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明かし時…1ロスト・クロッカー3

 同時期、一人の少女が戸惑いの表情で辺りを見回していた。ここは時計が沢山置いてある少女の時計コレクション部屋だ。少女が大切にしていた時計達は突然一斉に狂いだし、どれが狂っているのかもわからないありさまとなっていた。


 少女は肩先まである茶色の髪と、制服のスカートを揺らしながら時計を一つ一つ見て回っていた。


 「……あれ……今何時だっけ?」

 少女は直そうと思っていた時計を片手に固まっていた。


 ……えっと、高校から家に帰ってきて、それからのんびりと時計を眺めてて……外が暗くなっているから、六時か七時くらいかしら?ああ、こういう時に携帯を持っていれば時間確認できるのに!


 少女は窓の外を眺めた。現在は三月の後半あたりだ。日も少し長くなってきたが、この時間帯になると暗い。


 ……そうだわ。うちの時計が狂っているなら、外の時計を見て時間を確認すればいいのよ。


 少女はさっさと外へと飛び出した。少女はマンションの四階の一室を借りてひとり暮らしをしていた。とりあえず、階段を降りて近くにある公園を目指した。


 ……公園には確か大きな時計があったはず。それを見れば時間はすぐにわかるわ。


 少女は閑静な住宅街をゆっくりと歩く。辺りは暗く、街灯がポツンポツンと立っていた。


 しばらく歩いているといつも閑静なはずの住宅街から声が上がった。あちらこちらで話している声が聞こえる。


 ……何か騒がしいわね。何かしら?


 少女は何気なく耳を傾けた。


 「うちの時計が全部おかしくなっちゃって……。」

 「あら、うちの時計もおかしくて……。」

 お隣さん同士の主婦の会話が耳に入ってきた。


 それを皮切りに、あちらこちらから「時計が狂っている」と叫ぶ声が聞こえた。


 ……何?皆も時計が狂っているっていうの?


 少女は不気味に思いながら公園への道を急いだ。


 しばらく歩き、公園に到着した。公園は街灯が立っていて明るかったが、人が誰もいないので少し怖かった。公園は小さく、ブランコなどのメジャーな遊具しかないが、ここはよく子供連れの主婦達の憩いの場になっている。


 少女は遊具を眺めながら時計台の前まで歩いて行った。


 そしてそっと時計を見上げた。


 時刻は二時三分。

 ……ここも狂っているわ……。

 少女は茫然と時計を見上げていた。


****


 とりあえず外に出たナオ達は、時計がありそうなところを探した。

 「時計……意外にないですね。」


 「そうだな……。そんな外に置くものでもなかろう。」

 「あんた、どこの時代から来たんだよ?」

 栄次のつぶやきにムスビは首を傾げながら尋ねた。


 「俺か?俺は江戸の時代だ。」

 「じゃあ時計は全部置き時計の和時計だね。」

 ムスビが頷いている横で、今度は栄次が首を傾げていた。


 「未来では先程のように置いてある時計が違うのか?」

 「ああ、そうだね。実際にみてもらえばわかるかな。」


 「……公園はどうでしょうか?」

 ムスビと栄次の会話に割り込むようにナオが声を上げた。ナオは先程から、時計がありそうなところを思い浮かべていたらしい。


 「おお。公園ね。そりゃあ、あるよ。きっと。この近くの公園は……。」

 「少し行ったところに小さな公園がありましたね。そこの公園に確か大きな時計があったように記憶しております。」


 「じゃあ、そこ行こう。」


 ムスビとナオはすぐ近くにある公園に行く事にした。歩き出すと栄次が黙って後ろをついてきた。この世界の事はわからないからお前達に任せると言っているようだった。


 三神は黙々と公園を目指し歩いた。

 住宅街のあちらこちらから「時計が狂っている」などの声が聞こえてくる。


 「……やはりすべての時計が狂っているようですね。」

 「じゃあ公園の時計も狂っているよね。おそらくは。」


 「そうですね……。」

 ナオとムスビが会話をしていると、いつの間にか、公園にたどり着いた。遊具が置いてある真ん中に大きな時計台が立っていた。


 「これがこの時代の時計か……。」

 「……二時六分……やはりおかしいですね……ん?」


 ナオが時計を見てつぶやいてからふと遊具の方へ目を向けた。ブランコの前で、茶色の髪をした高校生くらいの女の子が立っていた。女の子はナオ達を見て驚いていた。


 「彼女……俺達が見えるのかね?俺もナオさんも人には見えないだろう?」

 ムスビはナオに話しかけながら少女の顔を見つめていた。


 「……俺は人に見えるぞ。俺は人に紛れて生活している時神なんでな。」

 栄次の言葉に「そうか。」と頷いているムスビだったが、ナオには明らかに三神を見て驚いているように見えた。


 「あの子、私達も見えているのではないでしょうか。」

 「嘘だァ。」

 ムスビは馬鹿にしたように笑ったが、少女はムスビの笑い声にびくっと肩を震わせていた。


 「ほら、声も聞こえているようですよ。あの子は……もしかすると人間ではないのかもしれません。」

 ナオは一言そう言うと少女に近づいていった。


 ムスビと栄次もナオに続き歩き出した。


 「あの……。」

 ナオが控えめに少女に声をかけた。


 「……!」

 少女は明らかにナオ達を見て怯えていた。突然、大正ロマンのような恰好をしている二神と、江戸時代の侍が夜の公園に現れたら誰でも怯えるだろう。


 「大丈夫です。私達は時計を見に来ただけですから。あなたはどうしてここにいらっしゃったのですか?」

 ナオはなるだけ優しく声をかけた。


 「え、えっと……うちにある時計が狂ってしまったので、公園の時計を確認しに来たんですよ。」

 少女は強張った顔でナオに答えた。


 「あなたのお名前はなんとおっしゃるのですか?」

 「アヤです。」

 少女、アヤはナオを見据えてから、時計に目を向けた。


 「アヤさんですね。私はナオです。青い髪の男はムスビで総髪の侍が栄次です。敬語は使わなくてもよろしいですよ。おそらく同じ年齢くらいでしょうから。」


 ナオはアヤにほほ笑んだ。アヤもナオの雰囲気に警戒が解けてきたようだった。


 「あら、そう?じゃあ普通に話すわね。ところであなた達はなんでそんな恰好をしているの?」


 アヤは、ナオの後ろに立っているムスビと栄次も視界に入れて質問をしてきた。


 「それはこれが私達の正装ですので。実は私達は神で、時間が狂った原因を調査しております。」


 「神って……?」

 ナオの発言にアヤの顔が再び曇った。


 「ナオさーん、この子、神が普通に存在していることを知らないみたいだね。やっぱり人間なんじゃないの?」


 ムスビがナオを戸惑った顔で見据えた。ムスビの言葉を聞いたナオはアヤの表情を窺いながら慎重に会話を進めた。


 「そ、そうですか……。申し訳ありません。とりあえず、私達は今、時計が狂ってしまっている事について調べています。何か変わった事はございませんでしたか?」


 「え?えっと……そうね。私の部屋が時計だらけなのだけれどその時計が七時くらいに一斉に狂いだしたのよ。どれか一個の時計が徐々に狂っていくんじゃなくてほんと、皆一斉におかしくなってて……。」

 アヤは困惑しながらなんとか言葉を発していた。


 「あなたの家には時計が沢山あると……それは興味深いですね。見させていただいても?」


 「えっ?」

 ナオは考えるポーズをとりながらアヤに目を向けた。アヤは怯えた目でナオを見ていた。


 「ナオさーん……。いきなりその子のうちに行くなんて言ったら怯えちゃうのも無理ないよ。いままでの話もそのアヤって子にはチンプンカンプンだと思うね。」


 横でムスビが口をはさんだ。ちなみに栄次はそっと事の成り行きを見守っている。


 「そ、そうですよね。」

 ナオが残念そうに眼を伏せた。


 「んん……ずいぶんお困りのようだけど……私の部屋がそんなに重要?」

 「重要ではないかもしれません。しかし、重要かもしれません。」


 「んん……。」

 ナオの言葉を聞いたアヤは少し迷った挙句、

 「じゃあ、ちょっとだけならいいわよ……。」

 と部屋に上げる事を許した。



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