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ゆめみ時…最終話夜の来ないもの達4

 しばらく静寂な時間が流れた。トケイと憐夜が絵を描いて遊びはじめ、スズは横になりながら少女漫画であるクッキングカラーを読んでいた。まだセイは目覚めない。


 ライと更夜は壁に背をつけるように座り、セイを見ていた。

 セイはトケイの攻撃によってケガを負っていたはずだが今はきれいさっぱり治っている。


 「セイちゃん……起きませんね……。」


 ライはセイが大事に抱えている金色の笛に目をそっとむけた。セイが厄神に落ちていた時、笛は平敦盛が持っていた古い笛になっていた。


おそらく、セイが持っている笛はライの筆と同じく霊的なものでホログラムのように実態がなく簡単に姿を変えてしまうらしい。完璧に実態がないわけではない。存在はしているため、セイを見る事ができる人間ならば笛を触る事もできた。


 「Kの使いとか言っていたあの人形……セカイは大丈夫だと言っていた。じきに目覚めるだろう。再構築とやらの反動が起きているのかもしれない。」


 更夜はライにそっとささやいた。


 「そ、そうですよね……。セイちゃんは本当はいい子なんです。まじめで礼儀正しくて……。」


 「知っている。一緒に記憶を見ただろう。それに俺にはあの記憶だけじゃなく、ほかの出来事も見えている。」


 「……?」

 ライが首を傾げたので更夜は続けた。


 「わからんか?俺はこの世界の時神過去神なんだぞ。過去見をすれば過去も見える。それが過去神の特殊技だ。」


 「そ、そうなんですか?」

 ライの問いかけに更夜は「ああ。」と小さく返事をした。


 そんな会話をしている時、ぴくんとセイの眉が動いた。ライはすぐにセイのそばによった。


 「セイちゃん!」

 何度か名前を呼んだ時、セイの目がうっすらとあいた。


 「……お、お姉様?」


 セイはぼうっとした顔でライの顔を眺めていた。セイは自分がなぜここにいるのか、いままで何をしていたのかまだわかっていなかった。目はうつろでただライを見つめている。


 セイが目覚めた事に気が付いたトケイ、憐夜、スズもセイのそばに寄ってきた。


 「あなた達は誰ですか?……あれ?」

 セイは回転しない頭でスズ達を見上げた。


 「あんたのお姉ちゃんと一緒にあんたを助けた人達だよ。」

 スズはセイの顔を覗き込みながらそう答えた。


 「私を助けた……?……私は人を助けた方だったはずなのに……。」

 セイは困惑していた。記憶が定着しておらず、あいまいのようだった。


 「セイちゃん!セイちゃんは厄神に落ちちゃう所だったの!お姉ちゃん、心配したんだよ!」

 ライはセイを抱きしめながら目に涙を浮かべた。


 「お……お姉様……。ごめんなさい……。私が厄神……。そうです……思い出しました。私、人を呪っていました……。人の心に失望し人間が嫌いになった神に生きる場所なんてないって思って……それから……記憶がありません……。」


 「セイちゃん……。確かに神は人の感情で生まれるから人が嫌いになってしまったら存在理由がなくなっちゃうかもしれないね……。でもセイちゃんは私の妹だから……。」


 「お姉様……。」

 セイは切ない顔をしながらライを見つめていた。


 「セイちゃん自身が消えないように……お姉ちゃん達のためにずっと人間を信じ続けてほしい。それが私の願いだよ……。セイちゃん。」


 「……申し訳ありません。頑張って努力しますが最初に消えるのはやはり私かもしれません……。」


 「じゃあ人間のいいところを今度探しに行こう!そうすればきっと頑張れるよ。」


 「……はい。」

 ライはセイに向かいほほ笑んだ。セイはライの背に手を回し小さく嗚咽を漏らしながら泣いた。


 セイの頭をライは優しく撫でていた。

 その様子を眺めながらさふぁが呆れた顔でセイを見据えていた。


 「……あのさ~ん。大変心苦しいんだけどさ~ん。」

 「……?」

 ライ達の目がいっきにさふぁに向いた。


 「セイ、あんたのせいでさ~ん、平敦盛って人の世界が壊れちゃったんだよ~ん。何とかしてくれないかな~?」


 さふぁはセイに面倒くさそうに要求を話した。さふぁはセイの行動が迷惑だったと思っているようだった。


 「敦盛さん!笛を返したところまでは覚えているのですが……。私が敦盛さんの世界を壊した……。それは本当ですか!あっ!のっ、ノノカは……ノノカは大丈夫ですか!」


 セイは怯えに似た表情を浮かべ、叫んだ。唐突に様々な記憶がセイを駆け巡った。


 「セイちゃん、落ち着いて!」

 ライはセイをなだめた。その横でスズがセイに声をかける。


 「大丈夫だよ。ノノカもタカトもショウゴも……。タカトとショウゴは後悔を抱えたノノカの心の中でノノカを守っていくって言ってたわよ。」


 「……私が介入しなければ……タカトもショウゴも死ななかった……。私のせいで……。」

 セイは顔を手で覆い、震えていた。


 「あのさ、過ぎたことをくよくよ悩んでてもしょうがないんだよ。あんたが今、やんないとなんないのは敦盛って人の魂を探すこと。あんたが壊したんだからあんたが元に戻さないとダメ。やる事があるんだから悩んでもしょうがないって。」


 スズはセイの肩に手を置き、セイに諭すように言葉を発した。


 「……。」

 「あんたの力が必要みたいなのよ。わたし達も協力するから先に落ち込まないで。」


 「……。そ、そうですよね……。私は敦盛さんの世界を元に戻さないといけない使命があります。私がいくら後悔してもこの事態は変わりませんね……。」


 スズの言葉にセイは涙をぬぐうと頷いた。


 「そうそう。それでね、今、話してたんだけど、あんたの笛で平敦盛がいる場所がわからないかなって思ってね。」

 スズはセイの様子を窺いながら先程の話をセイにもした。


 「私の笛で……。できるかもしれません!やってみます!」

 セイは真面目に頷くとさっそく行動に移した。


 「ほんと、きっちりかっちり真面目な妹だね。セイは。」

 スズは隣で大人しく会話を見守っていたライにそっとささやいた。


 「そうなの。セイちゃんはいつも真面目でまっすぐ。だからあの時、壊れてしまったのかもしれないわ。」


 ライはスズにそう答えるとさっそく敦盛を探し始めたセイをじっと見つめた。

 トケイと憐夜は固唾を飲みながら状況を静かに見守っていた。セイは自分に注がれる視線を緊張した面持ちで受け止めながら目を閉じ、笛を額にそっと当てた。


 「はっ!」

 セイはすぐに目を見開いた。笛が敦盛の笛なだけあり、何かを感じ取ったようだった。


 「セイちゃん?」


 ライが心配そうにセイを窺う。セイは大きな目をさらに大きくしてライを仰いだ。


 「お姉様、敦盛さんがいる場所が……すぐにわかりました……。」


 セイは自分でもこんなに早くわかるものだとは思っていなかったので声が若干震えていた。


 「え?なんだかよくわからないけど早い!」

 トケイがかろうじて驚きの声を上げていた。ほかの面々も驚いていた。かなり時間のかかることだと思っていたからだ。


 「本当に大丈夫なのか?」

 更夜も心配そうにセイを見つめた。


 「はい……。たぶん。」

 セイは自信なさそうに言ったが表情は確信を持っていた。


 「そうか。ではさっそく行動に移そう。才蔵と半蔵に気をつけねばな。」

 更夜はほかの面々を一通り見回すと逢夜と千夜を呼んだ。


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