ゆめみ時…最終話夜の来ないもの達8
ライ、トケイ、セイ、スズは宇宙のような世界をただ落ちていた。辺りは黒一色でところどころに星のような光源が輝いている。
トケイがウィングを広げてその場に保とうとしていたがなぜか下降していた。
「ダメた。ウィング広げても下に落ちるのが止まらないよ。」
トケイが同じく落ちているライ達に不安げに叫んだ。
「何よこれ……。どこかの世界なの?落ちているみたいだけど全然落ちている感じがしない。」
スズも下の見えないその空間に恐怖に思った。
「ですが……敦盛さんを感じます。」
「セイちゃん!敦盛さんが見つかってもそこからどうしよう?」
「そ、そうですね……。こんな感じでは連れて帰れませんね。」
ライとセイが困惑した顔をしていると一人の少女と着物を着た男がふわりと現れた。
「……っ!?」
着物を着た男性は敦盛だった。
「敦盛さん!」
セイが叫んだ刹那、下に落ちるのがピタッと止まった。宇宙の真ん中に立たされているような感じだ。
突然現れた少女がライ達と敦盛を見、首を傾げて尋ねた。
「どうしました?」
「どう……しましたって……あなた誰?」
ライが恐る恐る少女に話しかけた。少女は奇妙な格好をしていた。頭に電子数字が回っているフードを被り、着物に袴、ブーツを履いている。目はぱっちり大きく、かわいらしい印象を受けるが表情がないため、若干怖く見えた。
「私?私はこの世界のKです。敦盛さん、あなたは奥様をお探しなのでしょう?」
「K!?」
少女の発言にライ達は驚きの声をもらした。
この世界のKと名乗った奇妙な少女は一応、ライに返答すると敦盛をまっすぐ見据えた。
「え?ああ。妻を探してまた、元の世界に戻りたいんだ。」
敦盛は動揺しながら少女に答えた。
「奥様はあなたの世界にいらっしゃいます。今、ここであなたの心を思い描いてください。」
「心を思い描く……?」
「奥様はあなたの心が創り出しています。ですからあなたがまた世界を思い浮かべれば自然に帰ってきますよ。」
少女がそう言葉を発した刹那、敦盛の目の前で壊れたはずの海辺の世界がわずかに開いていた。その白浜にある流木の上で着物を着た女性がそっと座っていた。誰かを待っているようだった。
「玉織姫!」
「世界はあなたの感情で修復されます。元の世界にお帰りなさい。」
「これは幻なのか?」
敦盛の質問に少女は一言答えた。
「……そうかそうじゃないかは私にもわかりません。ですが、これはあなたの世界です。あのお方があなたが想像した玉織姫さんなのかあなたの世界に入った本物の玉織姫さんなのか……それはあなたが決める事です。お幸せにお暮しください。」
少女の言葉を訝しく聞いていた敦盛は眉を潜ませたが、海辺の女性がこちらを振り向き、優しい笑顔で手を振り始めたのでどうでもよくなったのか笑顔で手を振り返していた。
「あれは玉織姫だ!今行くよ。」
敦盛は足早に目の前に開いた世界に入って行った。敦盛が入った直後、その世界は蜃気楼のようにぼやけて消えていった。
「……人はそれぞれ世界を持っています……。玉織姫さんには玉織姫さんの世界があります。玉織姫さんはご自身の世界で生活されている可能性が一番高いですね。……一番楽しかった時期に戻って……。なので敦盛さんのところにいる玉織姫さんはおそらく敦盛さんが創造した、もしくは一番楽しかった時期の玉織姫さんなのでしょう……。そういうものです。」
『この世界のK』と名乗った少女は無表情のまま一言ライ達につぶやいた。
「え……えっと……。」
ライ達は突然の出来事に戸惑い、言葉が何も出なかった。
「あの魂をここにおびき寄せて幸せな世界に返せて良かったです。ところであなた達は何をしにきたのでしょう?」
無表情の少女にライ達は返す言葉を探した。
「あの……平敦盛さんを……。」
自然と声が小さくなった。敦盛を救うためにここまで頑張ってきたがこの少女は敦盛がここに来るのを予測していたようでライ達の頑張りは無駄になってしまった。
「敦盛さんの魂を追ってここに入り込んでしまったのですか?」
「え……えっと……。」
ライはスズに目を向けた。スズは何も話さなかったがその表情が拍子抜けしたと言っていた。
「あのね、何か色々あったみたいなんだけど、とりあえずさふぁってハムスターが敦盛さんって人を救ってくれって言ったから来たんだけど。」
トケイが困った声を上げながら少女を見つめた。
「さふぁ……ですか……。まあ、仕方ありません。とりあえず、あなた達も元の世界に帰りなさい。時神達と壱の世界の神々。」
少女が手を前に出し、空間を開こうとしたがそれをスズが止めた。
「待って。あんた、Kって言ってたよね。」
「はい。この世界のKです。」
「この世界のKって事は他に世界があるって事ね。」
「いいえ。」
「……どういう事よ?」
スズは少女の言葉に首を傾げた。
「知らなくても問題ありません。」
「知っとかないと帰れない!Kがこのことを謎にするから半蔵と才蔵に襲われたんだからね。他のKも全部見せてもらうわよ!」
「……そうですか。いいですよ。見ても仕方のない事象ですが。」
スズのごり押しにKと名乗った少女はあっけなく了承した。
「い、いいの?」
逆にスズの方が困ってしまった。
「ええ。……ここはKの世界に入る前の空間です。ハザマの世界とでも呼びますか。私はこの空間を周り、迷い込んだ魂を元の世界に返す役目をしています。ですからここの空間は私の世界という事になります。私は私の世界に入り込んだ魂をあるべき場所に戻しているだけです。」
「……あのセカイって人形といい……なんでこんなにまわりくどいの?」
「まわりくどいですか……。説明が難しいのです。お許しを。」
スズの言葉を軽く流した少女はさらに続きを話し始めた。
「そして私の世界の下にKの心の上辺の世界があります。その世界の下にKの心の真髄の世界があります。まずはここから上辺の世界に行かれるのが良いでしょう。」
「……Kも弐の世界のシステムと同じなんだね……。」
トケイが小さくつぶやいた時、真っ暗な空間が下の方から青空に変わっていた。
「真髄の世界まで行ってもKは怒りませんがそこであなた達はどうしようもない事実を目の当たりにするでしょう。それでも良いならばここから先に行きなさい。私はここから先にはいけませんのでここであなた達を見ております。」
ライ達はまたゆっくり下降をはじめた。徐々に少女が遠ざかっていく。やがて辺りが宇宙のようなところから完全に青空に変わった。気が付くと芝生が元気に育っている丘のような場所に立っていた。




