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ゆめみ時…最終話夜の来ないもの達9

 「……こ、ここは……?」


 「先程、あの少女がKの世界だと言いました。ここはおそらくKの上辺の世界なのだと思います。」


 ライの質問にいままで黙っていたセイが恐る恐る言葉を発した。


 「ここがKの上辺の弐の世界……。」

 「ていうか、Kの世界もなんだか普通な感じだね。」


 ライの横でスズがつまらなそうにつぶやいた。

 しばらくぼうっと辺りを眺めていると七人の少女達がライ達の前を横切って行った。


 その七人の少女は明らかに国籍がバラバラで肌の黒い子や肌の白い子、どこかの民族衣装を着ている子などがいた。どの子も楽しそうに笑いあっている。


 少女達はライ達に一言あいさつをするとどこかへと走り去っていった。


 「あの子達が憐夜が見たっていう……少女達?」


 「確か、民族衣装を着ている子とか肌色の違う子がいたって言ってたね。」

 スズとライは憐夜が入り込んでしまった世界というのがここであると気が付いた。


 「そっか。憐夜はここにたどり着いちゃったんだね。」

 スズは少女達が去っていった方向を眺め、つぶやいた。


 「じゃあ、あの七人の少女もKなのでしょうか……。」


 「……そうだよ。君達は神々かい?」


 セイが誰にともなく質問を投げかけた時、足元から中性的な感じの声が聞こえた。


 「……っ!?な、なに!?」

 ライは肩を震わせて驚きの声を上げた後、声が聞こえた足先に目を向けた。


 そこには猫のようなネズミのようなよくわからないぬいぐるみがいた。

 ぬいぐるみは動いてしゃべっている。


 「ぬいぐるみがしゃべってる……。」

 トケイは茫然とそのぬいぐるみを見つめていた。


 「ところで……神々がKの世界に何のようだい?」

 「真実を知りに来たんだよ。」


 ぬいぐるみの問いかけにスズははっきりと答えた。先程から人形が動いたり、動物が人型になったりなどを見ているので今更ぬいぐるみが動いたところで驚かない。


 「真実か……。知っても君達にはどうもできないよ。途方に暮れるだけ。」

 「いいから。他のKとこの世界の仕組みについて話してよ。」


 「まあ、いいけど。」

 ここでの交渉もあっけなく成立した。


 「ボクはKの使いでぬいぐるみのピチだよ。ここで楽しそうにしている七人の女の子がこの世界のK。この世界にいるKは平和の象徴を表しているんだ。世界平和。彼女達がいるからこちらの世界は戦争がないんだ。」


 「こちらの世界って?」

 ぬいぐるみのピチはスズの質問に一つ頷くと続きを話し始めた。


 「こちらの世界は壱、弐、参、肆、陸だよ。向こうが伍だよ。まあ、肆(未来)の世界だけは伍の世界に食い込んでしまう事もあるけどね。基本的に壱(現世)、陸(壱の反転)の肆(未来)と伍の世界の肆(未来)は進み方が違って相対(あいたい)さないけどたまにリンクするんだ。」


 「……伍の世界って……どんな世界なの?」

 ライが恐る恐るぬいぐるみピチに尋ねる。


 「……ボクは知らない。この世界の中にいるKに聞いてみたら?この世界にいる七人のKはおそらく知らないよ。知る必要がないから知らない。だけど、真髄にいるKならば知っている。」


 「……真髄にいるK……。あれだけ謎な存在にしておきながらこんなにあっさり会えるものなの?」

 スズが訝しげにピチを睨んだ。


 「……別に隠し通したいわけじゃない。ただ、知ってもしょうがないから教えないだけだよ。」


 「そう……それ。知ってもしょうがないから教えないってなんか引っかかるのよね。」

 納得のいっていない顔をしているスズにピチが表情無く答えた。


 「とりあえず、行ってみたらわかるよ。」

 ピチは猫の手のようになっている腕を横に広げた。


 「……っ?」


 突然、世界がひっくり返ったような感覚に襲われた。辺りの青空と芝生は闇に溶けるように消えてなくなり、徐々に和風の民家に風景が変わっていく。気が付くとライ達はどこかの古民家の玄関先にいた。


 「え?囲炉裏があるよ……。ここがKの真髄?」

 「そうみたいだね……。なんか普通の家の内部って感じだけど……。」


 ライとスズが小さく言葉を交わした刹那、囲炉裏の前に少女が現れた。少女は頭をツインテールにしており、モンペにシャツ、シャツの上から羽織を羽織っている。


 みた感じ戦前の女の子だ。


 「いらっしゃい。私は日本に住むK。Kは世界各地に存在しているけど私は日本のKだよ。よろしく。ピチから話、聞いているよ。」


 「あ、あんたがK?」

 スズはこんがらがりそうな頭のまま、ツインテールの少女に尋ねた。


 「うん。まあ、そうと言えばそうかな。Kという括りだけど私はKの世界に入り込んだ魂だよ。Kの世界で生活しているんだ。私は戦争で死んだ少女の霊だよ。」


 「あの……さっきからよくわからないよ……。Kはいっぱいいるみたいだけど……もしかしたら……一人なのかな……?」

 ライの発言にツインテールの少女Kは唸った。


 「うーん。世界各地にいっぱいいるKの中で日本のKは一人と言えば一人なんだけど……皆ちゃんと心を持っているから一人とは言い切れないかもね。まあ、つまり、日本のKの元は一人でそれが大きな世界を創っててKが創造した弐の世界の中に私達がいるって感じかな。なんで、私も上にいる子達もKじゃないといえばKじゃないし、Kの世界にいるからってくくると皆Kなのかもしれない。ってとこ。」


 「つまり……弐の世界の仕組みと同じ仕組みでKも存在しているって事ね。」


 「そうそう。あなた達も壱(現世)の世界の時神達の世界に住んでいるんでしょ。それと一緒だよ。」


 「それはわかったよ。世界各地にKがいるってどういう事?」

 スズはどんどん質問を重ねる。こういう時のスズはなかなか頼もしかった。


 「Kは平和の象徴なんだよ。全世界各地の少女達がKという団体を作って戦争が起きないように頑張っているだけさ。と言っても皆、Kであるという自覚があるわけじゃない。


 平和を常に願っている少女達が創造する世界の総称をKと呼んでいるだけさ。もちろん、願った少女達の心の世界にはたくさんのKがいる。まあ、Kの世界に住んでいる霊とか想像物ってだけだけど。」


 ツインテールの少女はにこりと笑って茫然としているライ達を見据えていた。


 「少女なのは……なんで?」


 「だいたい平和を願っているのが少女ってだけだよ。ただそれだけ。他に聞きたいことは?」

 ツインテールの少女は先程、ピチと名乗っていたぬいぐるみを抱きしめた。


 「そのぬいぐるみ……さっき、動いてしゃべってたんだけど……。」

 ライの質問にツインテールの少女はくすくすと笑った。


 「ピチは上辺の世界で元気に今も動いているよ。この世界は真髄の世界だからね。ぬいぐるみも人形も何も動かないよ。


 この世界を創ったKは実は伍の世界の人間なんだ。私にはよくわかんないんだけどね。伍の世界はどうやら幻想や夢、妄想などを完全否定する世界のようだよ。


だからKもぬいぐるみや人形に夢を抱かない。でも信じてみたい。その葛藤がこの世界に出ているようだよ。


 つまり、上辺の世界では信じているけど心ではまったく思っていないって事。まだ幼い少女なのにその夢も妄想も完全否定されるなんてなんだかかわいそうだよねえ。話によると精神病と診断されているとか。」


 「夢や妄想を抱いただけで精神病……?なんだか悲しいね……。」

 ツインテールの少女にライは小さく返答した。


 「そうそう。神々もあっちの世界じゃあすぐに消えちゃうよ。この世界のさらに奥に伍の世界との結界があるんだよ。行って来たら?」


 「な、なんかだんだん怖くなってきたね……。」


 トケイが怯えながらスズの判断を待つ。もうトケイには何がなんだかさっぱりわからなかった。


 「も、もうこうなったらその結界まで行こうよ!」


 スズも半ばやけくそだった。確かに伍の世界は気になるがだんだんと知ってもしょうがないという意味がわかってきた。


 途方もない世界の話なのだ。自分達はやはり、自分達の世界で消えるまでのんびり生活するのが良いと感じてしまった。


 「行くなら開いてあげるよ。だけどね、結界を超えてはいけないよ。エネルギーの物質が伍とこちらじゃあ違うからあんた達、消えちゃって分解されちゃうよ。伍の世界はそういうのを排除した世界だからね。神も、霊も、宇宙人も何も信じない、数字と化学に縛られた世界だから。」


 ツインテールの少女がそう言ったのを最後にライ達はなぜか気を失った。


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