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ゆめみ時…最終話夜の来ないもの達13


帰りはスムーズに帰る事ができた。トケイが自分自身が住む世界に導かれていたからだ。行きの大変さはなく、ライ達が二、三言何か話しただけで着いてしまった。

トケイはゆっくりと下降しながら白い花畑の世界へと足をつけた。


「着いたよ。」

「早い!」


 トケイがライとセイを地面におろしてから不思議そうに驚いている二人を見つめた。


 「そう?自分の世界に帰るだけだから簡単だよ。勝手に進むし。」

 「そ、そうだったんだ……。」


 ライがトケイに返答した時、更夜達も現れた。ただし、さふぁの姿だけはなかった。


 「なんだかあっけなかったが……もうすべての事は終わったな?」

 「やる事もうないよね?」

 更夜とスズがそれぞれやり残した事を思い出していたが何も思い浮かばなかった。


 「終わったのか?」

 ふとライ達の前に逢夜と千夜、その後ろにひかえめに憐夜が立っていた。


 「はい。一応、敦盛も元の世界へと帰ったようでございます。あのネズミの女もどこかへと行ってしまったようですが……。」

 更夜が問いかけた千夜に答えた。


 「そうか。才蔵と半蔵は……どこだ?」

 「彼らはKの世界へと向かいました。」

 更夜の発言に千夜ではなく逢夜が声を上げた。


 「なんだと!」

 逢夜が驚きの声を上げると同時にその隣にいた憐夜も眉をひそめた。


 「大丈夫のようです。Kが言うには隠していないからだそうですが……。」

 「Kに会ったのか?」

 千夜が更夜に再び尋ねた。


 「いえ。わたくしは会っておりませぬが絵括神ライ達が会ったようで。」

 更夜はちらりとライ達を視界に入れた。


 「会ったよ。」

 スズが軽く答えた。


 「それで?」

 憐夜が興味深そうな顔でスズに返答を急かした。


 「……わかった事は大きな世界の流れとわたし達が今、幸せだという事……Kを頼ってもKは何もできないって事……くらい。」


 「そんな……私の時はぬいぐるみみたいな動物に外に追い出されたのに……Kに会えたなんて……。」

 憐夜はため息交じりにスズにつぶやいた。


 「憐夜は迷って入っちゃった魂だと思われたんじゃない?ま、とにかく、Kの所に行っても何にもないわけよ。というか、皆難しくて説明できないって言うのが本音なんだけど。」


 「そうだったの?じゃあ、私はここから真剣にKについて調べてみる事にするわ。」

 憐夜は目を輝かせてスズを見据えた。


 「調べてもむなしくなるだけかもよ?」

 「それでもいいわ。」

 「憐夜、どうしてそこまでKにこだわっているんだ?」

 逢夜が憐夜に小さく尋ねた。


 「不思議な存在だからです。神でもなければ人間でもなく、霊かどうかも怪しい。」

 憐夜は逢夜にひかえめに答えた。


 「そうかよ。確かにこれから暇になるし調べてみるのもいいかもな。」

 逢夜もどこか楽しそうに返事をした。


 ライ達はKの秘密を知っていたがよく説明できなくて良かったと思った。これが彼らの生きがいになるかもしれないからだ。


 「それではライとセイをそろそろ壱(現世)に送らねばならないか。いつまでも弐にいるわけにもいかんだろう?」

 更夜がライとセイを見つめ、首を傾げた。


 「もうちょっと……いたいんですけど……でも寄らないといけない所があるので一度、現世に戻りますね。それからまた絶対に来ますから!今はこの本でいつでもこの世界とつながっていますし!」


 ライはワンピースの下から壱の世界の時神アヤが書いたという弐の世界の時神の本を取り出した。


 「そうだな。まあ、機会があればまた来るといい。その時は居酒屋もやっている事だろう。」


 「僕も歓迎するからいつでも来てね!待っているからね!」

 静かに言い放った更夜の隣でトケイはどこか寂しそうに言葉を漏らした。


 「まあ、この世界はなくならないからいつでも来なよ。あと、悩み事も相談しに来なさい。なんでも手伝ってあげるからね。」

 スズはどこか偉そうにライ達に向け胸を張った。


 「ありがとう!またすぐに来るわ。とりあえず、一度高天原に行ってくるね。」

 「じゃあ、僕が送っていくよ。天記神の図書館までね。」


 トケイがライとセイに手を伸ばした。


 「お願いします。」

 ライとセイは笑顔でトケイの手を握った。


 トケイはセイを抱きかかえ、ライを背負い、空を舞った。


 「また遊びに来るといいぞ。」

 飛び去る時、更夜がライに向けてぶっきらぼうに言った。


 「……はい。またすぐに会いに来ます!」

 ライは更夜の一言が嬉しくて少し涙ぐみながら笑顔で更夜に手を振った。


 「ライもセイも神でお前もトケイもスズも神なのか。なんだかただの霊の俺達は取り残されちまったな。」

 逢夜は飛び去るトケイ、ライ、セイを茫然と見つめながらつぶやいた。


 「大変申し訳ないのだが……。」

 ふと、誰の声でもない女の声がした。地面から声が聞こえる。


 更夜達はびくっと肩を震わせると下に目を向けた。魔女帽子と茶色の髪がちらりと見えた。


 「……ああ!あんたはセカイ!」

 スズが手のひらサイズしかない少女を見つけ声を上げた。


 「私もいるよ~ん……あ~あ~……よけ~な事したかな~ん……。」

 小さい人形、セカイの横にハムスター姿のさふぁもいた。


 「ライとセイが帰った直後になんだ……。」

 更夜はセカイとさふぁに目を向けた。


 「実はこのたび、さふぁの勝手な行動であなた達に余計な事をさせてしまった事により、魂の調整を少しばかり失敗したので千夜さんと逢夜さんと憐夜さんをKの使いとして迎え入れなければならなくなった。……特に今と生活は変わらないので肩書きだけそういう事にしてほしい。」


 「俺達は別に何もしていないぜ?」

 逢夜がセカイに困惑した顔を向けた。


 「失敗というよりもKにあなた達が気に入られてしまったという事。Kがさふぁの記憶を覗き、憐夜さんがKについてとても調べたがっていることをKが知ってしまった。それでKからスカウトして来いと言われた。Kについて理解したいのならば常にKに関わってみるしかない。私達からすればこれはプログラムのバグ。」


 「つまりなんだ?Kの下で働けと言うのか?」

 千夜は訝しげにセカイに尋ねた。


 「いや……そうではない。Kとして迎え入れたいとKは言っている。しかし、あなた達の心では更夜さん達と離れたくないと言っている。だからKの使いとしてならKの世界ではなくこの世界に住めるという事。」


 「なるほど。俺達の心を読んで先に答えを提示したのかよ。」

 逢夜の言葉にセカイは表情無くこくんと頷いた。


 表情のないセカイを一瞥した逢夜は目を閉じると憐夜に優しく言葉をかけた。


 「憐夜、どうする?」

 逢夜に問いかけられた憐夜は少し戸惑っていたが恐る恐る答えを出した。


 「Kの事を知りたいのでやりたいです。……本当はお兄様、お姉様と何かをやっていたいって言うのが本音です。」

 憐夜は後半、照れた顔つきでボソボソと言葉を発していた。


 「そっか。そっか。俺はいいぜ!お前に付き合うよ。……お姉様はどういたしますか?」

 逢夜は憐夜に笑顔を向けた後、顔を引き締めて千夜に問いかけた。


 「答えは決まっている。私も憐夜と逢夜、更夜達と一緒にいたい。私もひとりぼっちで寂しかったのだ。」

 千夜の一言で逢夜と憐夜の表情が和らいだ。


 「決まりですね。……という事だ。さふぁだったか?お前のおかげで俺達のきずながさらに深まり、憐夜にやることができた。感謝しているぜ。」


 逢夜が満面の笑みでさふぁを見つめた。さふぁは呆れた顔で「はあ~ん。」とため息をついていた。


 「手続きは後で済ませる。今は少し休むと良い。またここに来るから。」

 セカイが丁寧にお辞儀をし、憐夜を一瞥するとさっさと消えてしまった。


 「あのセカイとかいう人形……私達の返答を予想して来たな……。まったくそんなに人の心を読むのは簡単な事なのか?」

 千夜が頭をかかえつつ、つぶやいた。


 「人形は人の心を映し出す鏡とも言います。人や霊、神とはまた違う存在なのでしょう。」


 更夜は千夜にほほ笑み、そう言った。更夜の笑顔をちらりと横目で見た千夜は更夜にもう一つ尋ねた。


 「ここに私と憐夜と逢夜が住んでも良いか?」

 千夜にしては控えめな質問だった。


 「もちろんです。私は構いません。」

 更夜は柔らかく答えるとスズに目を向けた。


 「ん?いいよ!トケイもわたしもいっぱいいた方が楽しいって思っているからね。逢夜……さん……は怖いけど嫌いじゃないし憐夜と遊べるからいいよ。」


 「俺は怖いのかよ……。更夜よりかは柔和だと思ってたんだがなあ。」

 「ま、とにかく、逢夜さんと千夜はケガしてるっぽいから中で休んでてよ。なんならわたしが手当てするよ!」

 スズの発言に逢夜と千夜の顔色が悪くなった。


 「いや、いい。」

 二人はまったく同じ返答をスズに返すと「悪いが休ませてもらうぞ。」と更夜に一言言って家の中へと入って行った。


 「いやねえ。せっかく手当してあげるって言ってるのに。」

 どこか寂しそうにスズが去っていく二人の背中を眺めていた。


 「やめとけ。お兄様、お姉様は医療の腕もある。スズが下手に動くよりはマシだ。」


 「えー!下手って言ったね!」

 更夜の言葉にスズが反応を示した。


 「スズ、私が教えてあげよっか?私、こう見えてもけっこう治療とか得意なんだ。」


 むくれているスズに憐夜が明るい笑顔で声をかけた。スズは憐夜の笑顔を見た瞬間、機嫌が良くなった。


 「え?教えて!教えて!これでわたしもできる女に。」

 スズは憐夜の手を握り、上下に振った。

気分が上がっているスズに更夜はため息をついた。


 「その前にお前はちゃんと料理ができるようになれ。毎回、鍋を吹っ飛ばされたんじゃ居酒屋として成り立たん。」

 「わ、わたしは運ぶ係で……が、がんばるよ……。れ、憐夜!いこ!」

 スズははにかみながら憐夜の手を取り、家の中へ逃げていった。


 「……まったく……。」

 更夜は頭を抱えたがどことなく幸せな顔をしていた。



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