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流れ時…2タイム・サン・ガールズ11

足音も障子を開ける音も何一つしなかった。

『彼女』はアヤのすぐ後ろに立っていた。


「……っ!さ、サキ?」

「うん。まあ、そうだけど。」


サキはアヤが知っているサキとは違った。

外見がまるで子供だった。


まだ顔つきがあどけない少女だ。

でも顔つきでサキだとアヤはわかった。


「あなた、なんで……。」

「おねぇちゃん、あたしを知っているのかい?」

「え……?」


少女サキの質問にアヤは首をかしげた。

質問の意味がわからない。


「あたし、今、こっちの世界にいないんだ。

だから鏡を使ってこの宮に顔を出したんだけどこの宮も虚像なんだね。

あ、あたしは完全な虚像だからここから動けないし物に触れられない。」


いままでのサキにないくらいこちらの状況がわかっている。あの時の彼女は神の存在も何もかも知らなかったはずだ。


「あなた、本当にサキなの?」

アヤは疑ってかかった。


「ああ、そうか。もう一人のほうのねぇ。」

「もう一人……。」


そこでアヤは気がついた。


「もう一人!そうか!あなたは陸の世界のサキ!」

「そう。この術の解除の仕方教えるからその通りにやって。」


アヤの知っているサキではなく、もはや別人と呼んでいいくらいだった。


「あなた、なんでそんな事知っているのよ。」

「あたしは太陽神。知ってて当然だよ。」

「太陽神?おかしいわ。太陽神は二つの世界を一人で行き来するんでしょう?この世界にいたサキは……。」


アヤは目を見開いたが当の本人は呆れた目を向けてきた。


「そう。まあ、色々疑問あると思う。……でも、今はさ、そんな事説明している場合じゃないんだ。お母さんに見つからないようにあたし、鏡を使っているからあまり時間ない。説明は省く。」


「お忍びでここに現れたってわけね。

なんでそこまで術の解除を手伝ってくれるの?」

「お母さんを止めてほしいから。あんたらお母さんと対立してんでしょ?この術にハマってるってことは。」


「止めてほしい?対立って何よ?」


アヤが質問をしようとした時、サキの顔色が変わった。


「だからー、こんな無駄話している場合じゃないんだ。今、物音がしている。お母さんが来るのも時間の問題だ。その前に……。」

「わ、わかったわ。今はあなたに従いましょう。」


アヤは一度、疑問を捨ててパソコンに向かった。


「まず、キーボードでO❘Qと打つ。これは『鏡に光が反射する』という太陽神達の中での合言葉のようなもの。」


アヤはサキの言葉に従い、O❘Qと打った。すると、鏡だったパソコンがオレンジ色に染まった。


「そうしたら、次にO><。これは『鏡に光が多数反射した』という太陽神達の第二の合言葉。それでやっとパソコン内に入れる。これは一か月毎くらいに変わるんだけど、たぶん、今はこれ。」


「けっこうめんどくさい管理しているのね。パソコンに入るのに二回もパスワードがいるなんて。」


アヤはそうつぶやきながらO><と入力した。すると今度は青色の画面に変わった。


「なんか文字が書いてあるわ。私には読めない。」

文字は暗号で書かれており、アヤには読めなかった。


「これは『現在、鏡の間を展開中、パソコンをシャットダウンしますか?』って聞いてる。」

サキは表情を変えずアヤに答えた。


「パソコンをシャットダウンしちゃったらいままでの意味ないじゃない。」


「それが罠。

ここでシャットダウンしなければパソコン本体が扱っている側を異物と判断する。これが読めない奴は当然異物だけど、読めたからってそのまま続行しようとした奴も異物と判断する。

つまりここは一度シャットダウンする。」


「だからそれ、意味ないじゃない。同じことを繰り返すだけよ?」

「いいから大丈夫。」


サキが落ち着いているのでアヤはそれに従う事にした。


「シャットダウンしたわよ。」


アヤが若干むくれたように言った時、パソコンがまた動き出した。

シャットダウンしたはずなのに動き出したのでアヤは驚いた。


「そのまま。46秒待機。ちなみに46億年……太陽の年齢だね。」


サキが黙っているのでアヤも黙った。しばらくの間、無言だったパソコンにゆっくりと白いラインが現れた。真黒の画面の中、静かに浮かぶ白いラインをアヤは不気味に思った。


「これ、何なのよ……。」

「これが本来のパスワード。ここまで来てやっとシステムの中に入れる。」

「めんどくさいわね……ほんと。」


「じゃあ、続いてここにSOL1392000と入れる。SOLはラテン語で太陽、1392000キロメートル。太陽の直径。」


アヤは頭がくらくらしてくるのを抑えながら数字を入れた。今度は真っ赤な画面が現れた。その真っ赤な画面からまた白いラインが浮かぶ。


「また入れるわけ……?」

「うん。次は6000―200。6000℃は太陽の温度。そして200万℃は太陽の周りを覆うコロナの温度。」


「……。」

もうなんだか疲れてきた。ため息をつきながらアヤは頑張って入力した。


「最近の太陽神は人間達の情報を使うのが好きみたい。合ってても間違っててもいいんだ。じゃあ次だね。」


次のパスワード画面は今までとは少し違った。なぜか白いラインが二行だ。


「これ、けっこう長いんじゃない?」

「これは蝉丸の歌を入れればいいんだ。」


「蝉丸?」


「うん。これで最後。『世の中は とてもかくても同じこと』まで上の欄に入れて下の欄は『宮も藁屋わらやもはてしなければ』と入れる。」

「なんでここだけ新古今和歌集なのよ……。」


アヤは頭を抱えながら日本語変換した言葉を入れていく。これはどう頑張っても一人ではできなかった。


この歌は知っていた。『世の中は とてもかくても同じこと 宮も藁屋もはてしなければ』。


訳はこうだ。


この世はどう過ごそうと同じ事だ。華やかな宮殿も粗末な藁屋も最後にはなくなってしまうのだから……という歌である。


入力したら『止める』というプログラムが出た。


「なるほど。この宮も現れた分身も最後にはなくなるって事をかけたつもりなわけね。」

「感心している場合じゃないよ。

この空間が消えて元の宮に戻る。


つまり、ここは太陽神であふれ、あちこちに太陽神がうろつく。

早くここから離れた方がいいよ。

あんたは太陽神から逃げているんだろ?


……お母さんが来る。

じゃあね。あ、言い忘れてたけどこっちのサキは元気だよ。」


サキはそう言うと煙のように消えた。

彼女の存在がいまいちわからないままアヤは立ち尽くしていた。


それからハッと我に返り、慌てて立ち上がると部屋を飛び出した。

声があちらこちらから聞こえてくる。


まだ声だけだがおそらくこれから姿が現れる。

声からするにかなり沢山の太陽神がいるようだ。


 「術が破られた!」

 「なんでだ?」


 動揺の声を耳で聞き流しながら必死でエスカレーターの階段を駆け下りる。その中、奇妙な発言が耳に入った。


 「こんな禁忌に手を染めてよかったのか……。」

 「私にはもう……できん。」

 「向こうに罪はない……従わざる得ない自分が恥だ……。」


 何かに怯えている太陽神達の顔が映った。その顔はアヤを見つけるたびに暗く沈む。


 ……何かしら……


 そう思ったがアヤには確認している余裕はなかった。

 仲間が心配だったからだ。


 一階にたどり着いた。まだ一階は誰もいなかった。霧がかかったようにまわりが白くもやもやしている。これから徐々に元の宮に戻っていくのだろう。


 「皆……どこ?」

 アヤはサルと時神達を探した。

 何も考えずにフラフラと歩いているといきなり手を引っ張られた。


 「きゃあ!」

 アヤはいままで気を張っていたせいかひときわ大きな声で叫んでしまった。


 「しーっ!」

 叫んだ後すぐプラズマの声が間近で聞こえた。


 「え?」

 よく見ると自分は畳の下にいた。

一枚だけ畳が上に持ち上がっており、その下にプラズマ、栄次、サルがいた。


 あたりは元に戻りつつある。

 栄次が素早く畳を閉じだ。閉じた瞬間、暗闇に包まれた。


 「よくがんばったな。助かった。おかげで怪我なく分身が消えた。」

 栄次が無表情のままでアヤを褒めた。


 「よくこんなところに隠れようって思ったわね……。」

 「障子戸で閉じられた部屋は皆、床が畳でござる。隠れるには畳の下が一番見つかりにくいと思わんでござるか?」


 「まあ、ここが一階だからできる技よね。」

 「それより、太陽神のシステムはアヤ殿に解読できるくらい簡単なものだったのでござるか?」


 サルがほっとした顔でこちらを見るのでアヤもやっとほっとした顔を見せる事ができた。


 「いいえ。凄かったわ……。あ、そうそう、陸の世界のサキに手伝ってもらったのよ。彼女がいなければなにもできなかったわ。」


 サルの目が軽く開かれた。


 「なぜサキ殿が?」

 「彼女は太陽神らしいわよ。」

 「太陽神だと!」


 アヤの発言にサルだけでなく栄次もプラズマも驚いていた。


 「どういう事だ。それは……。」

 「私にもよくわからないのよ。外見も小学生くらいだったし……。お母さんに見つかるとまずいみたいな事を言っていたけど。」


 「だから……どういう事なんだ?それは。」

 プラズマは眉を寄せて何かを考えている。


 「わからないわよ。後、お母さんを止めてほしいとも言ってたわ。」


 「今回の件……サキ殿の母上が何かをやっているという事でござるか?

サキ殿が信じられんが太陽神だとするなら、母上もおそらく太陽神でござる。」


 アヤ達はサルの言葉で黙り込んだ。


 なんだかわからない。

 そういう表情がそれぞれに浮かんでいた。


 周りは元のガヤガヤした空間に戻っている。足音と自分達を探す声がしきりと聞こえてきていた。こんな状態でどうやって陸の世界へ行けというのか。


 「話は変わるけど……このまま日暮れまでここにいるとしてどうやって陸の世界へ行くの?ワープ装置が三階にあるんでしょう?」

 「……。それは……なんとかするしか……ないのでござる……。」


 サルは思考回路がよろしくないらしい。

 冷や汗をかきながら一生懸命に考えているが頭が真っ白になっている。


 「パスワードがいっぱいとかそういう事ってない?」


 「それはないのでござるが……。

ああ、そういえばあの時間帯は猿、太陽神達は陸の世界へ行く事で精一杯でござる。おそらく今日も同じ。


とりあえず陸へ行くため、小生らの事は後回しにすると思われるのでござる。それ故、今こうやって彼らは小生らを必死で探しているのでござる。」


 「つまり、陸へ行かなければならない時間帯になる前に俺達を探し出さないといけないんだな。向こうの連中は。」


 途中でプラズマが話に入ってきた。サルはうなずいて続けた。


 「陸へ行く時間帯までここで粘って、太陽神が全部陸へ消えた段階で……

まあ、ギリギリになるのでござるがその夜になるわずかな時間の中で陸へ行くって手があるのでござる。」


 「もうそれしかない。……今のサルの話だが太陽は壱と陸では違うのか?」

 栄次は相槌をうちながらサルに目を向けた。


 「いや、基本なんら変わりはないのでござるが空間が変わる故、太陽自体が陸に突入する際に一瞬だけ人間が見ている表の太陽に変わるのでござる。


 つまり、6000℃だの200万℃だのといった数字がまわり、霊的空間がまるでなくなり、神々が住むことができない所へと変わってしまうという事でござる。


人間には霊的空間も陸の世界も何も見えない故、

ただ燃え盛っている球体に見える……物理的科学的に太陽を分析しても小生らとの関係性はまるで出てこない……という事でござる。


まあ、神々は人間を見守ってはいても基本、関係を持ってはいかぬと言われておる故、太陽の存在でわざわざ霊的空間があると人間達に教えなくてもいいと……。


話がそれたがここでのワープ装置とは霊的空間がない時間帯に小生らが一瞬身を隠すところでござる。

実際ワープではないが壱から陸へ行っているという事でワープ装置と呼んでいるのでござる。」


 「そうか、それで太陽神達は陸へ行く事が最優先事項になるということか。」

 栄次がサルの長ったるい説明を一文字も漏らさず聞き、大きくうなずいた。


 「それよか、狭いな……。野郎に囲まれたアヤがかわいそうだ。」

 プラズマはサルの説明を軽く聞き流しながらアヤに笑いかける。


アヤは現在、プラズマにもたれるように座っている。

ここは収納庫になっているのか下でつながっているわけではなくボックスになっているので潜むのには厳しい。


 「ちょっと、変な考えはよして。」

 「こんなに触られてたら変な事考えるだろ。おまけに薄暗い。」


 プラズマのにやつきはさらにひどくなった。それを見ているサルはきょとんとしており、栄次はあからさまに嫌そうな顔をした。


 「わ、私だって……恥ずかしいわよ。私、彼氏いない歴年齢なのよ?こんながっつり肌が触れ合っているし、男に囲まれて正直、どうしたらいいかわからないわよ……。」

 アヤはそう思えば思うほどなんだか恥ずかしくなってきた。


 「プラズマ、よせ。」

 「栄次はそういう感情になった事ないのか?」


 プラズマのにやつきは栄次に向けられた。


 「こんな状況でそんな事が言えるお前の頭の中身を俺は知りたい。」

 栄次は無意識にアヤから少しずつ離れていた。


 「栄次、ひょっとすると……女苦手なんじゃないか?」


 「お前、俺をいくつだと思っている……。お前もだ。歳を取りすぎている。いまだそんな事を言っているのか。」


 「ほら、そうやって逃げるだろ。ま、アヤを女扱いするにはまだ早いかもしれないが。何と言ってもまだ十七、八の娘だ。」

 プラズマはへへっと笑う。


 「……歳、これ以上とらないけどね。あなたも色気の出ている大人には見えないわ。」

 プラズマの言動をアヤは皮肉めいた口調でつぶやいた。

 栄次は呆れた顔をプラズマに向ける。


 「……俺の時代だと十七、八は結婚して当たり前の歳だ。アヤは女として充分成立している。お前の方が子供だ。プラズマ。」

 「おいおい、俺達歳とらないだろ?子供っていわれてもなあ。」


 時神達の談笑を聞きながらサルはふと思った。


 ……彼ら、時神はどれだけ心に闇を抱えているのだろうか……と。


 サルはこそこそ笑い合っている時神達をそっと眺めていた。

 足音は相変わらずひどいが先程よりも少なくなったような気がした。

 おそらく太陽神達は上階を調べに行っているのだろう。


 「ねぇ、足音、なくなってきたわね。」

 アヤがふいに話しかけてきた。


 「そうでござるな。」

 「まさか、またあの術使っているんじゃないでしょうね?」


 「あの術は高等な術で禁忌、一度が限界でござるよ。」

 サルは不安で縛られたアヤの心をほどいてやった。


 ……しかし、この娘はこんなにも臆病であるがなぜここまで協力的なのか、不思議でござるな……。


 サルは開いた目を閉じ、ただ時が過ぎるのを待つ体勢に入った。


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