ゆめみ時…4夜は動かぬもの達11
「ノノカが元の世界に戻った。」
更夜がスズに目を向けた。
「うん。わたし達も戻れるのかな……。」
スズは更夜とともにライがいる場所まで歩き始めた。ライは公園を囲う木のそばでセイと話をしている最中だった。
「セイちゃん……このままあの子達に関わらないって約束できる?」
「……わ、わかりました……。」
セイが自信なさそうに返事をした時、ライの体が透け始めた。
「あっ!まさか、もう元の世界に戻るの?」
「……?」
セイがきょとんとしている中、ライは少し焦っていた。
「更夜様!スズちゃん!私、ここの世界の私に一言言いたいんです!どうにかできませんか?」
ライが隣に来ていた更夜とスズに焦った声を上げた。
「どこにいるのかわかればあなたを担いで走るが。」
更夜は腕を組んだままライに答えた。
「あの時の私はええっと……この近くの図書館です!」
更夜はライを抱きかかえ、セイを置いて走り出した。
「どこか指示をしてくれ。」
「まっすぐ行って右に曲がって次の角を左に曲がってください!」
更夜は近くを走る車よりも速く走り、軽々と垣根を超え、近道をしてライの指示に従った。ライの体は徐々に透けていっている。スズは更夜に追いつけなかったのか近くにいなかった。
更夜は大きめの図書館に滑り込み、図書館のロビーでボケっとしているライを見つけた。
陸の世界のライは図書館のロビーに飾られた絵を眺めていた。
「いたぞ。」
更夜はライを陸の世界のライの元へ放ると状況を見守った。ふと横を見るとスズが肩で息をしながら立っていた。
「更夜……はあ……はあ……速すぎ……。」
「ゆっくり来ても良かったんだぞ……。」
更夜はスズの頭にそっと手を当てて撫でるとライを見つめた。
「この世界の私!」
ライは陸の世界の自分に叫んだ。陸の世界のライはびくっと肩を震わせてライを見つめた。
「え?なんで私が……。」
陸の世界のライが怯えた声を上げたがライはそんな事おかまいなしにはっきりと言った。
「セイちゃんを……セイちゃんを守ってあげて!私しかセイちゃんを守れないから!」
ライは一言そう言うと溶けるように消えていった。
「時間切れか。」
「そのようだね。」
更夜とスズもライと同じように透明になって消えた。
「え?何……何なの……?」
陸の世界のライは突然の事に戸惑い、ぺたんとその場に座り込んだ。
ライ達は知らぬ間にノノカのお姉さんの世界にいた。
「戻ってきたか。成果はどうあれ……ここでトケイを元に戻したい。」
セカイは戻ってきたライ達に感情なく言葉を発した。
状態は先程と変わっておらず、マゴロクとサスケが全力でトケイとセイを抑えていた。
セカイは憐夜の肩に乗っており、チヨメは憐夜の前に立っていた。
「チヨメ、セカイ……憐夜をすまんな。」
更夜の言葉にチヨメがくすくすとほほ笑んだ。
「問題ありません事よ。ただ……憐夜ちゃんがちょっとかわいいもので悪戯をしてしまおうかと思っていた所でしたわ。」
チヨメのお気楽発言に更夜は鋭くチヨメを睨みつけた。
「嘘ですわ。怒りなさんな。」
チヨメは更夜に柔らかく言うと憐夜を更夜に渡した。
「憐夜、大丈夫だったか?」
「はい。チヨメさんとセカイさんが守ってくださいました。」
「そうか。」
更夜は憐夜を優しく撫でるとトケイに目を向けた。トケイに目を向けている更夜にスズがつぶやいた。
「更夜、ここでトケイとセイを粘って引き付けていたら陸の世界での成果がわかるかもね。」
「そうだな。俺もサスケとマゴロクに助力しよう。ケガがきれいさっぱり治っている故な。」
更夜は治った腕で刀を抜くと走り去っていった。
「更夜……なんでケガが治ったんだろう?」
スズが不思議そうに元気になった更夜を見つめているとセカイが小さくスズにささやいた。
「陸の世界の弐では更夜を形作るエネルギー体が再構成されたため……だと思われる。あなた達は霊でもう肉体がなく、エネルギーの塊となっている。それで……。」
「あー、もういい。わけわかんなくなりそうだから。」
セカイの説明を途中で切ったスズは今度、ライに目を向けた。
「ライ?大丈夫?」
ライは先程から何も話さずに下を向いていた。
「え?スズちゃん……大丈夫だよ。だけど……。」
ライは少し困惑した顔でスズを見ていた。
「不安なのはわかるけど、今は陸の人達を信じようよ。陸の世界の自分もちゃんと信じてあげないと。ね?」
「う、うん。」
ライはスズの言葉に小さく頷いた。それからライとスズはさらに暗い顔をして立っているノノカに目を向けた。ノノカは涙を服の袖で拭いながらただひたすら泣いていた。
「ノノカさん……。」
「ノノカ、ここで一緒に陸の世界の自分を信じて待とう。ノノカが目覚めて向こうの世界に行くまでわたし達は一緒にいられるから。」
ライとスズはノノカをそっと抱き寄せてライが作った結界の中に避難した。
その結界の中には憐夜とセカイ、チヨメも一緒にいた。一同は時間が過ぎるのを待ちながら更夜達を見つめていた。




