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ゆめみ時…4夜は動かぬもの達15

 「なるほどねィ。」

 急にノノカが消えてしまった場所を眺めながらサスケはつぶやいた。ショウゴとタカトももういない。サスケとマゴロクは深くため息をつき、大きく頷いた。


 「あのタカト君とショウゴ君はノノカって小娘の心に住まう霊だからノノカちゃんの心が変わればあの二人も救われるっていうのはこういう事か。やっと理解できた。あのノノカって娘の自作自演に俺達も含まれたって事かね。」


 マゴロクも生きている人間と霊との関係を今、はっきりとわかったようだった。


 「そういう事。霊は失礼な言い方をするとただのエネルギー体だから。霊は生きている人間の心で変わる。」


 「失礼か失礼じゃないかよくわかんねィがまあ、理屈はわかったァよ。」

 セカイの言葉にサスケは首を傾げながら唸っていた。その横でマゴロクはどこか腑に落ちない顔をしていた。


 「で、一つ質問なんだけど、俺達はもう生きている人間には認知されていないんだがこの世界に存在している理由はなんだ?」


 「認知されている人間の心に住まうとその人の心に染まるだけ。あなた達の場合は人の心を渡り終わり今は自分が描いた世界……エネルギー体の中に存在している。何らかの物質に分解され完全に消え去るまでそのエネルギーはあり続ける。つまり、あなたは分解され消えるまでそのまま……という事。」


 セカイの説明にマゴロクは頭を抱えて唸った。


 「ああ……もうわからない。わかんないが俺は消えるまで俺って事だな。うん。」


 マゴロクは勝手に自己解決して頷いた。


 「そういう事。」

 セカイはてきとうに返事をした。わからなければ説明する必要はないと思っているようだ。


 「あ、あのさ、なんで僕達、ここにいるの?」

 いままできょろきょろと辺りを見回していたトケイは不安そうに声を上げた。


 「え?ああ、千夜達が……。って、更夜、どうする?」

 トケイの言葉に返答しようとしたスズは更夜のケガが治っている事を思い出し、慌てて更夜に目を向けた。


 「加勢しに行ったところで荷物になりそうだが……加勢をしにいこう。あなた達はどうする?」

 更夜はスズに頷くとサスケ、マゴロク、チヨメを一瞥した。


 「あァ、ワシはァ、めんどくさいんであんたらには関わらねィ。雇い主も満足したみてェだからなァ……お暇すらァ。マゴロクはどうすんだァよ。」


 サスケは不気味にほほ笑むとマゴロクを仰いだ。


 「そうだな。俺ももうあんたらに関わる必要はないし……。ショウゴ君も落ち着いたみたいなんでさっさと消えさせてもらおっかね。で?あんたは?」


 マゴロクはサスケにそう答えるとチヨメに目を向けた。チヨメは消えてしまったノノカの温度を確かめるように手を握ったり開いたりしていたが笑顔でマゴロクに答えた。


 「ええ。わたくしもノノカちゃんが自分で歩く所まで行きましたのでわたくしの世界に帰ろうと思いますわ。息子も待っている事ですし。」


 「息子!?」

 チヨメの発言にマゴロクとサスケは訝しげにチヨメを見据えた。


 「あら?わたくしだって女ですことよ。子供の一人や二人くらいおりますわ。」

 チヨメはいたずらに笑うと更夜をちらりと見た。


 ……ああ、狼夜(ろうや)の事か……。


 更夜はチヨメの目配せでそう感じ取りチヨメから目を離した。


 「あんたに子供かィ……。まあ、いいがね。」

 サスケは呆れた顔を向けると「じゃァな。」と一言言って溶けるように消えていった。


 「じゃあ、俺もさいなら。」

 マゴロクもライ達が何か反応を示す前に消えてしまった。


 「な、何かあっさりしすぎのような……。」

 「お礼もろくに言えなかったし。」

 ライとスズは更夜を見つめ、戸惑っていた。


 「ああ、仕事だからな。こんなもんだ。向こうにも何かもたらすものがあってこちらの状況も不利にならなければ俺達はぶつかり合う事はない。持ちつ持たれつ、それが仕事だ。」


 更夜もそっけなく、どこかあっさりしていた。


 忍は忍に貸しを作らない。故に干渉は常にドライである。


 「……では……わたくしもここで。更夜。今度会いましたら……わたくしを抱いてくださいね……。ふふっ。」

 チヨメは意味深な言葉を発し、艶やかに更夜を見つめた。


 「だ、抱くって!?」


 スズとライが同時に目を丸くした。そしてすぐに顔を赤くしてうつむいた。


 「わっ……え?えええ?」

 トケイはチヨメの胸やお尻に目を向け、目をそらし、また目を向けを真っ赤になりながら繰り返していた。トケイの元の性格はとてもウブである。


 更夜はうんざりした顔でチヨメを見据えていた。


 「……その流し目……やめろ。あなたを抱くなど怖すぎてできない。」


 「そう……残念。皆そう言って怖がるのですよ。わたくし、好きな男に抱かれたいって思っているだけですのに。更夜、あなたは男忍としてかなりそっちの手技がお上手と聞きましたわ。あなたのその愛撫……その身に受けてみたい。」


 顔を赤くし艶やかな表情がさらに増したチヨメにスズとライは固唾を飲んだ。女でも見惚れるその表情にトケイはさらに赤くなり手で顔を覆いながらライ達の後ろに隠れていた。


 「……だいたいあれは仕事だ。女を悦ばせるために習得したものではない。……ここには憐夜がいる。そういう話は控えてほしい。」


 更夜は呆れた目でチヨメを見ていた。


 「ほんと、あなただけは絶対にわたくしに落ちてくださらないのですね。……狼夜君はわたくしがちゃんと愛していきますわ。ご安心を。」


 チヨメはくすくすと色っぽく笑うと「それでは。」と最後に更夜に流し目を送り消えていった。


 「な、何だったの……。」

 ライとトケイは動揺が激しく、言葉を発することができなかったがスズはかろうじて一言つぶやいた。


 「何よ……あの会話。」


 「あの女は常に色香が辺りを回っているな……。俺はあの女が心底怖い。男は常に女にハマる生き物だ。あの女は男の感情を増幅させるものを持っている。故に俺は理性を失ってしまうのが怖い。」


 更夜はふうと息をついた。


 「お兄様……そっちの手技って何ですか?お上手な手技って気になります。私……お兄様をもっと知りたいです。」


 憐夜がチヨメの単語を拾い、タイミング悪く更夜に怯えながら尋ねた。


 「ま、まいったな……。ま、まあ……憐夜も俺もこの世界に長く存在しているからな……お前ももう十の娘ではないのだろうが……一応言っておく。憐夜に好きな男ができたらしてもらえる事だ。……つ、つまり相手を愛するための行為だ。」


 「チヨメさんをお兄様はお好きなのですか?」

 動揺している更夜に追い打ちをかけるように憐夜が無邪気に質問を重ねた。


 「違う……。あの女は冗談で言っているんだ。それを術にしている。つまり相手を愛しているふりをするんだ。そして相手を騙す。」


 「か、かっこいいです。」

 更夜の表情とは真逆に憐夜は輝かしい笑みを浮かべていた。


 「か、かっこいいかな……?」

 憐夜のツボがよくわからずスズは首を傾げた。


 「なぜだかチヨメさんが気になって仕方ありません。お母様のような柔らかさを感じます。」


 憐夜の頬が紅潮しているのを見て、更夜は慌てて憐夜を諭した。


 「憐夜……。それはいけない。憐夜があの女の術にハマってどうする……。お前は女だろう……。」


 「はっ……。私……術にかかっていたのですか?」

 「正式に言えばまだかかっている最中だ。」

 目を潤ませている憐夜に更夜は深いため息をついた。


 「チヨメさんに会いに行ってはいけませんか?」

 「ダメだ。あの女は何をするかわからない。」

 更夜は憐夜にはっきりと言った。


 「もし……会いに行ってしまったらお仕置きですか?」

 「いや……もうその感覚は忘れなさい。その前に何度も言うが……俺はもう憐夜に手はあげない。」


 更夜は憐夜の発言にさらにため息をついた。刹那、更夜の言葉を聞いたトケイの眉がぴくんと動いた。


 「更夜、この女の子に手を上げてたの?ひどいよ。なんで?……その子、怯えてる。かわいそうだよ!」


 何にも知らないトケイが怒りの感情をこめた状態で静かに声を上げた。


 「あー……そっか。トケイは何にも知らないんだった。」

 スズは頭を抱えてつぶやいた。


 「あ……。あの人……さっきと雰囲気違う……。」

 スズが呆れていると憐夜がトケイをじっと見つめていた。


 そしてそのまま憐夜は更夜の影に素早く隠れた。


 「……?憐夜……どうした?……ああ、あの男はトケイという名で先程は少しおかしかったが本来は心優しい俺達の仲間だ。」


 「トケイ……さん。」

 憐夜は更夜の後ろからトケイを控えめに見つめた。


 「ねえ、君、大丈夫?理由はよくわからないけど僕は怖くないよ。更夜が怖いなら僕のところに来なよ。」


 トケイは憐夜に心配そうに声をかけた。


 「トケイ……さん。」

 憐夜はもう一度トケイの名前を呼ぶとさっと更夜の影に隠れた。


 「……憐夜。」

 更夜は憐夜の行動がよくわからず首を傾げた。


 「憐夜ってばトケイに一目ぼれしちゃったの?なんかわかんないけど唐突だね。ははは!予想以上に浸透しちゃった術がトケイに向かったのかな?」


 スズが素早く憐夜の元へ行くと真っ赤になっている憐夜を茶化した。


 「スズ……。からかわないでよ。それより何……あの人……かっこいい……。やだ……どうしよう。優しそうだし……さっきとの違いがドキドキする。」


 憐夜がささやくようにスズにつぶやいた。


 「え~?マジで唐突な初恋?かわいい!え?なんで?いきなり?ビビッと来たの?」


 「わかんないけど……なんだか恥ずかしい。」

 「恥ずかしいの?そんな顔真っ赤にしちゃって。かわい~。」


 「ふむ。と、とりあえず、興味はトケイにいったか……。良かった。」

 スズの言葉を聞いて更夜は表情を柔らかくするとほほ笑んだ。


 それを見たトケイは少し青い顔をライに向け、一言確認をとった。


 「ね、ねえ、ライ、更夜ってあんな優しげな顔をしてたっけ?なんだかちょっと気持ち悪いんだけど。」


 「憐夜ちゃんって妹さんに会って更夜様の優しい部分が表に出てきたんだよ。トケイさん。」

 ライはセイに膝枕をしながら幸せそうにトケイに言葉を返した。


 「妹だったんだ。そっか。憐夜ちゃんってかわいいね。」


 トケイの発言で更夜の後ろに隠れていた憐夜はさらに顔を赤くし、更夜の背中に顔をうずめていた。


 しばらく会話が途切れた。途切れたと思ったら足元から少女の声が聞こえてきた。


 「話している所、申し訳ないが……。」

 ふと気が付くとセカイが控えめに声を発していた。いままで会話が切れるところを探していたようだった。


 「ああ、すまない。話に夢中になってしまったようだ。」

 更夜は一言あやまった。


 「それは構わない。私ももうそろそろこの世界から去りたい。セイの改変は完了している。後は目が覚めるのを待つのみである。すべてのプログラムはこれで終了した。」


 先程の会話とは無関係にセカイは無機質にやや形式的に言葉を紡いだ。


 「あ、ありがとう。セカイさん。」

 ライが慌ててお礼を言ったがセカイは頷いただけだった。


 「それでは……あとはあなた達にお任せする。……弐の世界は平穏を保てた。感謝する。」


 セカイはそう一言言い残し、地を蹴り、高い跳躍でこの世界から消えていった。


 「なんていうか……あの人形も……あっさりしてるね……。これからKの事について聞こうと思っていたのに。」

 スズは唸りながら息を漏らした。


 「しゃべりたくない事を聞かれるからこちらとの付き合いは最小限にしているのだろう。結局Kについて聞いても答えなかったしな。後は自分達で何とかしろか……。俺達の世界ではまだお姉様、お兄様とやつらが交戦中だからな……。」


 「更夜のお兄さん、お姉さん?僕、何にも知らないんだけど!」

 更夜のつぶやきにトケイは目を丸くした。


 「まあ、とりあえず、一度、俺達の世界に行こうか。俺は加勢するつもりだが……ああ、ライ、あなたはどうする?」


 「え?あ!セイちゃんも連れて一緒に行きます。」


 ライは更夜に戸惑いながらかろうじて声を発した。会話が濁流のように早く流れていくので整理ができていなかったらしい。


 「それでいいのか?できれば憐夜とスズとトケイとライとセイでこの世界で待っていてほしいのだが……。」


 「大丈夫です。私も何かお手伝いできればと。」

 乗り気ではない更夜にライは力強く頷いた。


 「そうだよ!更夜、わたしだって戦えるよ!」

 「スズが行くなら……私も行きたいです。」

 スズと憐夜も行く気満々で更夜を仰いだ。


 「えっと……なんだかわかんないけど……大変なら僕も行く!」

 トケイはよく事情が呑み込めていなかったが頷いた。


 「……。仕方がない。俺達の世界に行ってから、まだ戦闘が続いているようなら隠れておけ。加勢ができそうだったらしてくれ。頼むぞ。」


 「りょーかい!」


 一同の元気の良い声を聞き、更夜はため息をついていたがどこか嬉しそうだった。



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