流れ時…2タイム・サン・ガールズ9
アヤは驚き上を見上げる。
社の屋根に目を向けると明らか寝起きな顔の男がこちらを覗いていた。
きれいな金色の髪が肩にかからないくらいでなびき、頭にキツネのような耳が動いている。赤いちゃんちゃんこに白い袴を履いていた。おそらくこの神社の神様である。
「キツネ?」
「キツネじゃねぇ!……まあ、キツネから神になったからキツネか。」
男は一人で乗りツッコミすると軽やかにアヤのとなりに落ちてきた。
「日穀信智神……ねぇ。」
アヤは隣にあった説明書きを読み、ここの神を知った。
「面倒事は嫌いなんだが……まいったなあ。俺に被害はないよな?」
「知らないわよ。ないんじゃないの?」
「あんまり神社壊してほしくねぇし、ここに死体が転がるのもやだぜ。」
男はため息をつくとアヤの横に座り込んだ。
「あなたにはアマテラス様っていう神様から命令が来ていないの?」
「は?アマテラス様?太陽神達の概念じゃねぇか。加護はもらえるが実際の神はな、今はいないぜ。」
男は大きな欠伸をしながらアヤの説明に答えた。
「そうなの?」
「ああ、あの神は太陽そのものって感じだからなあ。まあ、だから人間でいう……霊体?」
「姿はないって事ね。」
「そういう事だな。で、俺はもともと実りの神だからな。太陽神の加護はあるが太陽神って呼べんのかどうなのか……。」
男がそうつぶやいた時、プラズマが吹っ飛ばされてきた。
「ダメだ……。まるで勝てる気がしないな。サル!ダメだ!さっさと道を開いてくれ。こいつらと争ってたら命が足りない!」
プラズマがサルに向かい叫んだ。その隙に太陽神がプラズマに向かい剣を振り下ろす。
「やっべぇ!」
プラズマは素早くかわした。思い切り振り下ろした太陽神の剣は爆風と共に神社に敷き詰められている石を巻き上げた。
「きゃあ!」
近くにいたアヤは爆風に吹っ飛ばされそうになったが隣にいたキツネ耳の神に助けられた。
キツネ耳の神は吹っ飛ばされ社の柱に激突したがその時、運よくアヤも一緒に飛ばされ、キツネ耳の神に覆いかぶさるようにぶつかった。
つまり、キツネ耳の神がクッションとなった。
「た、助かったわ。……大丈夫?」
「俺を殺す気なのか……。」
キツネ耳の神は死んだような顔でアヤを見つめた。
「そんな顔されても私のせいじゃないじゃない……。」
「まあ……おたくが無事でよかったぜ。俺は丈夫だからな。」
キツネ耳の神は頭をさすりながらアヤをどける。
アヤは戦闘になっている場所に目を向けた。
サル、そして時神達は余裕のない戦闘をしている。この中からサルが抜けて太陽への道をつくるというのは困難に思えた。
「私が戦闘に参加してサルを外に出さないといつまでたっても太陽に行けない。」
「おたく、正気か?やめとけって。まだ、神になってあんまり経ってねぇんだろ?」
「そうだけど……。」
迷っているアヤの肩にキツネ耳の神の手が乗る。
「よし、じゃあ、俺が開いてやる。太陽へ行くんだろ?
幸い、俺は太陽神の称号がかろうじてあるらしい。おたくらが太陽で何したいか知らんが太陽への門を開くくらいなら俺でもたぶんできるぜ。」
男の青い瞳が天へと向く。なんだかすごく頼もしく見えた。
サルがアヤ達の話を聞いていたのか、こちらを向いて鏡を模した盾を投げてきた。その盾をキツネ耳の神がうまくキャッチする。
「お、重っ!」
しかし盾は思ったよりも重たかった。
キツネ耳が抜けた声を出しながら盾をよろよろと持ち上げた。
「しっかりしてよ……。」
アヤが何とも言えない顔でキツネ耳を見つめた。
「それを太陽にかざし、門を開くのでござる!太陽神ならば太陽への導きの光りが出せるはずでござる!」
サルは熱線を避けながらこちらに必死でやり方を教えている。
鏡が熱光線を弾き、反射するが光はまっすぐに飛ぶので避ける事は可能である。
だが、光を目で追うだけならまだしも、他の太陽神も物理攻撃をしてくるので避けるのが困難なのだ。
これが太陽神達の陣形である。
「そんなこと言ったってわかんねぇよ……。」
「あなた、自信満々だったじゃないの……。」
キツネ耳は先ほどの面影はなく、かなり小さくなっていた。
まず盾が重すぎて持てない。
アヤもキツネ耳を支えるが二人で持っても持てない。
猿達、太陽神は一体どれだけの力を秘めているのか。
途方に暮れていた時、栄次がちらりとこちらを見た。
襲ってくる光線を避けながらだったのでほんの一瞬だったが何かを訴えかけていた。
「日穀信なんたらさん、栄次に盾を向けて!」
「日穀信智神だ!おたくも手伝ってくれよ。」
アヤはキツネ耳と共に盾を栄次の方へ半ば引きずりながら動かした。
「ダメでござる!それは太陽に向けるのであって……。」
サルが叫んだ時、栄次と対峙していた太陽神が剣先から光線を出した。
栄次は素早く避け、光はキツネ耳が持っている盾にぶつかり反射した。
栄次はその光めがけて刀を伸ばす。光はさらに刀にぶつかり反射した。
「なるほど!俺が出した光じゃねぇが、それで太陽に光を当てて……。」
キツネ耳が言葉をこぼした。だが光はギリギリで太陽から少し逸れていた。
「失敗?」
アヤがつぶやいた時、素早く飛んできたプラズマが銃で光を弾いた。
光は太陽へ向かって真っすぐ伸びて行った。
「俺の銃はメタリック!うまく反射してくれてよかった。……それより栄次!入射角と反射角!小学校でやっただろ?」
「学校?寺子屋の事か?知らんな。」
「はあ、これだから江戸の人間は……。調子狂うな……。」
「それより門が開いているうちに早く行くのでござる!」
サルが無駄な争いをしている二人を止め、太陽を仰ぐ。
いつの間にか目の前に鳥居が立っていた。
鳥居の先に猿の石像が二対、向かい合わせで立っている。
そのさらに先に天へと続いている石段。石段は浮いており、所々にある灯篭も浮いている。
「太陽へは行かせられん!」
太陽神達は光線と剣で襲ってきた。
「とにかく走れ!」
プラズマが攻撃を避けながら鳥居をくぐった。
アヤも鳥居に向かって走った。
「お、おい!」
キツネ耳が心配そうにアヤを見つめていた。
「ありがとう。色々助かったわ。」
アヤはキツネ耳に笑いかけるとそのまま走り去った。
アヤに続き、栄次も太陽神を蹴落とし鳥居をくぐる。最後にサルがキツネ耳の持っている盾を奪い取ると鳥居をくぐった。
「裏切ってすまぬでござる。」
サルはそう言って盾を太陽神達に向けた。それを合図に霧がかかるように鳥居が消えて行った。
「まずい!門が閉まる!追え!」
「もう遅いのでござる!」
太陽神達がサルを引きずりおろそうとしたが鳥居が消えてしまったため、玄関を失い、太陽へ入る事ができなかった。
「ちくしょう!太陽への門をもう一度開け!」
太陽神が他の太陽神に命令をしている。どの太陽神にも動揺が見られ、何かに怯えていた。
キツネ耳はそれをただ見ていた。
「あの神達は何をやったんだ?太陽神があんなに怯えているなんてな。」
……いや、怯えてるんじゃないのか?なんで自分達がこんな事をやっているのかわかってない顔だな……。太陽を取り仕切っているこいつらより上の神がわけわからん命令でもしたか……。
キツネ耳はふうとため息をつくと社の屋根に飛び乗ると横になった。
……ま、俺には関係のない話だ。
キツネ耳はのんびりと太陽に目を向けた。




