような気がしてムスビは自分達が過去神を呼んだから起こった事なのではないかと疑っていた。
「とりあえず、神力を辿ってこの部屋から出ていった時神を見つけましょう。……アヤさん、お邪魔しました。」
ナオは丁寧に頭を下げると廊下を渡り、外へと出ていった。
「ね、ねえ。もういいわけ?」
「はい。ありがとうございました。もう大丈夫です。ムスビ、栄次、行きますよ。」
ナオは戸惑っているアヤに笑顔を向けるとぽかんと立っている栄次とムスビにこちらへ来るように手招きした。
「な、ナオさーん!待ってよ。」
ムスビは慌ててナオの元へと走って行き、栄次はのんびりとその後ろに続いた。
「では。お邪魔いたしました。」
「え……ええ。」
嵐のように突然去って行ったナオ達をアヤは困惑した顔で眺めていた。




