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ゆめみ時…4夜は動かぬもの達4

 いままで寡黙に様子を見続けていたセカイは打ち解け始めた更夜達を見てひとりつぶやいた。


 「人間も神も心があれば変われる……。ノノカは変われるだろうか……。私にはわからない。K……あなたの心も負の感情に支配されていた事があったのでしょうか……。あなたが立派に務めを果たせるようご尽力致します。」


 セカイはひとりつぶやくと唯一の光源である美しい月をそっと見上げた。



 茶色の髪にダウンコートの男、マゴロクと銀髪を肩先で切りそろえている着物を着た、見た目子供のサスケは暴れながらどこかの世界を破壊しているセイを静かに監視していた。


 セイは笛を乱暴に吹きながらあたりの木々を薙ぎ倒している。セイが笛を吹くたびにまるで衝撃波のようにどこかの木々が吹っ飛んでいた。


 「この世界ももう壊れるかね……。サスケ。」

 「ふむ。まあその前にトケイが来そうだァ。セカイを呼ぶ準備でもしておくかィ?」


 マゴロクとサスケは衝撃をうまくかわしながら見つからないように別の木々の影に隠れた。


 「そうだな。」


 マゴロクが返事をした刹那、オレンジの髪をした青年が無機質な目をしたまま、こちらに飛んできていた。


 ももの辺りにウィングがついておりそれで空を自由に飛び回っているようだ。


 ノースリーブのようなものを着ており、下はズボンだ。青年の胸には電子数字が何かの時を刻んでいた。感情はなく、まるでロボットのようだった。


 「……きたなァ……トケイィ……。」

 サスケはオレンジ色の髪の青年をトケイと呼んだ。


 「セカイに連絡を入れるよ。」

 「まてェ、セイが逃げてやがらァ。追うかィ。」


 マゴロクがセカイに連絡を入れようとした時、セイが散々壊した世界から飛び出していった。


 「追うか。」


 マゴロクとサスケは素早く動き出すとセイを追ってこの世界から出た。トケイは無言のままセイを追い、飛び去って行った。


 「おい。サスケ。このままじゃまずいよ。」


 マゴロクはセイを追い、世界と世界をつなぐバイパス部分を飛びながらサスケに目を向けた。


 霊魂、夢の世界である弐は無数の世界があり、それはネガフィルムのように帯状に連なっている。


 この沢山ある世界は感情がある動物の個人個人の世界である。生きているものは眠っている時、弐にある自分の世界へと精神が動く。


 そして自分の世界を一周し、心を安定させてから現世(壱の世)に戻ってくる。


 しかし、もう肉体がないものは想像の物、もしくは霊というエネルギー体となり弐の世界を自由に飛び回ることができる。


 この弐の世界はセカイから言わせれば感情というエネルギーと魂というエネルギーでできている宇宙空間の一部とのことだ。ブラックホール内部に近いかもしれない。


 よくわからないダークマター、感情と魂というエネルギーが渦巻く世界、それがここ、弐の世界だ。


 「あァ……確かにこのままじゃァまずいなァ。」

 サスケもマゴロクに焦った顔を向けた。


 「……セイが向かっている所は更夜達がいる世界だ。食い止める方法を思いつかないが……セカイにはとりあえず知らせておこう。……おい、にゃんこ。」


 マゴロクは自身で飼っている猫の名を呼んだ。猫は声を発さずにすぐにマゴロクの横を走り始めた。


 「セカイに伝えろ。」


 マゴロクはたった一言だけ言った。猫はそのまま、マゴロク達が飛んでいる場所から消えていった。

 


 一方で女忍である望月チヨメは茶色のウェーブがかかった髪をなびかせてノノカという少女を待っていた。ここはそのノノカという少女の世界である。


 音符や楽譜が辺りを回っており、そのほかは特にない。


 しばらく待っているとノノカが突然、その場に現れた。ノノカは現世にいる少女で現世で眠りについたため、弐の世界内部にある自分の世界に戻ってきたのだ。


 「あれ?チヨメじゃん。笛は?」

 「ノノカちゃん……もう笛はあきらめましょう?辛い気持ち、わたくしはわかっていますから。」


 「は、はあ?何わけわかんないこと言ってんの?さっさと笛を……。」


 ノノカが声を荒げようとした時、チヨメが光のない瞳でノノカを見据えた。


 チヨメの瞳を見たノノカは戸惑いながら口を閉ざした。目の前に立つチヨメにノノカは畏怖に近い感情を抱いた。


 「いい加減に自分の気持ちから目を背けるのはおやめなさい。あなたとわたくしは魂の色が同じ。わたくしとあなたは同じ熱量……エネルギーから生まれた。あなたの感情は手に取るようにわかります。」


 「自分の気持ちって何?セイの笛を手に入れてすごい曲を沢山作りたいだけ!評価されたいだけ!」


 ノノカはどこか苦しそうに言葉を発した。


 「知っています。


 はじめはまわりに評価されたくて頑張っていたのですよね?

 その後、恋人のタカト君の曲が評価されはじめた。


 それが芸術神セイのおかげだと知って腹が立ったのでしょう?

 タカト君は自分に眠っていたひらめきに夢中になり、恋人であるあなたは見捨てられてしまった。


 ですが、タカト君は曲に夢中になっていましたがあなたをないがしろにしたわけではありません。タカト君が作っていた曲はすべてあなたのための曲です。」


 「そ、そんな事わかっていたよ!でもタカトはろくに私に会ってくれなかったし、なによりすっごいムカついたの!死ねばいいって思った。死んじゃえって思ったよ!」


 ノノカはチヨメに向かい声を荒げた。


 「そう……今の子はなんでも死ね。辛かったら自殺すればいいって。


 ……私達の時代よりも死が軽い。ショウゴ君もそうですわね。

 ……世界から見たら人が一人死のうが何しようが関係ないですけど、無情な世界のシステムと人間は違います。


 人間には感情がありますわ。皆、正常の心ならば死の重さに耐えられない。

 ショウゴ君はタカト君を突き落として殺害してしまい、その後、あなたの嘘で固められた心を信じ、死の重さとあなたに対する絶望に支配され自殺した……。


 ……つまりあなたを恨んで死にました。ですがショウゴ君はタカト君を殺したのは自分だと心を痛めてもいました。」


 チヨメは感情なく淡々とノノカに言い放つ。ノノカの表情は次第に余裕のないものへと変わっていった。


 「そ、そんなの知らない!タカトとショウゴは勝手に死んだの!私は関係ない!」


 「あなたはタカト君を殺したショウゴ君に『殺してくれてありがとう』と笑顔で言ったそうですね。

 

 ショウゴ君はあの時、ひどく後悔していたと思われます。


 あなたのその言葉がショウゴ君を自殺へと追い込んだ。……ノノカちゃん……あなたは今、自分が二人を殺してしまったと思っているのでしょう。」


 チヨメの最後の一言にノノカの表情が曇った。


 「ち、違う!ムカつくタカトとうざいショウゴが消えてうれしかったはずだもん!私が二人を殺したなんて思ってないよ。タカトを殺したのはショウゴ。ショウゴは自殺。私、関係ないもん。」


 「……当時は死を軽く見ていましたね。ですがもうそろそろ……あなたは死ぬということがどういう事かわかってきたのではないですか?


 ただのケンカでしたら仲直りができます。相手がいるんですから。あやまることもできます。相手をひっぱたくことだってできる。


 そこに存在しているのですからね……。ですがもうあなたはその選択肢を選べない。なぜなら、もう彼らは存在していないから。」


 チヨメの言葉が深く鋭くノノカに刺さっていく。とっくに気がついていてそれを必死で隠していたがチヨメに掘り起こされた。


 ノノカの目から知らない内に涙が零れていた。


 「もう……遅いよ……。全部……遅いんだよ……。


 セイの笛なんてはじめからいらなかった。……セイの笛を追っかけていればあいつらの事、思い出さなくて済んでた。


 何かを考えていないとあいつらが死んだ事がとても身近に感じて耐えられなくなるの。はじめのうちはゲーム感覚だった。


 でも……消えちゃうってこういう事だったんだって……もうケンカもできない……メールも返ってこない。

 家に行ってもいない。相談も聞いてもらえない。タカトがネットにアップしていた曲ももう更新されない。


 ショウゴといやいや帰っていた放課後も戻ってこない。

 あいつらにあやまれない。気持ちも伝えられない。


 私一人が違う世界に行っちゃったみたい……。タカトに会いたい。ショウゴに会いたい。もう何もかも戻ってこない……。今更嘆いたって遅い。」


 ノノカは大粒の涙をこぼしながらその場に崩れた。


 「そう。嘆いても遅いですわ。


 いつも辛いのは死んだ人間ではなく生きている人間の方です。


 あなたが現実世界でこのことに対し、どういう答えを出すかで心は変わります。


 正の方にいくか負の方にいくか……それはあなた自身の答えがどう出るか……です。模範解答なんてありませんわ。」


 チヨメは嗚咽を漏らしながら泣いているノノカを冷たく見据えていた。


 「どうしたらいいの?辛い。胸が張り裂けそう。チヨメ……助けて……。私、どうしたらいいの?ねえ!教えてよ!どうしたらタカトとショウゴへの気持ちを変えられる?」


 ノノカは座り込んだ状態のままチヨメの両手を握った。


 「それが死の重み……そして後悔です。


 わたくしにはどうしようもありません。わたくし達忍は心を奥深くにしまい込み、狂ってしまった者達です。


 平和に生きている現代の感情とは違います。

 どちらにしろ、自分で答えを見つけないと永遠に縛られたままですよ。


 まあ、死の重みの鎖を引きちぎる事は人間には無理でしょう。答えを見つけて鎖を引きずりながら生きていくことしかできません。


 死んでしまった者に懺悔なんてできないでしょう。亡くなった方に対しての懺悔は生きている人間の想像でしかありませんから。」


 「そんな……。」

 冷たいチヨメの発言にノノカはうなだれ再び泣き始めた。


 「ですが……少し心を軽くする事はできるかもしれません。」

 「……?」


 弱々しくこちらを見上げたノノカにチヨメはある提案を持ちかけた。


 「あなたがいる世界とは別にもう一つ、同じ世界があります。


 もう一つの世界でもあなたは存在し、タカト君もショウゴ君も存在しています。


 その世界は三人とも生きている状態ですがこれからあなたが通ってきた道を向こうの世界のあなたも通ろうとしています。


 つまり、今のあなたと同じ状況に向こうの世界のあなたもなるという事です。」


 「向こうの世界の……自分?」


 「そうです。あなたには直接関係ありませんが……もう一つの世界にいるあなたを救ってあげたいと思いませんか?」


 チヨメはノノカになるべく優しく問いかけた。


 「……もう一人の自分だって言っても私じゃないじゃん。」

 「あなたがこれから生きる上での打開策になるかもしれません。」


 「……。」

 チヨメの言葉にノノカは黙り込んだ。


 「この方法以外、わたくしは提案できませんわ。」

 「……やる。もうタカトとショウゴを殺したくない……」


 ノノカはしばらく黙り込んだ後、小さくそうつぶやいた。

 


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