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ゆめみ時…4夜は動かぬもの達10

 一方、公園のベンチで座っていたノノカは公園内に入ってきたタカトとショウゴとこちらの世界の自分を見つめていた。


 「タカト……ショウゴ……。」

 ノノカはタカトとショウゴを苦しそうに見つめ、そっとベンチから立ち上がり、三人の元へと歩き出した。


 三人の会話が聞こえてくる。以前、ノノカがしたタカトへの嫌がらせについての会話をしていた。


 止めようと仲裁に入ったショウゴにタカトは怒鳴り散らした。


 「お前は関係ないだろ。俺とノノカの問題だ。入ってくんな!」


 「関係ないだって?ノノカのお前への相談をずっと聞いていたのは僕だ。何にも知らないくせによく言うよな。」


 ショウゴも負けじとタカトに言い放つ。


 「お前だって何も知らないくせに。」

 タカトとショウゴの関係は劣悪だった。


 ノノカは争っている二人を眺めながらこちらの世界にいる自分に腹が立ってきた。


 ……これは私のせいだ!私が全部いけないんだ!あいつを許さない……。ムカつく。


 ノノカは憎しみのこもった目でこちらの世界の自分を見つめ、我慢できずに走り出した。


 「……っ!?」


 突然ケンカの内部に入り込んできたノノカにタカトもショウゴも陸の世界の自分も驚いていた。


 「え?の、ノノカ!?」

 タカトとショウゴはノノカが二人いる事に戸惑い、いったんケンカをやめた。


 「え……?私?」


 陸の世界のノノカはもう一人の自分が現れた事に動揺し、怯えていた。


 「あんたのせいだ!あんたが全部いけないんだ!私はあんたを許さない!」


 ノノカは過去の自分を見ているようで腹が立っていた。瞳孔は開き、陸の世界の自分に怒りと憎しみ、悔しさをぶつけた。ノノカは陸の世界の自分を地面に乱暴に押し倒した。


 「あんたが……あんたが死ねば良かったの!あんたが死ね!」

 ノノカは怯えているもう一人の自分を殴り始めた。


 「あ、あんた!なっ……なんなの?なんで私がっ!うっ!」

 陸のノノカは何が起こったのかわからずにノノカに殴られ続けていた。


 「死ね!死んじゃえ!あんたなんかっ……消えちゃえばいいんだ!消えろ!」

 ノノカは涙を流しながら血に染まったこぶしを振り上げる。


 ショウゴとタカトは気が動転しており、動けずにその場にただ立っていた。


 「うわあああん!」


 ノノカは大声で泣いた。泣きながらただ、陸の世界の自分を殴り続けた。

 ノノカが血の滴るこぶしを再び振りかぶった時、後ろから腕を誰かに掴まれた。


 「もう……やめろ……。」

 ノノカは息を荒げながら腕を掴んだ者を睨みつけた。


 腕を掴んだ者は更夜だった。


 「また、あんたなの?離してよ。こいつを殺すまで殴らせてよ!」


 「この子はお前だろう……。お前を傷つけてどうする。お前は何をしに来たんだ?この子を殺しに来たのか?違うだろう?お前はあの運命を止めに来たはずだ。しばらく見ていたがこのままではお前が壊れてしまいそうなんでな……止めに入った。」


 「……っ。」

 更夜の言葉にノノカは振り上げたこぶしをそっと下した。


 「しっかりしろ。今回の件はお前だけが悪いわけではないだろう。色々な感情が混ざり合い、運命が歪んだ。お前だけのせいじゃない。もう一度……お前がここに来た意味をちゃんと考えろ。悔しくて憎らしいのはわかる。だがここで憎しみをぶつけても何もない。」


 「う……うう……。ううう……。」


 ノノカは震えながら泣いていた。更夜はか細い少女の体を後ろからそっと抱いた。


 「大丈夫だ。お前なら大丈夫だ。心を強く持て。お前ならできる。」

 更夜は一言そう言うとノノカをそっと放した。


 「……。」


 ノノカはうなだれたまま陸の世界の自分を見つめていた。陸の世界のノノカは血にまみれ気を失っていた。だが徐々に傷が塞がっていた。ここは陸の世界だといっても弐の世界だ。夢の中なのですぐに治ったのかもしれなかった。


 更夜はノノカから離れ、スズの元まで歩いていった。スズは少し離れたブランコの影に隠れていた。


 「更夜……大丈夫だった?」


 「ああ。ライに心を打ち明けてから俺の心はなぜか安定した。ライが人間の心に作用する神だというのは本当のようだな。しかし……人の感情とはいったい何なのだろうな。俺はもう……よくわからなくなってきた。」


 更夜はスズを切なげに見つめた。


 「わたしもよくわからないよ。きっと人はずっと感情を解明できないと思う。」

 スズも更夜を見上げた。


 二人はお互いを見つめあうとノノカ達に目を向けた。


 「ねえ……ショウゴ……タカト……。」


 ノノカは陸の世界のノノカを見つめながらタカトとショウゴに問いかけた。

 タカトとショウゴはノノカを気味悪そうに見つめながら続きを待った。


 「私達……仲良かったよね……。」

 ノノカは静かにタカトとショウゴに尋ねる。


 「そのはずだったね。」

 「ああ。そのはずだった。」

 タカトとショウゴは同時に同じ言葉を発した。


 「私がね……タカトに嫉妬しなければこんなことにはならなかったんだ。私ね……この世界とは別の世界から来たノノカなの。この世界でも起こる事みたいなんだけど、私の世界だとタカトもショウゴも……もういない。」


 「いないって?」

 ショウゴはノノカの背中に声を発した。


 「あんた達……死んじゃうの!私達……関係が悪くなったまま……。」

 ノノカは泣きながらショウゴとタカトに抱きついた。


 「私……もうあんた達に会えないの……。嫌だ……。もうあんた達に触れられない……。あやまれない……。」

 ノノカの言葉にタカトもショウゴも首を傾げていた。


 「ノノカ……大丈夫だよ。僕もタカトも死なないよ。な?」

 ショウゴはタカトに目を向けた。


 「うん。俺も死なないって。どうしたんだ?ノノカ?」


 「これから起こる事だもの……わからないよね。……約束……してほしいことがあるの……。」

 ノノカはタカトとショウゴを抱きしめながら二人の胸に顔をうずめた。


 「約束?」


 「ここの世界の私……私の言ったことを信じないで。絶対に信じないで。私を悪者にして。ショウゴはタカトを信じてあげて。私との関係が悪くなってもいい。だからっ……。」


 ノノカは必死の表情でタカトとショウゴに言い放った。


 「そんな事言ったって……ノノカ、お前はタカトに放置されてたんだろ。恋人なのに。」

 ショウゴはノノカを優しく見つめていた。


 「……俺がノノカを放置したって?俺はノノカのために曲を作ってたんだぞ。」

 タカトは切なげにノノカを見つめた。


 「うん……。わかってる。でもこのケンカは……それは全部私の嫉妬だった。だから……約束して。ショウゴはタカトを信じてあげて。私の言ったことは信じないで。」


 ノノカはもう一度念を押した。


 「……。」

 タカトとショウゴは何も話さなかった。


 「お願い。約束して!それから……ちゃんとお互いの気持ちをしっかり相手に伝えて。ケンカしないで……。」


 ノノカの切なげな表情を見、タカトもショウゴもいらついていた気持ちがなくなっていた。


 「……よくわかんないけど……約束する。な?」

 「ああ。約束する。」

 ショウゴとタカトはノノカに大きく頷いた。


 「良かった……。絶対に約束してね。あ、それから……あんた達に言ってもしょうがないけど……いままでごめん。タカトを悪く言った事も……ショウゴを無駄に傷つけた事も……今、後悔している。」


 ノノカが目に大粒の涙をこぼしながら言葉を紡いでいると体が透けはじめた。もう時間が来てしまったのだとノノカは直感で思った。


 「……あんた達にもう一度会えて良かった。最後にもう一つだけ聞かせて。タカト……私の事、好き?」


 ノノカの言葉にタカトは顔を引き締めると言った。


 「ああ。俺はノノカが大好きだよ。ノノカ、寂しかったんだな。もっと会える時間を作るよ。ごめん。」


 タカトの言葉にノノカはあふれる涙を止める事ができなかった。


 震える声で今度はショウゴに問う。


 「ショウゴは……私の事……好き?」


 「ノノカはタカトと付き合っているんだろ。……ごめん。僕もノノカの事が好きだ。だからタカトに嫉妬していたんだよ。ノノカが全然振り向いてくれなかったから。」


 「私……あんたの事は恋にはできなかったけど……好きだったよ。だからっ……これからも生きて私を守ってあげて……。本当にどうしようもない馬鹿女だけど……また……仲良く三人で……。」


 ノノカはそこまで言うと目に涙を浮かべながら塵のように消えていった。

 残されたタカトとショウゴは突然消えていったノノカの言葉を反芻し、その場に立ち尽くしていた。




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