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ゆめみ時…最終話夜の来ないもの達14

 トケイはライとセイを抱え、宇宙のような真っ暗な空間をただ飛んでいた。


 「たぶん、もう少しで天記神の図書館だよ。」

 「そうなの?本当に毎回行き方が変わるのね……。」

 ライは抱えられながら不安げにトケイを見上げた。


 「弐の世界だからね。一秒たりとも同じだったことがないよ。」

 トケイは当たり前のように言った。ライ自身、なんだか弐の世界に深くいすぎたような気がして元々生活していた壱の世界を忘れてしまいそうだった。


 「お姉様!」

 ふとセイに声をかけられ、ライはセイが指差している方向に目を向けた。

 目の前に天記神の図書館がぼんやりと映っていた。


 「うん。着いたよ。」

 トケイは表情無くつぶやくとライとセイをそっと放した。


 「え……?」

 いきなり手放され、ライとセイは驚いて声を上げた。体は図書館へと引き付けられているがまだ宇宙の空間。ライ達はふわふわと浮いている状態だった。


 「僕はここまでしか送れないからさ。後は流れに身を任せていれば着くよ。」

 トケイはどこか寂しそうで何かを言いたそうな顔をしていた。


 「トケイさん!ありがとう!」

 ライはとりあえず笑顔でお礼を言った。その笑顔を見てからトケイは顔を引き締め口を開いた。


 「あ、あのさ!またいつでも来ていいからね!……ち、近いうちに……あ、会いに来てね。絶対だよ!ライもセイも会いに来てね!」


 トケイは慌てて言葉を追加した。その一言がどうしても言えず、トケイは先程からまごまごしていたようだった。


 「うん!会いに行くね!」

 「私もご一緒できればさせていただきます!」

 ライとセイが声を張り上げて笑顔で手を振った。ライとセイはもう天記神の世界へと引き付けられ、トケイとはもうだいぶん離されていた。


 トケイに手を振っているとトケイも控えめに手を振り返してきた。


次第にトケイの姿が蜃気楼のように消えていき、

 「じゃあね!待っているよ!」

 という声を最後に完全に消え去った。


 「……いい方達でしたね……。お姉様。」

 「……うん。けっこう助けられちゃった。」


 セイとライはいつの間にか霧深い天記神の図書館前に立っていた。図書館のまわりには花をつける盆栽がきれいに手入れされた状態で並んでいた。


 「優しい……心に触れた気がしました。」


 「そうだね。あの人達……更夜様とかスズちゃんは人間だったんだよ。……セイちゃんは人間を嫌いになりそうだったみたいだけどああいう人もいるし、私達だってその人間の想像から作られたんだから、誰が嫌いとかそういう事は言わないで皆を幸せにしてあげよう?人が優しくなるには失敗をしないと本当の優しさには近づけない。更夜様もスズちゃんも逢夜さんも千夜さんも……皆一度だけじゃなくて何度も失敗しているんだからね。セイちゃんも心に触れてわかったでしょ?」


 「……はい。」

 「だからあの子達……ショウゴ君やタカト君やノノカさんを否定しちゃだめだよ。」

 ライはセイの頭をそっと撫でた。


 「……はい。」

 セイは下を向き、後悔をかみしめながら小さく返事をした。


 「じゃあ、いこっか。」

 ライがほほ笑みながら促そうとした時、何かにぶつかった。


 「!?」

 「あ、あら!ごめんなさい。後ろでちょっと話を聞いていただけなのだけれど急に振り返ったからびっくりしちゃって避けられなかったわ。」


 ライ達のすぐ後ろにいたのは天記神だった。天記神は心は女だが高身長の男で体つきもそこそこいいのでぶつかると少し痛い。


 「天記神さん!無事にセイちゃんを連れて来れました!」

 ライはぶつかった鼻の頭を押さえながら天記神に笑顔を向けた。


 「良かったですわね。いきなり走り出して行ってしまったからとても心配したのよ。あなたは壱の神なのだからあまり無理はされないように。」


 天記神はどうやらライに少し怒っているようだった。しかし、話し方が優しすぎるので実際はよくわからなかった。


 「心配かけてごめんなさい。」

 ライは一応、小さくあやまっておいた。


 「いいのよ。それよりもセイちゃんが戻ってきて良かったわね。厄神に落ちそうになっていた時はどうしようかと思いましたわ。」

 「ごめんなさい……。」

 天記神の言葉に今度はセイが謝罪をした。


 「それで?もう終わったのかしら?」

 「はい。弐の世界ではもう何もありません。私達はこれからお姉ちゃんに会いに行こうかと思っています。」

 ライは真剣な顔で天記神を見上げた。


 「そう。今回は会わせてもらえるかしらねぇ……。」

 「今回は大丈夫だと思います!私も堂々と行ける理由があるので。」


 「そ、そう。」

 ライに押され、天記神は戸惑った声を上げた。


 「では!また来ますね!色々ありがとうございました!無事セイちゃんを助けられました。お礼はまたしにきます!」


 ライは元気よく挨拶をするとセイの手を引き、天記神の図書館を横切り、再び霧の中へと消えた。


 「あら……早いのね……。若い神は元気ねぇ……。お礼なんていらないのに。」

 あっという間に消えてしまったライとセイに天記神は困惑した表情ではにかんでいた。



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