ゆめみ時…4夜は動かぬもの達9
「は!セイちゃん!」
ライはワンテンポ遅れて金髪の少女がセイであると気が付いた。セイ自身は必死の面持ちで走っており、ライに気づかずに通り過ぎたようだった。
「……ライ。セイを説得できる言葉は見つかったのか?」
更夜に問われ、ライは顔を曇らせたまま首を横に振った。
「見つかっていませんがセイちゃんを追います!」
ライは一言そう言うとセイを追いかけて走り出した。
「そうか。まあ、いい。ライがセイを追うならば従おう。どうせ俺達は何もできない。」
「そうだね。わたし達はこの世界じゃ死人だし、この世界が夢だと言ってもこの世界の人達が目覚めた時、わたし達の存在は忘れられていると思うし……生きている人達の意向に従うのが得策だね。」
更夜とスズは走っているライに軽く追いつきながらつぶやいた。
走ってセイを追いかけているとライ達は先程の公園に戻ってきていた。
公園内ではいつの間にか陸の世界のタカトとノノカがおり、そこにショウゴが入り込んでケンカをしていた。セイはそれを公園のまわりを囲っている木々の隙間から見守っていた。
おそらく、以前、壱の世界で三人のケンカが起こった時と同じ場面だ。
ライは後ろからセイに近づき、息が上がった状態で声をかけた。
「はあ……はあ……せ、セイちゃん!」
「!?」
突然、後ろから声をかけられたセイは驚いた表情でこちらを向いた。
「お、お姉さま……?」
「うん。」
セイの戸惑った声にライは静かに頷いた。
「お姉様……どうしてここに?」
「セイちゃんを止めに来たんだよ。セイちゃん、あの子達に不正にかかわっているでしょ?全部知っているわよ。」
ライの追及にセイは動揺の色を見せた。
「で、ですが私は内に眠るひらめきを外に出してあげています。眠っている時だけでなく意識を持っている状態の時にもひらめきを外に引っ張ってあげる事ができるんです。これは私達の業務に組み込むべきだと思いませんか?」
陸の世界のセイは不安げな顔で壱の世界のセイと同じことを言う。
「セイちゃん……それ、成功している?」
「え……?」
ライの言葉にセイは声を詰まらせた。
「夢の世界だと自分の世界だから他の人が関わってくることはないよね?でも……現実の世界だとその個人個人の世界が感情となって外に出ていく。
つまりね……セイちゃん、その人、個人だったらそれでいいの。だけど現実世界では自分の評価は他人がするの。嫉妬とか憎しみとか尊敬とかあこがれもそうだと思う……。」
ライはそこで言葉を切ってセイにノノカ達を見るように指を動かした。
ノノカとタカトとショウゴは壱で見た記憶とまったく同じ会話をしていた。お互いを批判しあい、憎しみ、嫉妬し、言い争っている。
「ノノカさんはタカト君に嫉妬している。ショウゴ君もタカト君に嫉妬している。タカト君は自分の自信に溺れている。セイちゃんがあの子達の前に現れちゃったからあの子達はタカト君の才能を否定しているよ。
セイちゃんがいれば素晴らしい才能をずっと持っていられるってノノカさんは考えてタカト君の曲をインチキだと言っているの。本当はタカト君の心に眠る才能なんだけどね。」
「……お姉様……あの三人がよくケンカするのは私のせいだとそう言いたいのですか?」
セイの言葉にライは深く頷いた。
「芸術神は人の夢の中だけで動いているのが一番なんだよ。人はなかなか他人を認められない……そういう生き物で、言葉で対面を保っているからああいう風になっちゃう。」
ライは言い争っている三人をもう一度見つめた。そしてセイに向かい、また話し出した。
「なんだかわからない力っていうのも人を不安にさせるんだよ。セイちゃん。……セイちゃんは良かれと思ってやっているのかもしれないけど……人にとってはいい迷惑なの。」
ライの一言にセイは固まった。いい迷惑という言葉がセイにショックを与えたようだった。
「ですが、今まで通りやっていたら成果がわかりません。人と芸術神は共同で頑張れる世界にした方が私はいいと思います。これから……徐々にでも構いません。」
セイは小さな声でライに答えた。
「セイちゃん、そうしたらもっと人は才能のある人を認めなくなるよ。芸術神のおかげなんだろうって思うから。だから私達は直接人間に関わっちゃダメなの!人はそういう生き物だから。」
「そんなのわからないじゃないですか。一般的にそういう人は多いかもしれませんが……。」
セイが最後まで言い終わる前にライがセイの肩を掴み、近くの木に押さえつけた。
「お願いだからもうこれ以上、あの子達にかかわるのはやめて!」
「……っ?」
ライの緊迫した声にセイは不思議そうに首を傾げた。
「お願いだから……。」
「お姉様、どうしたのですか?どうしてそんなに……。」
セイの問いかけにライは苦しそうに口を開いた。
「私はわけあって未来みたいなところから来たライなの。ええっと……私はこの先のセイちゃんの運命みたいなものを知っている。だから止めに来たの!」
ライは説明に迷いながらもセイの説得にかかった。
「……よく話が飲み込めないのですが……。」
セイは突然のライの発言に戸惑った顔を向けていた。
「飲み込めなくてもいいから聞いて!セイちゃんの事がきっかけであの子達が……タカト君とショウゴ君が死んじゃうの!私はそれを見たのよ!セイちゃんもおかしくなっちゃって弐の世界を壊し始めるの!」
「……タカトとショウゴがですか?私のせいで?」
「そう!あのケンカも引き金になっちゃうの!」
セイはライの言葉で不安になったのかしきりにショウゴ、タカト、ノノカを気にし始めた。
「そんな……。私はどうすれば……。いまから止めに行ってもいいんですか?」
「セイちゃん、もうあの子達と関わっちゃダメ!それからセイちゃんはこれから何が起きても心を強く持ってて。心配なら私じゃなくてここの世界(陸)にいる私を頼って!」
「ですが……それでは彼らを助けられないのではないですか?」
セイは動揺した状態で尋ねた。ライはセイの肩を強く掴み、はっきりと言葉を発した。
「人を助けるのは人!私達じゃない。ここにね、私と同じように未来みたいなところから来たノノカさんがいるの。後はノノカさん次第。セイちゃんはとにかく何が起こっても自分を強く持って!お願い!」
もし、この件が失敗してもセイを厄神に落とさないようにライは必死でセイに掴みかかった。
「あの……でも私が巻き起こしてしまったものなんですよね……。やっぱり私が解決しないと……。」
セイは納得のいっていない顔でライを見上げていた。
「とにかく、今は我慢して。どうすればいいかわからなくなったらこの世界にいる私を頼って!マイお姉ちゃんもセイちゃんを助けるために大きな事件を起こしてしまうの!このままだとセイちゃんがすべての元凶になっちゃうの!……だからお願い。お姉ちゃん達を頼って……。」
ライは耐えきれず涙を流し、セイを抱きしめた。
「お姉様……。」
セイもどうすればいいのかよくわからずに戸惑っていた。




