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ゆめみ時…最終話夜の来ないもの達6

 とりあえず外に出た更夜は共に外に出てきたライ達を一瞥し、言葉を発した。


 「さて。行くか。トケイには負荷をかけるがセイとライを連れて……。」

 そこまで言ったところで更夜はふとある事に気が付いた。


 「更夜様?」

 ライが急に黙り込んだ更夜を心配そうに見つめた。更夜は眉を寄せたまま、さふぁに目を向ける。


 「そういえばあなたはKの元使いという事だが……。」

 「うん~?」

 さふぁはまだ何かあるのかとうんざりした顔で更夜を見上げた。


 「Kの使いは現世を生きる者達を複数人連れて夢、幻の世界である弐を渡れるとか。」


 「うん~?それはKの使いだよね~ん。私は元だよ~ん。その能力ないよ~ん。だいたいもう幽霊だしぃ~。」


 さふぁはやれやれと呆れた顔でため息をついた。


 「そうか。ではやはりトケイに頑張ってもらうしかないようだな。」


 「う、うん。大丈夫なんだけど……さっきからその女の子の服装が気になってさ……。」


 トケイは小声で更夜にささやいた。それを素早く聞き取ったスズがいやらしい笑みを向けた。


 「そっかあ。トケイはウブだもんね。っていうか、この女は破廉恥すぎるわ。ねえ?更夜。」


 「そうだな。」

 スズに話を振られた更夜はそっけなく一言そうつぶやいた。


 「あんたもトケイみたいにテレればいいのに。」

 スズがボソッとつぶやき、ライは更夜が照れるかと期待したが更夜はうっとうしそうにスズを追い払った。


 「とにかく、急ぎだ。さっさと行くぞ。」

 更夜の一声でスズは「はーい」とやる気なく返事をした。


 トケイは顔を赤くしたまま、さふぁをちらりちらりと見ながらセイを抱きかかえた。


 セイは先程からずっと集中したまま場所を特定していた。今までの会話がまったく聞こえていないくらいの集中力だ。トケイに抱きかかえられている事さえも気が付いていない。


 「とりあえず、セイは抱えるからライは僕の背中に掴まっててくれるかな?」

 「う、うん。」

 真面目な声音で話すトケイにライは緊張した面持ちで頷くとトケイの肩に手を置いた。


 「ちゃんと掴まっててね。肩じゃなくて脇から僕の胸あたりに手を回していた方が衝撃は少ないと思う。」


 「わ、わかったわ。」


 ライはちょっとドキドキしながらトケイの脇に後ろから手を通す。抱きかかえられているセイのすぐ下あたりの肋骨から腹辺りをギュッと掴む。


 「じゃあ行くよ。更夜達は霊だから弐の世界渡れるよね。セイが導く方へ行くからちゃんとついてきてね。」


 「はいはい。それは大丈夫よ。」

 「問題ない。」

 トケイの言葉にスズと更夜は頷いた。


 「じゃあ、行くよ。セイ、ライ。」

 「うん。」

 トケイにライは返事を返したがセイは集中しているようで返事はなかった。


 トケイはセイに無理に話しかけるのはやめて地を蹴った。足についているウィングを閉じて急上昇をする。更夜達、時神の世界を抜けてからはじめてウィングを開いた。


 トケイがバランスを取り、横にまっすぐ飛んでいく。辺りは現世を生きる生き物分の世界が広がっており、その現世を生きる者達の心がネガフィルムのように混ざり合っている。


 現世の人々が想像してできた世界もあれば心の真髄で作られたまさにその人の心という世界もある。この無限にある世界からセイは平敦盛の居場所をぼんやりと見つけたのだ。


 「セイちゃん、敦盛さんはどっちにいそう?」

 「……。このまままっすぐ進んで下さい。」

 ライの質問でやっと口を開いたセイは目を閉じたまま小さくつぶやいた。


 「トケイさん。まっすぐみたい!」

 「オーケー!また変わったら教えて。弐の世界は変動が激しいから道がすぐなくなっちゃうからさ。」


 「はい。」

 トケイの言葉にセイは一言答えた。


 更夜とスズとさふぁの姿は見えないがおそらく近くにいるのだろう。

 何かがトケイのまわりにいるように感じる。


 「はっ……!」

 しばらく進むと突然、セイが声を上げた。トケイは慌てて空中で止まった。


 「ど、どうしたの? 何?」

 「どうしたの? セイちゃん。」

 トケイとライがセイを心配そうに見つめた。


 「そんな……まさか……。」

 「セイ? どうしたんだい?」

 戸惑っているセイの顔にトケイは首を傾げた。


 「あの……敦盛さんがいる世界って……マイお姉様の世界のようです。」

 「えっ! お姉ちゃんの!?」

 セイの発言にライは目を丸くし、思わず叫んでしまった。


 語括神マイはライとセイの姉である。ある大きな事件を起こしたため、今は所属している高天原東の思兼神を筆頭とする東のワイズ軍に処罰されている。


 その事件とは太陽神サキが関わる事件なので、ここでは省く事にする。


 「はい。お姉様の世界にいるみたいです。良かったですね。他人の世界ではないので霊ではない私達もお姉様の世界の中に入り込めます。」


 「あ……そっか。まったく知らない人の心の中なら壱(現世)に存在している私達は入り込めないね。セイちゃんも生き返った事だし、全然知らない方の心の中の世界だったら困ってたよね。」


 「生き返った……? あ、そうです。私……一度死んで霊として弐の世界でよみがえったんでした。それで……また生き返った?」


 ライの一言でセイは意識を失っていた部分を思い出そうと首を傾げた。


 「あ……あの……えっと……セイちゃん。もうその事思い出さなくていいわ! それよりもトケイさんにお姉ちゃんが作った世界の場所を教えてあげて!」

 ライは慌ててごまかし、セイの集中力を元に戻した。


 「はい。……しばらくはまっすぐ進んでください。」

 「う、うん。大丈夫? セイ。」

 再び集中を始めたセイにトケイは心配そうに声をかけた。


 「大丈夫です。」

 セイがそれ以降何も話さなくなってしまったのでトケイはそれから何か言うのを止め、セイに従いまっすぐに進み始めた。


 またしばらく進んだ。あたりはネガフィルムのようなものが多数、蛇のように絡み合っているだけで特になにもなかった。

 セイが場所の指示を出してくれないとまるでわからない。


 「あ、右に曲がってください!」

 「う、うん!」


 トケイは間違えないように的確にセイの指示に従う。その時にその方向にいかないと不確定な弐の世界はすぐに道を変える。


 「そしたらすぐに左です。」

 「うん!」

 マイの世界はかなり入り組んだところにあるようだ。関係のない世界をうまく避けながらトケイは進む。


 トケイはなるべく瞬時の判断でセイの指示に従い、しばらく蛇行したのち、立ち止まった。


 「……ここ?」

 「はい。」


 気が付くとネガフィルムのようなものがまったくなくなっており、トケイ達はどこかの草原の上を飛んでいた。抜けるような青空がどこまでも続いており、不思議と太陽はない。


 どこからともなく優しい風が頬をかすめていく。


 「きれいな世界……。」

 ライは青々と茂る草原と透明感ある青空にうっとりと目を潤ませた。


 「とりあえず、下に降りるよ。」

 トケイはゆっくりと草原の方へ下降し、草原に足をつけた。何かがいる気配はない。


 セイとライはとりあえずトケイからそっと降りた。


 「ここが……お姉ちゃんの世界なの?」

 「はい。そのようです。」

 ライの質問にセイは辺りを見回しながら答えた。


 刹那、隣でふと風が舞った。


 「!」

 「そんな顔で驚かないでよ。わたしだよ。あと更夜とさふぁだわよ。」

 目を見開いて驚いているライの前にスズと更夜とさふぁが現れた。


 「あ、ああ……びっくりした。」


 「まあ、ずっと横にいたけどね~ん。現世にいる神には霊体の私達は見えないからしかたないよね~ん。こうやって誰かの世界に入らないと実態が見えないんでしょ~ん。」


 さふぁがやれやれとため息交じりにライを見据えた。


 「とにかく早く平敦盛とやらを探すぞ。」

 さふぁの隣にいた更夜が目を細めて気配を探っていた。


 辺りを見回していると少し遠くに建物のようなものが映った。


 「あれは……家……かな? ……行く?」

 トケイが遠くに見える家のようなものを眺め、首を傾げた。


 「行こうよ!」

 「そうだね。行ってみよう。」

 スズの言葉にライは頷き、皆で建物に向かいそっと歩き出した。


 その建物は民家のようだった。古い日本の民家だ。

 かなり遠くにあるように見えたが実際はあっという間に家の前についた。茅葺屋根の和の匂いが漂うその家には誰かが住んでいるような気配がした。


 「誰かいるな。」

 更夜が眉をひそめた刹那、横開きの扉がガラガラと開いた。そして中からマイが顔を出した。


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