流れ時…2タイム・サン・ガールズ12
「あら、サキ、こんな遅くに何をしているの?」
少女のサキは鏡を素早くポケットにしまった。そして話しかけてきた女に笑いかける。
「星空を見てたんだ。お母さんは太陽しか見てないと思うけどあたしは一日中ここにいる太陽神だからね。当然、夜の闇を知ってる。」
ここはサキの家の前。あたりは暗闇に包まれており、けものの鳴き声が聞こえる。ここは山の中なので街灯もなく、星がとてもきれいに輝く。
「私だってここにずっといるわよ。まあ、とりあえず早く寝なさい。明日は……」
「学校?八時になったらちゃんと行くよ。行くだけだけど。」
サキは自分の母親の顔をまじまじと見つめた。
……相変わらず目元がはっきりしない……
「違うわ。」
「え?目元が?」
ぼーっと考えていた事が口から出てしまった。サキは慌てて口を塞いだ。
「違うわよ。学校はもういいわ。学校に行っていたという記憶をあちらのサキに充分植える事はできた。うまく流史記姫神、歴史神を欺けたわ。」
「まあ、なんだかわからずランドセルしょって高校に行ってたけどそれでよかったんだ……。」
「本当はちょっと違うんだけどねぇ。で、明日は太陽へ行くわ。お客さんをむかえに行くのよ。」
「……。」
女はケラケラと笑っている。それを眺めながらサキはそっと目を細めた。
…あっちのサキも人間になったり神になったりの繰り返しで大変だねぇ……。あっちのサキが高校生なら十七、八だ。あたしの外見はもうこれであっちのサキとだいぶん差がついた。もう、そんなに経ったんだ。
「寝る。」
「そう。おやすみ。」
サキは女に背を向け家の中へと消えて行った。女はその小さいサキの背中を眺めながら含み笑いを漏らしていた。
足音はだいぶん少なくなった。声も今は聞こえない。アヤ達は相変わらず畳の下に潜んでいた。
狭い、暗い、熱気で暑いと何時間も潜むのには地獄だった。おまけに時間がわからない。
「おい。今どれくらいたった?」
「これならアヤの家でトランプやってた時のが楽だったよな。」
栄次は頭を抱えながら、プラズマはアヤをこそこそと触りながらうんざりしたように言葉を発した。
「ちょっと変なところ触らないで!」
「変なとこってどこだよ?足触っているだけだろ?それとも変なところ触ってほしい?」
「馬鹿。」
プラズマの下品な発言を栄次が殴って黙らせた。
「今何時なんだと聞いているのだが。」
「そんなのわかるわけないだろ。お前こそわからないのか?」
「時神というのは本当に役にたたんな。」
栄次とプラズマは大きくため息をついた。
「そろそろ、いい時間帯だと思うのでござる。」
サルが自信なさそうな顔をこちらに向けた。足音はもうほとんど聞こえない。
「じゃあ、行くか?」
「ちょっと待つのでござる……。」
プラズマが立ちかけたのでサルが慌てて止める。
「なんだ?」
「正しくないかもしれぬ……小生も自信はないのでござる。」
「大丈夫だ。サルの勘を信じる。」
プラズマは不安そうなサルの顔を押しのけ半ば強引に畳を上に押し上げた。涼しい風と共に真っ暗な空間が広がっていた。太陽神達の姿はない。
「まずいのでござる!もう太陽が動き始めている!」
「えええ!」
サルの言葉にアヤ達は言葉を失った。
「大丈夫なのか?」
「急いで三階へ行くのでござる!」
「ったく、いきなりだな……。しっかりしろよな。サル……。俺が言わなければやばかったんじゃないか。」
サルは慌てて外に這い上がる。
アヤ達もそれに従った。這い出たと思ったらサルはいきなり走り出した。それにプラズマが続き、栄次はアヤを担ぐとプラズマに続いて走り出した。
「そんなに時間がまずいのか?」
「まずい……非常にまずいのでござる!」
サルはエスカレーターの階段を三段飛ばしで駆け上がる。その後を栄次が続く。
刹那、プラズマが声を上げた。
「おいおいおいおい!もっと早く走れ!」
何事かと思った栄次はちらりと後ろ向いた。
「っ!」
後ろは火の海だった。轟々と燃え盛る炎が壁のようにこちらに押し寄せている。
「霊的空間が消えているんだわ!……栄次……。」
アヤは不安そうに栄次を見上げた。アヤは栄次に抱かれているためなんだか罪悪感を覚えた。
「大丈夫だ。……大丈夫。お前は羽のように軽い。」
アヤの言わんとする事がわかったのか栄次は一言だけ漏らした。アヤはとりあえず黙り込んだ。よく考えたらここでアヤを降ろしている方が時間のロスだ。
エスカレーターを駆け上がったサル達は三階の障子戸を蹴り飛ばして開け、中に入った。
「ここがワープ装置!何かを思っている時間はないのでござる!とりあえず魔法陣の中に!」
ワープ装置とやらがある部屋は畳の上にただ円形の魔法陣が描いてあるだけだった。栄次とプラズマはサルに従い魔法陣に飛び込んだ。
「移動!」
サルが叫んだ瞬間、魔法陣が光り出しアヤ達を包むように円形の白い壁が出来上がった。そしてそのすぐ後に辺りは炎と暗い空間に包まれた。炎は白い壁を越えては来ない。
「ま、間に合ったのでござる……。」
サルの独り言が聞こえた。返答しようとした刹那、炎は激しくなり、真っ暗な闇とその中に輝く無数の点が見えた。おそらく点は星だ。アヤ達は宇宙にいた。それを確認する暇もなく目の前が霧で覆われた。ほぼ一瞬だった。
「あ、あれ?」
目をつぶっていたアヤに最初に飛び込んできた声はプラズマの抜けた声だった。 アヤも恐る恐る目を開けた。先程と変わらない畳の部屋がまず目に映った。
そして次に映ったのはすぐ横で光る刀。つまり栄次が刀を抜いている。
「な、何?」
思考回路はまだ戻っていない。少し落ち着いてからまた周りを見回す。次に飛び込んできたのはアヤ達のまわりを囲んでいる太陽神達。
「もう陸世界に入ったのでござるが……待ち伏せをされていたようでござる。」
サルが戸惑っているアヤに小さい声でつぶやいた。
「お、おとなしく死んでもらおうか……。」
太陽神達は覇気なくアヤ達を取り囲んでいる。どの顔にも戸惑いが浮かんでいた。
「時神を殺すのでござるか?太陽神様方……。」
サルの問いかけに太陽神達の頬に汗がつたった。他の猿達はおとなしく太陽神達の命令を待っている。
「時神が消えたらどうなるかわからない太陽神様方ではあるまい……。小生はかなりこの状況に戸惑っているのでござるが……。」
「……。」
サルの言葉に太陽神達は複雑な表情のまま黙り込んだ。




