ゆめみ時…最終話夜の来ないもの達1
白い花畑を円形に囲むように木々が覆い茂っていた。ここは夢、幻、霊魂の世界である弐の世界。その弐の世界の内部に時神達が生活している世界があった。
この白い花畑の世界は時神達の世界だ。白い花畑の真ん中に少し広めの一軒家が建っていた。
銀の髪に青い着物、黒い袴を着ている時神過去神、更夜は眼鏡をかけなおすと白い花畑を囲むように生えている木々に隠れ、辺りを窺っていた。自分達が住んでいた一軒家を遠目でじっと観察する。
「気配を感じないな……。静かすぎる……。スズ、何か感じるか?」
更夜は自分の後ろにいる黒髪の少女、時神現代神スズに目を向けた。
「……何も感じないね。」
スズは静かにそう答えた。スズのさらに後ろには金髪のかわいらしい少女、絵括神ライと時神未来神である少年顔のトケイ、そして更夜の妹憐夜がいた。
金髪の少女ライは気を失っている妹、音括神セイを抱きながら不安そうな表情を向けていた。
「千夜さんと逢夜さんは大丈夫なのでしょうか……。」
「お姉様、お兄様がそう簡単にやられるとは思えないが……。術の感じもなく、不自然な風の動きもない。戦いは終わっているようだ。」
ライの言葉に更夜は分析しながら答えた。後ろにいたトケイはライと更夜の会話に首を傾げた。
「ね、ねえ……なんで僕達の……時神の世界で戦いが起こったの?ん?」
この状況を何一つ把握していなかったのが時神未来神トケイである。トケイは先程まで夢、幻であるこの弐の世界で暴れまわっていたセイのせいで鎮圧システムが作動し、感情を失っていた。
今、セイは元の状態に戻り気を失っている。セイの状態が元に戻った事によりトケイの鎮圧システムとやらも何事もなかったかのように消えた。元のトケイに戻ったがシステムが作動していた間、彼は何をしていたのか思い出せなかった。
スズは首を傾げているトケイに簡単に説明をした。
「うーん。それがねぇ……。いろんな事がありすぎて説明が難しいんだけど、……才蔵と半蔵は知っているわよね?」
「うん。ライと一緒に捕まった時に半蔵にいいようにやられたよ……。」
トケイは少し前の記憶を呼び戻し、ため息をついた。
「なるほどね。そこの記憶はあるわけね。で、その才蔵と半蔵がわたし達の世界に襲ってきてね……更夜のお兄さん、お姉さんに抑えてもらってたの。」
「そ、それは大変だよ!今すぐ助けないと!」
スズの言葉にトケイは慌てて飛び出そうとした。
「ちょっと待ちなさいってば!その助力のために来たのは間違いないけど、少し様子を見なさいよ!」
スズがトケイの服を掴み、元の場所に連れ戻した。
「う、うん。」
トケイは素直に頷き、動きを止めた。
「……とりあえず、俺が先に行って様子を見てくる。あなた達はここにいなさい。……トケイは女達を守っていてくれ。」
「うん!」
トケイは元気よく返事をした。トケイの返事を聞き、更夜は軽く頷くと林から飛び出していった。
更夜が男の中で唯一信頼しているのがトケイだった。素直で人間ではあまりみない深い優しさがある。トケイの優しさには人間が持つ自己満足の優しさは含まれていない。
単純に他者を心配するだけの曇りのない優しさが信頼されるきっかけとなった。
更夜は白い花畑を走りながら自分達が住んでいる一軒家を目指した。




