ゆめみ時…最終話夜の来ないもの達12
一方でマイの世界にいる更夜はわずかに開いているKの世界に半蔵と才蔵が入らないように防御をしながら戦っていた。
たった一人の更夜に半蔵と才蔵は押されていた。
「……まったく隙がないですね。」
「その野生の勘や身体能力、どうみたって天性のもんですなァ。」
才蔵と半蔵は更夜に攻撃をしかけながら感心したようにつぶやいた。
「嬉しくないな。」
更夜が半蔵の蹴りを素早く避けながら返答した。
「やはり一筋縄ではいきませんか。この強さ……困りましたね。」
才蔵が影縫いや催眠術をかけるがかける前に更夜に気づかれてしまい、失敗に終わっていた。
「お前さんの兄、姉よりもお前さんは破格に強いですな……。当たらねぇ。」
半蔵は体術の技術で群を抜いていたが更夜にはまるでかなわなかった。
拳はすべて避けられてしまった。更夜は防御をしない。忍同士の戦いで防御をすると触れる一瞬の隙に強力な術をかけられる可能性があるからだ。
更夜は一瞬の間に拳や蹴りが飛ぶ方向を予測し、ありえない身体能力でそれを避けていた。忍でも化け物に感じるほど更夜は異色の強さだった。
更夜と互角に戦えたのは人間に交じって生活をしていた壱(現世)の時神過去神、栄次だけだ。更夜は後ろに守るものがいなければまったく隙を見せない。栄次との戦闘もスズの墓を守らなければ負けていなかったかもしれない。
半蔵も才蔵もはじめから更夜に勝てるとは思っていなかった。
「ちっ……やっぱり無理ですかい……。」
半蔵が悔しそうにそうつぶやいた時、ライ達がKの世界に繋がっていた空間から外に飛び出してきた。
「え?え?」
「戻ってきた……?」
ライとスズ、トケイ、セイが不思議そうにあたりをきょろきょろと見回している。
更夜も突然戻ってきたライ達にほんの少し驚き、短い時間だったが隙ができた。
その間に半蔵と才蔵が空間に向かって高く飛んだ。
「!」
ライの横を風だけが通り過ぎた。ライの目には才蔵も半蔵も映らなかった。
「ちょっと待った!一つだけ言わせて!」
半蔵と才蔵が空間に入り込む直前にスズが慌てて叫んだ。
才蔵と半蔵は空間の手前でぴたりと止まった。
「この先にはKがいる。Kは別に真実を隠そうとしていないわ。だから好きに入ればいいよ。だけどね、Kの真実を聞いた後、重大な選択をさせられると思う。……その時は『ちゃんとこちらに戻ってきた方がいい』と思うよ。」
スズの一言に半蔵は首を傾げ、ひとことだけ言った。
「よくわかりやせんがご忠告どうも。」
そしてわずかに開いた空間にためらいもなく飛び降りていった。
「無理やり入り込む予定でしたがなぜだか拍子抜けですね。お前の言葉、一応、聞いておきます。」
才蔵も一言だけ言って躊躇なく空間に飛び込んでいった。
「なんだ?あれでよかったのか?」
更夜は若干不快そうな顔でライ達を見据えた。
空間に入らぬように才蔵と半蔵からKの世界を死守していたのに「入ってもいいらしいのでどうぞ。」ということになり、更夜自身、少し気分が悪かったようだ。
「いいんだって。……わたし達、Kに会ったよ。追及しても仕方のない話だった。」
スズが目を伏せたのと同時にライ、トケイ、セイも同じように目を伏せた。
「よくわからんが……。その話、後で詳しく聞かせてもらうぞ。」
「……僕はきれいさっぱり忘れちゃったよ……。」
スズの横でトケイが声を上げた。
「実はね……わたしもよく覚えてないの。ライ、更夜に説明できる?」
スズも自信なさそうにライを見てきた。
「え……えっと……実は私もよくわからなくて……セイちゃん……説明できるかな?」
ライもうまく説明できそうになく、セイに話を振った。
「あの……私もよく説明できませんが……ただ、一つだけ心に残ったのは『私達は幸せなんだ』という事だけです。」
セイの一言を聞き、更夜は知らなくてもいいことなのだと思った。
「あなた達が今が幸せなら俺は別にKについて知らなくてもいい。俺達は限りあるだろう時間を可能な限り楽しく過ごすことに力を注ごう。Kを追及するよりもそちらに時間をかけた方が俺はいいと思うぞ。」
更夜は軽くほほ笑むと遠くにいるさふぁとマイに目を向けた。
さふぁもマイも戦闘が終わっている事に気が付き、こちらに向かって歩いてきていた。
「あーあ……Kの世界に入っちゃって戻ってきたんだね~ん。Kに怒られちゃうかな~ん……。で?それよりも平敦盛は~ん?」
さふぁが相変わらず抜けた声でライ達に声をかけてきた。ライの横でスズが盛大にため息をついた。
「あ、ああ、Kがさっさと元の世界に帰していたよ。Kが平敦盛を呼び寄せてね、当たり前のように世界へ帰してた……。元々Kの世界に呼び寄せるつもりだったんだってさ。だからわたし達は何にもやってないの。ほんと、やんなっちゃう。」
「そ、そうだったんだね~ん……。はやとちりだったかな~ん……。まあ、いっか~。」
スズの返答にさふぁはのんびりと言葉を紡いだ。
「一応、これでセイは守れたかね?」
話を聞いていたマイがライとセイに笑顔を向けた。
「うん……ありがとう。お姉ちゃん。でもお姉ちゃんはちゃんと罪を償わなければいけないと思う。本当は……セイちゃんも。」
ライは複雑な表情でセイを見つめた。セイもそれは感じているらしく、下を向き、「そうですね。」とつぶやいた。
「ライ、セイ、そうしたら私が罪を犯して捕まっていることが無駄になるではないか。私は色々な神を犠牲にして演技を続けてきたんだぞ……。」
マイはため息をつきつつ、呆れた顔を向けた。
「大丈夫。ここまで来たら私も何も言わないわ。……セイちゃんはこれから私と一緒に罪を償える方法を探そう?本当はいけないんだけど皆がセイちゃんを庇ってくれたんだからこれも運命だと思って……ね?」
「お姉様……。」
セイは目に涙を浮かべるとライの胸に顔をうずめた。
「さて。私ももう目覚める時間だ。この世界は消えるぞ。」
マイがそう言った刹那、世界が歪み、蜃気楼のようにマイの世界は消えていった。
この世界はマイが思い描いた夢の世界だ。マイの肉体は壱(現世)にある。弐の世界に来る時、普通は魂だ。眠っている時だけ心が世界を作り出す。目が覚めれば魂のマイは元の世界壱(現世)に帰っていく。
「お姉ちゃん!セイちゃんを連れて壱(現世)でちゃんとお礼を言いに行くから!」
「マイお姉様!ごめんなさい。それと私を救ってくれてありがとうございました!」
ライとセイはマイにそれぞれ想いを伝えた。
……フフ……ほんと手のかかる……。
マイはため息交じりに一言漏らすと塵のように消えていった。
世界が消えていき、トケイが慌ててライとセイに近寄ってきた。
「ライ、セイ、世界がなくなるよ。早く僕にくっついて!とりあえず、僕達がいる世界にいくけどいいよね?」
「え?う、うん。」
「お、お願いします。」
トケイの言葉にライとセイはとりあえず返事をした。もうすでに更夜達は消えていた。
彼らは霊なため、弐の世界を自由に渡れるので実態が見えなくなっても勝手に目的地に着いている。
しかし、一度は死んだが今は生きているセイや元々現世で生活しているライは弐の世界を渡ることができない。トケイは実態を持っているが弐の世界に元々住んでいて特殊な能力で壱に住む神を目的地へと運ぶことができる。
ライ達はトケイにしがみつき、なくなってしまった世界を見つめる。もう、地面もなく、足もつかない。あたりは宇宙のように何もなくなってしまった。
「じゃあ、行こうか。」
トケイは無表情でそう言うとライとセイをしっかりと抱えなおしてウィングでバランスをとりながら飛んでいった。




