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ゆめみ時…4夜は動かぬもの達14

 弐の世界。ノノカのお姉さんの世界で更夜達はトケイとセイと戦っていた。

 「……来た。セイの再構築が始まった。」

 セカイが一言無機質に言葉を発した。


 「え?」


 一緒にいたライ達は咄嗟にセイを見つめる。セイはぴたりと動くのを止め、その場で立ち尽くした。よく見ると目に電子数字のようなものが流れている。


 「プログラムの変換が行われている。」

 セカイは別段驚く様子もなくセイを見つめていた。ちなみにトケイも動きを止め、ロボットのように固まっている。


 「と、いう事は陸の世界は運命が狂わなかったって事?」

 スズは不思議そうにセイを眺めた。


 「そういう事。陸の世界にいるロクが改変されたプログラム情報をこちらのセイに送ったようだ。これから私は壱の世界(現世)にいるイチとプログラムの改変を形にする作業に入る。」


 「な、なんだかわからないけどよろしくね。」


 セカイの説明に首を傾げたライはとりあえず一言言っておいた。

 セカイはこくんと頷くと先程ロクと話したように急に誰かに話しかけ始めた。


 「イチ……頼みたいことがある。」


 セカイがつぶやくとわずかにこことは違う空間が開いた。木々が覆い茂り、月明かりが草木を照らしていた。


 その木々の枝に短い銀髪の少年が座っており足を揺らしていた。目は大きく可愛らしいが男の子のようだ。紺色の羽織に袴を履いている。身長はセカイと同じくらいで手のひらサイズしかない。ここは壱の世界のようだった。


 「話はロクから聞いているぜ。二十分ほど陸の世界が弐に食い込んだが関係する人間達にはうまく夢であると思わせられた。たまたま陸が明け方を迎える時間帯だったからあの子達が起きていなかった。


 だからできた事だぜ。壱の夜は始まったばかりだ。壱に存在するノノカはまだ夢の中にいられるだろう。計画が上手くいった事を伝え、向こうの彼らは死んでいない事を教えてやりな。セイの作業はこちらで進めておくからよ。」


 イチはセカイに笑顔で声を発した。


 「ありがとう。イチ。ではよろしく頼む。」

 セカイはイチにお礼を言うと通信を切った。


 そしてそのままノノカの方に目を向けた。ノノカは先程からライ達の横で黙ったまま下を向いていた。


 「ノノカさん。向こうの世界のあなた達は誰一人死ぬ選択をしなかった。お互いを信じ、和解する方向に走ったようだ。」


 「そっか。良かった。」

 セカイの言葉を聞き、ノノカは小さくつぶやいた。


 「あなたがこちらの世界でこれから何をするかはあなた次第。何かの突破口になっていることを期待している。」


 「うん。」

 ノノカは再び元気なくつぶやいた。


 セカイがもう一言何か言おうとした刹那、セイが青白く光りだし、そのまま倒れた。


 「せ、セイちゃん!」

 更夜達が戸惑い立ち止まっている中、ライはセイに向かい走り出した。


 「セイちゃん!」

 ライがセイに駆け寄り、セイを抱き起す。セイは意識を失っていた。


 「気を失っているみたいね。」

 ライを追いかけて走ってきたスズはセイの顔を覗き込み、言葉を発した。


 「トケイも気を失った。」

 ライとスズの横でセイと同じように横たわっているトケイを更夜が抱き起していた。


 「んむぅ……。」

 しかし、トケイは一瞬気を失っていたがすぐに目を開けた。


 「トケイ!」

 「トケイさん!」


 ライと更夜達は心配そうにトケイの顔を覗き込む。トケイはいままでの事を何も覚えていないのか、きょとんとした雰囲気でライ達を見ていた。セイはまだ目覚めていない。


 「ん?あ、あれ?僕は何をしていたんだっけ?」

 「トケイ!良かった!とけい~!」


 突然、いつもの調子に戻ったトケイにスズは目に涙を浮かべながら抱き着いた。


 「う、うわっ!スズ!何?何?……あれ?何にも思い出せない。いままでなんか色々あった気がするんだけど。」


 「思い出せなくていいわ!戻った……。それだけでいいって。」


 戸惑うトケイに顔をこすりつけているスズを横目で見ながら更夜もほっとした顔を向けた。


 「まあ、色々あったがもう終わった。トケイが何事もなくて俺も良かったと思っている。」


 「や、やっぱりなんかあったんだね。僕、何にも思い出せないよ。おかしいな。」


 首を傾げるトケイにセイを抱いたままのライも胸を撫でおろした。


 「良かった。トケイさん……元に戻って。」

 「ライ、元に戻るって何?」

 「え?あ、ううん。なんでもないの。」


 トケイの問いかけにライは知らない方がいいのかもしれないと思い、あえて答えなかった。


 「で?セカイ、セイはどうなったんだ?」

 更夜がすぐ近くにいつの間に来ていたセカイに尋ねた。


 「セイはたった今、陸の世界のセイとのシステムの改変に成功した。時期に目覚め、霊ではなくなる。」


 セカイは大きく頷き一言言葉を発した。


 少し遠めの所でただ立っていたマゴロクとサスケも危険がなさそうなのを感じ取り、近くに寄ってきた。


 「じゃあ、なんだかわかんねィが成功したって事だァな。」

 サスケはセカイに疲れた顔を向けていた。


 「成功はした。」

 セカイは一言だけ無機質に声を発した。


 「じゃあ俺達は……あの子達はどうなるわけだ?タカト君もショウゴ君も救えたのかな?」


 マゴロクの言葉にセカイは複雑な表情を見せた。


 「それはそこに立っているノノカさん次第。」

 セカイはチヨメに肩を抱かれているノノカに目を向けた。


 「どういう事だィ?」

 「見ていればわかる。」


 サスケがいぶかしげに見る中、セカイは落ち着いたままノノカを見ていた。

 ノノカはチヨメに肩を預けながら暗い瞳でぼうっとしていた。


 「ノノカ!」

 「ノノカ!」

 ふとノノカの目の前にこの近くにはいなかったはずのショウゴとタカトが突然現れた。


 「え……?」

 ノノカは戸惑いの声を上げた。


 こちらの世界でのショウゴはノノカを殺そうと動いており、タカトはノノカを守るためにセイの笛を壊そうと動いていたはずだった。


 だが、今現れたタカトとショウゴはノノカをとても心配そうに見据えていた。


 「あんた達……やっぱり生きて……。」

 ノノカがこちらの世界で生きていることを望んだがタカトとショウゴは同時に首を振った。


 「いや、俺達はもう死んだ。」

 「僕達はもうノノカの生きている世界にはいない。」


 「っ……。」

 ノノカはまた絶望の淵に落とされ顔を曇らせた。


 「でもノノカの心に住んでいるんだ。……俺達が死んだのは全部……ノノカのせいじゃない。」

 タカトはノノカの肩を掴み、表情を引き締めてはっきりと言った。


 「そうだね。僕も悪かったから。僕達はとんでもないことをした……。人生を狂わせてしまった。……僕はタカトを殺してしまい、耐えられなくてこんな結果になってしまったけどノノカはそうならないでほしい。」


 ショウゴもノノカをしっかりと見つめ、そう語った。


 「……もうどうやって生きたらいいの?私の世界にはあんた達、いないのに……。」


 「それはノノカが決める事だ。」

 ノノカのすがるような言葉にタカトとショウゴは同時に答えた。


 「……そっか。そりゃあ私の人生だもんね。私が決めないと……か。……じゃあ、まずタカトの曲の誤解を解いて今までの事……ちゃんと誰かに話して……あんた達のお墓参りして……。」


 「ノノカが決めたんならそれをやってみな。俺はお前の心の中でお前をずっと見ているからさ。」


 ノノカの言葉にタカトはにこりとほほ笑んで「な?」とショウゴに目を向ける。


 「そうだね。僕もノノカの心にいていいのなら……ノノカをずっと見守っているよ。辛い時、困った時は一度寝てみるといいよ。こっちの世界(弐の世界)に来たらいつでも相談に乗るからさ。」


 ショウゴも頷きながらほほ笑んでいた。


 夢は現実世界で起こった事を整理するためにあるという。精神統一、心の安定にも睡眠は絶大の効果を生む。


 それはその人の心に住まう霊達がその人を優しく導き、相談にのっているためである。


 ノノカはそれに気が付いた。


 刹那、ノノカは唐突に弐の世界から消えた。目が覚めるとノノカは自室のベッドで眠っていた。時計を見ると午前一時だった。ノノカはこの日、早く眠っていたが途中で目が覚めたようだった。


 「……ん。」


 ノノカは体を起こし、辺りを見回した。森のような景色もタカトもショウゴもその他にいた者達も幻のような感じだった。不思議な余韻の中、ノノカはタカトとショウゴのほほ笑み以外、何も思い出せなかった。


 「……夢……か。」


 ノノカは一人ぼうっと座っていたが最後のタカトとショウゴの笑顔が忘れられず、少し目を潤ませた。


 やがてノノカはベッドから降りてパソコンが置いてある机へと向かった。パソコンの電源を入れ、ネットを開く。


 「……タカトの事について私が嘘を言った事……ちゃんとサイトであやまろう。非難されてもいい。あいつの曲は本当にすごくいい曲だったんだから。」


 ノノカはそこから先、無言でキーボードをたたき続けた。

 



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