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ゆめみ時…4夜は動かぬもの達16

 一方で更夜達時神の世界では先程から何の動きもなかった。千夜と半蔵、逢夜と才蔵はまったく動けないまま膠着状態が続いていた。


 千夜と半蔵とはだいぶ離れたところで逢夜と才蔵が倒れていた。


 逢夜は姉である千夜を心配していた。気にはなったがまったく動けないので仕方なくその場にいた。その時、逢夜と才蔵の前に発育の良さそうな女が現れた。


 「さっきから見ていたけどぉ、大変そうねぇ~。」

 「あァ?」


 逢夜は目の前に立った女を睨みつけた。睨みつけた理由は特にないが逢夜は若干、気性の荒いところがあり、どんな人にもこんな感じであった。


 「うう……。なんで睨むのよ~ん……。」

 女はびくっと肩を震わせ怯えていた。


 「お前、誰だ?」

 逢夜はとげとげしく女に尋ねた。


 女は奇妙な格好をしていた。灰色の髪の真ん中に黒い線が入っており、獣の耳がついている。顔には動物の髭のようなものが生えており、服装はやや破廉恥だ。


 下着などはつけておらず、上から羽織を羽織っただけである。下は太ももを大きく出した下着に近いパンツ姿だ。


 「私?私は元Kの使い、さふぁって名前だよ~ん。」

 「Kの使いだと!」

 女の自己紹介に逢夜は驚いて叫んだ。


 「元だよ~ん。元。」


 「ていうか……あんた、すごい格好をしてんだな……。そりゃあ、女がする格好じゃねぇよ。」


 逢夜はさふぁと名乗った女の豊満な胸をあきれた目で見つめた。


 「まあ、私は元々ハムスターだしぃ。人間の服ってきらいなのよね~ん。でも、Kが人型でいるなら服を着た方がいいって言うからさ~ん。羽織だけ羽織ったっていうか~。」


 さふぁは投げやりに言葉を発した。逢夜が何かを言おうとした刹那、別の男の声が聞こえた。


 「……ハムスターとはなんですか?」

 さふぁに話しかけたのは逢夜ではなく隣にいた才蔵だった。


 「え~とね~……。」


 さふぁは困った挙句、本来の姿に変わった。さふぁが着ていた服だけが風に舞い、地に落ちた。


 「……!?消えた?」

 「消えてないってば~。ここにいるよ~ん。」


 逢夜が首だけ動かして探しているとすぐ近くからさふぁの声がした。さふぁは仰向けに倒れている逢夜と才蔵の上をちょこまかと動いていた。モコモコの小さな体に可愛らしい耳、口から長い前歯を覗かせている。さふぁはジャンガリアンハムスターだった。


 「うえァ!ネズミ!ネズミだ!」


 逢夜はさふぁの本来の姿を見て声を上げた。逢夜はどうやらネズミが苦手なようだ。


 「違うって……ハムスターだって~。きれいな毛並みのジャンガリアンブルーサファイアだよ~ん。」


 「その動物をハムスターと呼ぶのですか?」

 才蔵は騒いでいる逢夜とは冷静にさふぁに質問をした。


 「さあ?人は皆私達の事をハムスターって呼ぶよ~ん。」

 「ではやはりそういう名前の外来動物という事ですか。不思議ですね。」


 「まあ、確かに日本の生き物じゃないよ~ん。でも私は日本生まれの日本育ちだよ~ん。あ、もう死んでるけどね~ん。」


 さふぁは才蔵の言葉に丁寧に答えると再び人型に戻った。一瞬、胸が露わになったがさふぁが素早く服を着たようで人型に戻った時には先程と何にも変わっていなかった。


 「お前、死んでるんだよな?本当に。動物が人型になるってどういう仕組みなんだよ……。」


 逢夜は落ち着きを取り戻し、人型になったさふぁの勝気な瞳を見つめた。


 「うちら、ハムスターはKと契約を結んだ仲であるならば生きていても眠っているときに自由に弐の世界を渡れるんだよ~ん。


 必ずしも死んでいるわけじゃないけど、私はもう死んでるよ~ん。Kとの契約も切れて今は融通無碍に生きさせていただいてま~す。まあ、Kとの契約中も外敵にも襲われずにおいしいもの食べられて寝れるだけ寝れて幸せだったけどね~ん。」


 「なるほど、飼われていたという事ですね……。そして死んだ事によって契約とやらを解除されたと。」


 さふぁが楽しそうに話しているので才蔵は小声でつぶやくだけにした。


 「Kは私達、ハムの事をちゃんとわかってくれててね、孤独を愛する私達に深く干渉してこなかったし、広いおうちも用意してくれたし~のびのび、ごちそう食べられたし~だから好きだったね~ん。

 

 死んでからは自由に生きてくれって言われて最初ちょっと戸惑ったけど自分で楽しいことを見つける事にしたんだよ~ん。」


 「なるほどな。じゃああんたはKと接触があり、いつも見ていたわけだ。」


 「ま、そういう事だね~ん。あ、ちょっと話したいことあるから向こうで倒れている人達のとこまで行くよ~ん。」


 さふぁは幸せそうな顔でほほ笑むと才蔵の足と逢夜の足を持ち引きずりながら歩き出した。


 「ちょっと待て!引きずんな!」

 「こういう風に扱われるのは初めてです。」

 逢夜と才蔵は不満を漏らしたがさふぁの足が止まる事はなかった。

 

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