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流れ時…2タイム・サン・ガールズ10

 アヤ達はただひたすら太陽に向かい階段を駆け上がっていた。足の遅いアヤのみ栄次に担がれている。


 「太陽神が扉を開くのも時間の問題でござる!」

 「なんか太陽神ってブチクスクスみたいね。」


 アヤがボソッとつぶやいた。


 「なんだそれ……。」

 栄次が険しい顔をアヤに向ける。

挿絵(By みてみん)

 「表では強がって襲ってくるけど内心は臆病な動物。」

 「おいおい……。わけわからん動物名をいきなりあげるな。びっくりした。」

 栄次はアヤを担ぎながらため息をついた。


 「しかし、なんだか幻想的だな。暑くもないし。」

 プラズマがあたりを見回しながらつぶやいた。もうだいぶ太陽に近いのだが暑いどころか寒い。


 灯篭は相変わらず空に浮いており、浮世離れした静けさと澄んだ青空が霊的空間を醸し出している。


 「そんな事を言っている場合じゃないのでござる!」

 「ああ、わかったよ……。」


 必死のサルをてきとうにあしらったプラズマは前を走る栄次の背中をただ見つめた。

 「なんだか嫌な予感がするな。あの太陽には……。」

 栄次が背中越しに声をかけてきた。プラズマはやれやれと首を振る。


 「さっきので十分おかしいのがわかっただろ。しかもあいつら強いのなんのってな……。」


 「俺達が太陽へ向かってもあの娘を守れるか……。」


 栄次が不安げな声をあげた。

担がれているアヤも同じことを考えていた。

事実、自分は何もできなかったが強いと思っていた栄次達が神格の低そうな太陽神達にまるで歯がたたなかったのだ。先の事を思うと不安がよぎる。


 「不安がっててもしかたがないのでござる……。おそらく太陽には小生達に味方をしてくれる太陽神、猿はおらんと思うのでござる。」

 「じゃあもう、大元を叩くしかないんだな?」

 サルの言葉を聞いたプラズマがうんざりしたように声を発した。


 「そうだな。勝てんのならば大元だけを死ぬ気でなんとかするしかない。」

 状況的に不利だが栄次は冷静に答えた。


 「おちついているのね……。」

 「まあな。」

 担いでいるアヤを担ぎなおして栄次は足を速めた。


 しばらく走っているとまたも大きな鳥居が見えた。


 もう、太陽は見えない。周りはいつのまにか夕暮れのようなオレンジ色に染まっており、その中に大きな宮があった。木も水もなにもない。 

     

周りにあるのはただオレンジ色の空間だけだった。

「ここが太陽なの?」

「そうだな。」

栄次は立ち止りアヤを降ろした。


「そうでござる。この鳥居をくぐったらもう太陽の宮でござるな。」

サルは鳥居を見上げ、細い目を少し開いた。


すぐ後ろで軽い息遣いが聞こえる。

先程の太陽神がこちらに向かって来ているようだ。

アヤ達は迷う暇もなく鳥居をくぐり宮へ走った。


宮はかなり素朴なつくりをしていたが置いてあるものは最新だった。

ドアは自動ドアで電気が通っている。


つくりは和風なので障子戸に襖がある。

障子戸の部屋を眺めながら廊下を進むとエスカレーターが上へと続いていた。


そして不思議な事に一度も太陽神、猿達にはちあわせしなかった。


「で、ここのエスカレーターの三階にワープ装置があるのでござるが……静かすぎて怖い……。」

「確かにな。なんか罠にでもはまっているのか?」


栄次が不吉な事を言うのでサルの顔が青くなった。


「命令が変わったんじゃないの?だってさっきまで追って来た太陽神が追っかけてこないじゃない。」

「小生には何も命令が聞こえんでござるが……。」

サルはそわそわと耳を傾ける。


「当然じゃない。あなたは命令を破ったんだから。」

サルは不安そうにアヤを見た。しかし、なぜか言ったアヤ本人が動揺していた。


「え、今の私じゃないわよ。私の声だったけど私、しゃべってないわ。」

「おいおい……冗談よせよ。じゃあ、今の誰なんだよ。」


プラズマも驚いた目でこちらを向いた。


「……。鏡と影……でござるな。」

サルが細い目を少しだけ開いてあたりをうかがった。


「鏡と影?」

気がつくとアヤ達の周りを丸い鏡が浮遊しながら複数まわっていた。


「なんだこれは……。」

「なんかやばそうだぞ。」


栄次とプラズマはまわる鏡を油断する事なく目で追った。


「影がその人の形をつくり、鏡が光を反射させて色をつける……太陽神の高等な術でござるな。」

「つまり何なのよ。サル。」

「……クローン。同じ者同士で殺し合うための術でござる。」


そうこうしている間に鏡からアヤと全く同じ人物が現れた。続いて栄次、プラズマも出現する。


「鏡は本来、神への……太陽神への供え物だったがこんな事に使われていたとはな。」


「この術は禁忌のはずでござる。」

サルは刀を構えた栄次に弁明した。


「とりあえず、敵は俺達の足止めか同士討ちを期待しているらしいな。」

栄次の声と同時に自分の分身が襲ってきた。四方八方は鏡に覆われて逃げ出す事はできない。


「そうでござるか。この宮自体がもしや鏡……。」

サルは分身の攻撃をかわしながらつぶやいた。


「宮自体が鏡だって?じゃあ、まんまと罠にはまったわけだね。」


プラズマは正確に銃を扱ってくる分身を避けながらサルの近くによる。プラズマはある程度弾丸を予想して避けている。いつ当たってもおかしくない状況だ。


「さすが自分だけあって脳天ばかり狙ってくるな。」

「うむ……この状況……どうすれば好転するのでござるかなあ。」

サルは剣と鏡の盾で分身と応戦している。


「なんかこの術を止めるパスワードとかないのか?だいたい、術なら解除の方法があるはずだ。」

「うう……それは太陽神しか知らぬ極秘のものでござる故……。装置は五階にあるのでござるが……。」

プラズマとサルは肩で息をしながら攻撃を必死で避けている。


「この中で一番、安全なのは……私よねぇ……。」


アヤは状況を見ながら分身と対峙していた。アヤの分身は何もしてこない。当然だ。彼女はもともと何もできないただの高校生だ。性格まで受け継いでいるのだったら戸惑って何にもしてこないだろう。

これは間違いなく太陽神達の盲点であるはずだ。


「アヤ……お前は平気なのか?」

分身とつばぜり合いをしている栄次が近くで立っているアヤを横目で見てきた。


「え、ええ。別に……。」

「じゃあ、今のサル達の話聞いたか?」

「え?ええ。なんかパスワードがあるとかないとか……。」

アヤは戸惑った顔を栄次に向けた。


「術を止めに行って来てくれないか?」

「え?私が?」

「アヤしかいない。」

「できないわよ。パスワードわからないじゃない。」

「すまない。動けるのはアヤだけだ。」


確かにこの状況で動けるのはアヤだけだ。アヤは少し迷ってから走り出した。

「……っ。どうなるかわからないわよ!」


捨て台詞のようにはいてアヤはがむしゃらに走った。

四方八方にある鏡を避けながら廊下に出る。


パスワードは知らない。


でも何かできるかもしれない。

特に計画があるわけではなく、当たって砕けろ精神でアヤは駆けだしたのだ。


「危険な予感を感じたらすぐに戻って来い。」

栄次の声を聞き流しながらアヤは走った。


分身のアヤが「ちょっとまちなさい。」と叫んでいたが追っかけてくる様子はなかった。


そのままエスカレーターの階段を駆け上がる。

サルが言っていた『この宮自体が鏡』という言葉が気になったが今は考えずに五階へ走った。


五階まで誰にも会わなかった。

太陽神どころかサルもいない。

非常に静かでエスカレーターが動く音しか聞こえなかった。


「……不気味だわ。なんの音もしない……。誰もいないの?」


アヤは五階の部屋を一つ一つ開けて行った。

廊下を挟んで両脇に障子戸が連なっている。

ここは沢山の部屋があるらしい。


障子戸を開けると畳と机しかない小さな部屋が現れた。

アヤは今開けた障子戸で半分くらいは部屋を見たが状態が違った部屋は一つもない。


「どこで術をかけているのよ……。」


もしその部屋が見つかったとして、それからどうするのかアヤはまるで考えてなかった。もしかしたらそこの部屋に大量の太陽神がいるかもしれない。


それと対峙しながらわからないパスワードを入力するとなると不可能に近い。


「あそこ……怪しいわね。」


アヤはある一つの障子戸の前で止まった。

物音ひとつしないのでわずかな音にもすぐ反応できる。


この部屋からカチカチと不気味な音が聞こえていた。アヤは恐る恐る、なるべく音を立てないように障子戸をスライドさせた。中を覗くと誰もいなかった。


「誰もいないじゃない……。」


中は他の部屋と大差はなかったが机の上に一台のノートパソコンが置いてあった。アヤはそっと中に入ると障子戸をゆっくり閉めた。


これで背中を向けていても障子戸の開閉の音で敵が入って来たといち早く気がつく。アヤはパソコンに近づき、中を覗き込んだ。


「何これ……鏡?」


パソコンの画面は鏡だった。今は自分の顔が映し出されている。動いていないのかと思ったがカチカチとここから音が出ているので動いているようだ。


「……これ……よね?もうこれしか考えられないわ。」

「確かに術の解除にはこれがいるね。」


後ろから誰かに声をかけられた。

アヤの背筋が凍った。


咄嗟に逃げる事と死ぬ事を考えた。

それからゆっくりと声の方を向いた。




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