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ゆめみ時…4夜は動かぬもの達7

 「う……。」

 ノノカはそっと目を開けた。ぼんやりとあたりを見回すとブランコや鉄棒、滑り台がみえた。どうやら公園のようだ。


 「……この公園……。」

 ノノカはこの公園を知っていた。


 「小さい時によくタカトとショウゴと遊んだ公園……。そんでタカトに呼び出されてケンカした所だ。」


 ノノカが立っている場所はちょうどついこの間、タカトとケンカした所だった。

 ノノカはまぶしい太陽から目を背け、公園内を歩き出した。歩き出した直後、ノノカの前にホログラムのようにライ達が出現した。


 「あれ?私達もう陸に来たの?」

 ライが困惑した顔で辺りを見回していた。


 「そのようだな。」

 更夜がライにささやく。ふと見るとなぜか更夜のケガはきれいさっぱり治っていた。


 「更夜……あんた、ケガ治ってるし……。なんで?」


 「そのようだな。まあ、もともと肉体はないのだ。すぐに治っても今更驚かない。どうしてすぐに治ったのかは解明したいがな。俺にもよくわからない。」

 スズの言葉に更夜は別に驚く風もなく答えた。


 「!」

 ノノカは突然の事に驚き、身を引いたがライ達だとわかると表情を和らげた。


 「あ、えっと、ノノカさん、驚かせてごめんね。私達も一緒に見守るから頑張って!……ところでここは……。」


 ライはノノカに戸惑いながら尋ねた。


 「私とタカトとショウゴが昔遊んだ公園。今は待ち合わせとかに使っているよ。あ……使っていた……か。」


 ノノカは近くのベンチに腰を下ろした。


 「そんなところで休んでいる暇はないぞ。小娘。」


 更夜がノノカを見据えながら小さく言葉を発した。ノノカは更夜の言葉に何も言わなかった。ただうつむいていた。


 「おい、ノノカだったか?どうした?来たばかりでいきなり休憩か?」

 「更夜、ちょっとだけそのままでいさせてあげようよ。」

 声を少し荒げた更夜をスズが止めた。


 「スズ……だが早く動かないと……。」

 そこまで言った更夜はスズが止めた理由に気が付き、口をつぐんだ。ノノカは泣いていた。小さく嗚咽を漏らしながら静かに泣いていた。


 ライはせつなげに目を伏せるとノノカの隣に座り、背中をさすってあげた。


 「ノノカさん……。」


 「あのときは……楽しかったな……。あの二人がいなくなってから……この公園の雰囲気が変わっちゃった……。もうここに集まることもない。この世界の私を助けたって私はやっぱり変わらない……。」


 ノノカの一言でライもスズも黙り込んだ。少し前までは考えられなかったくらいノノカは弱々しくなっていた。


 そんなノノカを見据えながら更夜はノノカに静かに語りかけた。


 「じゃあ、やめるか?俺はどちらでもいい。……ひとつ言っておく。この件が成功しようがしまいがここから先、自分が楽になる道などないぞ。自己満足の領域だな。」


 更夜の言葉にノノカの目が見開かれた。


 「……偉そうに言わないでくれる?あんた達みたいな人殺しと一緒にしないでって前にも言ったよね?あんたらに私の気持ちがわかるわけない!」


 ノノカは更夜を睨みつけ吐き出すように叫んだ。


 「お前の気持ちはわからない。だが、殺したくなかった人殺しの心はわかる。地獄だ。その影は一生自分にまとわりついて離れない。感情をなくせばいいと暗殺を生業にするもの達は皆同じ事を言う。


だが人は……完全に感情を消すことなんてできない。影に飲み込まれたら狂うしかない。自分で決着をつけない限り、苦しみは永遠に続く。だからあなたも答えを見つけるのだ。」


 更夜は涙で濡れているノノカの瞳を見つめながら静かに語った。


 「違う……。あんた達とは違う!もうやだ!やっぱやめる!私の世界にはタカトもショウゴもいない!この世界でまたあいつらに会ったらおかしくなっちゃう!


ショウゴは私を恨んでる!絶対恨んでる!タカトとの関係はもう戻らない!だって私の世界にはもういないんだもん!あいつらいないんだもん!だからやっぱりもういい。やめる!もうどうでもいい!」


 子供のように言い放つノノカを更夜は思い切りひっぱたいた。ノノカはベンチからずり落ちて体を地面に強く打ち付けた。


 「ちょ……更夜!いきなり何してんの!」

 スズが更夜に近づこうとしたが更夜がスズを鋭く睨んだのでスズはそっとライの影に隠れた。


 更夜は倒れているノノカのむなぐらを掴むと無理やり起こさせた。


 「ギャアギャア騒ぐな。お前はいちいち俺の勘に触るんだ!起こったことは戻せない!後悔先に立たずという言葉を知っているか?起こったことはもう起こったことなんだ!やめるとかやめないとかうだうだ言っているがあなたはちゃんと自身の中に答えを見つけているのか?言葉も考えてから言う事だな!」


 更夜はいらだった顔でノノカに声を荒げていた。ノノカの優柔不断な言葉に更夜はどこかいらだちを覚えていた。自身が負った後悔もこねくり回されているようで感情の高ぶりが制御できなかった。


 珍しく怒鳴った更夜にスズとライは怯え、少し距離をあけていた。

 むなぐらを掴まれているノノカは体を震わせながら泣きはじめた。


 「あ、あんた達はいいよね!今、幸せなんでしょ!人を何人殺してもすぐ忘れられるんだから!友達とか仲良かった人とか家族とかだって平気で殺せるんでしょ!私はあんた達とは違う!もうほっといて!」


 ノノカはこの公園に来て切なさに対する八つ当たりなのだろうか、思ってもいない言葉が口から出ていた。


ノノカの心は押しつぶされそうで本当はライ達に甘えたかった。助けてほしかった。だがまだ強く保っていたかった自分があり、天邪鬼のように強気で更夜に掴みかかっていた。


 「甘えるな!」

 更夜は再びノノカをひっぱたいた。更夜自身もなぜ、ここまで頭にきているのか自分でもよくわからなかった。


 「もうやだ……!離して!放っておいて!もうひとりにさせて!」


 「じゃあ、お前はなんでここに来た!お前は変わりたいと思って来たんじゃないのか?一人でいたければチヨメについていくな。」


 「うるさい!もういい!もうやだ!ここでタカトとショウゴを救っても私の世界にはいないもん!意味ないじゃん!……あんた、人殺しなんでしょ!私をもう殺してよ!殺して!」


 「お前を殺して何になるというんだ!思ってもないことを軽々しく言うな!」


 更夜はノノカの頬をまたも強くひっぱたいた。何度も鉄砲を放ったような音が響く。ライとスズは音がするたびに目をつぶって肩を震わせていた。


 ノノカは叩かれながら目に涙を浮かべて叫ぶ。


 「人殺しなら私も殺せるでしょ!あんたは何人も人を殺してきたんでしょ!もういやなの!すべていや!殺してよ……。死にたいんだよ!死んだ方が楽じゃん!」


 「……殺せとか死にたいとかお前みたいな生ぬるい環境で育った小娘が軽々しく言っていい言葉ではない!いい加減にしろ!」


 更夜は再び手を振り上げるがスズに腕を掴まれた。


 「ちょっと!更夜、どうしたの?なんかさっきからおかしいよ。そんなに何度も強く叩いちゃかわいそう。」


 「……スズ……。……そうだな……やりすぎた。……すまん。不思議とはらわたが煮えくり返って抑えられない。こんな状態じゃあ話にならん。……悪い。これは俺が大人げなかったな。」


 更夜はノノカを乱暴に離した。ノノカは鼻血を袖で拭うと声を上げて泣き始めた。


 「くそっ……なんなんだ。いらだちが制御できん。……すまん。俺はちょっと頭を冷やしてくる。まったく小娘相手に俺は何をしているんだか……。なぜだかわからんが感情を抑えられん……。腹が立って仕方がない。


俺だって……人の子だった。人を殺したくなんてなかった!……スズを……憐夜を……救ってあげたかった……。だが俺はそれができなかった。俺にこういう機会があったら(ろく)の憐夜とスズを救ってやれた……。救ってやれたかもしれないんだ……。」


 更夜はどこか悔しそうにそうつぶやくとライとスズに背を向け、公園から外へと出て行った。


 「こ、更夜!」

 「更夜様!」


 スズとライは更夜を引き留めようとしたが更夜はこちらを振り返ることなく去っていった。


 「もう、更夜ったら……。でも、あんなに苛立っている所、はじめてみた……かも。あんなことする人じゃないし……どうしたんだろ。変なの。」


 スズはため息をつきながらノノカをベンチに座らせてやった。


 「の、ノノカさん、大丈夫?けっこう痛かったんじゃない?」

 ライはノノカの背中をさすりながらノノカの様子を窺った。


 「だってもう……どうしたらいいかわかんないんだもん。」

 ふとノノカが小さく声を上げた。


 「ノノカさん……。」

 ライが心配そうに声をかけるがノノカは両手で顔を覆い、むせび泣いているだけだった。


 「じゃあ、わかった。」

 しばらく泣いているノノカを見据えていたスズが突然、声を上げた。


 「あんたさ、とりあえずライを助ける事を全力で考えてみなよ。ライを助けるためにあの結末をさけるってことでさ。そうやってやみくもに手を伸ばせば知らずと答えが見えてくるよ。とりあえず、頑張ってみようよ。」


 「……。」


 「自分の心を救おうと考えすぎているのよ。あんたは。せっかくこの世界に来たのだから後ろばっかり向いてないで前を向いて歩き出す!この件、一生懸命頑張ろう?やらないよりやる。それがいいと思うけどね。」


 スズもノノカのとなりに座り、優しく言葉をかけた。

 ノノカからの返答はなかった。


 しばらく静寂が包み込んだ。子供の笑い声が次第になくなっていく。太陽は西に傾き、夕焼けが三人を照らした。


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