ゆめみ時…最終話夜の来ないもの達3
「この女は元Kの使いとの事だ。更夜の日記とやらも読ませてもらった。Kの使いは人形やらネズミといった者達だと書いてあった。この女はネズミだ。」
「元……Kの使い……で……ネズミ……?」
スズは動揺しながら恐る恐る声を上げた。その横でライはこの外見をどこかで見たことがあったのを思い出していた。
それは少し前だ。太陽神サキとライの姉、マイが関わる事件が起こり、その時に弐の世界でサキ達を運んでいた者達をライは見ていた。
よく見ると運んでいた者達の外見が目の前にいる女と同じような感じだった。獣の耳がついており、顔には動物の髭が生えておりパッと見て人型をしているが足の指などがよく見ると少しおかしい。
人物画も心得ているライにとってこれは奇妙な人型だった。どこかの骨格構造が想像物になってしまっているような気がする。
「そうよ~ん!私はさふぁ。ハムスターよ~ん。でさぁ……言いたいんだけど……。」
奇妙な女、さふぁは説明しようとした千夜を丸無視し、勝手に話し始めた。
千夜はため息をつくとさふぁに話を譲った。
「実はねーん、Kのお手伝いを頼みたいのーん。なんかねー、そこの女の子に壊された平敦盛を探してるんだけど~、見つからないんだって~ん。」
さふぁはライの前で寝かされているセイを困った顔で見つめながら語った。
「敦盛さん……。」
ライは目を伏せた。なんとかしなければと思っていた。妹のセイが起こした事は許される行為じゃなかった。
「と、いう事でね~ん。平敦盛を探してほしいのよ~ん。それと……。」
さふぁはそこでいったん言葉を切り、ライ達を睨みつけ、再び口を開いた。
「……Kの手伝いをするにあたってKの事を調べたりしないでね~。」
「……それほどまでにKは存在を隠したいのか?」
さふぁの発言に更夜は疑問を口にした。
「私にはよくわからないんだけどさ~ん。霊達が知ってもどうにもならないから、知らない方がいい~ってKが言ってたからさ~ん。」
「それはお前が『沢山いる』と答えたKの内のどのKだ?」
逢夜が鋭くさふぁに質問をした。
「うーん……。難しくて言えないよ~ん……。」
さふぁは苦笑いで逢夜を仰いだ。
「難しくて言えないとはどういう事だよ?」
逢夜はさらに質問を重ねる。
「……伍の世界のご主人であり弐の世界のご主人であり結界のご主人でもあるって事だよ~ん……。私もよくわからないんだよ~ん……。」
「なるほど……確かにわからねぇな……。何を言ってんだかさっぱりだぜ。」
逢夜はさふぁの顔色を窺ってみた所、さふぁは本当によくわかっていないようだった。
それを見た逢夜はそこからKについて聞くことをやめた。
だが、いずれ暴いてやろうとは思っていた。逢夜の話が切れたところで千夜が再び声を出した。
「話を変えるぞ。その敦盛とやらはどうやって探せばいいのだ?」
「どこかの世界にいると思うからさ~ん、それを連れて来てほしいんだよね~ん。」
千夜の質問にさふぁはてきとうに答えた。
「そういやあ、セイの笛が平敦盛の笛なんじゃなかったのか?それ使ってなんかできねぇか?」
逢夜が閃いた顔でさふぁに言葉を発した。
「うーん……。なんかその笛さ~ん、データが再構築されちゃっているみたいなんだよね~ん。まあ、歴史は持っているから導いてくれるかもしれないけどさ~ん。」
さふぁはセイが大事に抱えている笛に目を向け、ため息をついた。
「あ、あの……。」
ふとライが声を上げた。
「何さ~ん。」
「魂の色さえわかればなんとかなるかもしれません……。」
「そうだわ!ライにはその謎の能力があった!」
怯えながら話すライにスズは元気よく口を開いた。
「ライはね、思い入れのあるものの魂の色が見えるのよ!」
「あ、あの……で、でもね。スズちゃん。絵以外のものをやったことがないからできないかもしれない。」
「そ、そうなの?」
自信なさそうなライの表情にスズの顔も曇った。
「私が言いたいのはそこじゃなくてね。もしかするとセイちゃんならわかるかもしれないと思ったからで……。ええと……セイちゃんはたぶん、音楽で魂の色が見えるんだと思う。だから楽器でもたぶんわかる。」
「なるほど。セイがわかるかもしれないとね。セイが起きるまでとりあえず待ってみるって事ね。」
「ダメかな……。」
ライはスズに小さく頷いた。
「確かにな。やみくもに探すよりもそちらの方が良さそうだ。」
いままでずっと話を聞いていた更夜はライの発言に同意した。
ライは更夜達が当たり前のように手伝ってくれていることに罪悪感と感謝の念が心で渦巻いていた。
「みなさん……セイちゃんのためにここまでしてくださって本当にありがとうございます……。私ひとりじゃ今もセイちゃんを救えていなかったと思います……。セイちゃんの迷惑で弐の世界も壊してしまって申し訳ありません……。」
ライは涙声になりながらも更夜達に深く頭を下げた。姉として頭は下げなければならないと思った。
本当は身内で解決しなければならない問題だったのだがそれが大きくなってしまい、助けを借りざる得なくなってしまった。何の見返りもないにも関わらず更夜もスズもトケイも真剣にライに力を貸してくれた。
心からこの時神達に出会えてよかったと思った。
「ライちゃん、まだ終わってないんだから泣かないの!いいよ。今度はセイにも手伝ってもらおう?」
スズが優しくライの背中を撫でる。
「ありがとう……スズちゃん……。」
「僕はほとんど何もやってなかったから今から頑張るよ!セイを助けられてよかったね。」
涙ぐんでいるライにトケイも声をかけていた。
「ありがとう。トケイさん……。セイちゃんが壊した世界をもとに戻すところまでよろしくお願いします……。」
「うん!もちろん。」
トケイは表情を作ることができず、無表情だったが元気に声を上げた。
それを一瞥し、千夜が立ち上がった。
「では、私と逢夜は他に敵襲が来ないように外で見張りをしている。」
千夜が小さく言葉を発した。
「千夜さん……ありがとうございます。」
「問題はない。ライが憐夜と私達を結んでくれた。憐夜から生み出されたあなたを私達は放っておけなかっただけだ。」
千夜はライに一言そういうと足音もなく歩き出し、障子戸を開けて外へと去って行った。
「じゃ、俺も外にいっからよ。」
千夜が去ってから逢夜も立ち上がった。
「逢夜さん、ありがとうございます。」
ライは立ち上がった逢夜に慌てて礼を言った。
「……別にお前のためじゃねぇ。俺が動いた理由は出来の良すぎた弟が心配だったのと渦中にいつも入りたがるお姉様を守るためだ。まあ、憐夜に近いものを感じて助けちまったのも一つだがな……。」
逢夜は軽く笑うと千夜の後を追い、足音無く去って行った。
ライが頭を下げる中、憐夜はじっと逢夜の背中を見つめていた。




