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ゆめみ時…4夜は動かぬもの達2

 一方では千夜の弟、逢夜が霧隠才蔵と死闘を繰り広げていた。


 「っち……。お姉様にこいつが回らなくて良かったぜ。」

 逢夜は的確に飛んでくるクナイを避け、才蔵と距離をとった。


 才蔵は黒い髪をなびかせたまま表情変わらずに逢夜との距離を詰めてきた。

 才蔵の腕からは血が滴っており、腕のどこかにケガを負っているらしい。


 対する逢夜も腕にケガを負っており、指先から地面へと血がぽたぽたと落ちて行っている。


 「俺の動きとまったく同じ事をしてきやがる……。」


 ……俺が動かなければ動かないで奴は適所に攻撃してくる……。


 逢夜は才蔵が飛ばしてきた手裏剣を小刀で弾いた。そしてそのまま小刀を振り回し、後方を凪いだ。


 「……逃げやがったか。」

 「……。」

 逢夜のすぐ後ろにはいつの間にか才蔵が立っていた。


 才蔵の目からは何も読み取れなかった。感情はまるでなく、ロボットのように動いている。


 考える余裕もなく逢夜は右側に小刀を振り下ろした。刃物同士がぶつかる音がしたが才蔵を斬る事はできなかった。


 前方、後方、左右と鋭い蹴りを入れてみるも才蔵の影を裂くばかりで本体に当たらない。


 ……関節を外してありえない方向から避けているな……


 逢夜は再び気配のした方向を斬った。手ごたえはあったがそれは木の枝だった。


 「……っち。」


 逢夜は場所を変えるために木が覆い茂る森に向かい走った。すぐ近くで気配がする。


 しかし、お互い影分身を使って走っているためお互いの姿を捉える事はできなかった。


 ……足は俺のが速いか。


 「!」


 逢夜は突然、左に飛んだ。逢夜がいた場所には縄に絡まった小刀が落ちていた。


 ……傀儡の術。避けなかったら刺さってたぜ。

 ……なるほどな。後ろからついてくる気配は才蔵じゃねぇ。

 ……才蔵は俺の前にいやがる……。


 気配をすぐ近くで感じたが逢夜は恐れる事なく影に向かい手を伸ばした。

 そして何かを掴んだ。


 ……これか。


 逢夜は掴んだものをパッと放した。ヒラヒラと黒い布が舞った。その黒い布の先端に糸がついていた。


 ……これも傀儡。奴はいつから俺の前にいない?先程まではいたじゃねぇか。


 「……。」

 逢夜は足を止め、今度は高く飛び上がった。


 逢夜の足元から突然、大規模な爆発が起こった。爆音が響く中、その噴煙に紛れて才蔵が逢夜の目の前に陽炎のように現れた。


 逢夜は羽織を脱ぐと自身の前を覆った。


 ……闇隠れ……


 才蔵が刀で凪いだ時にはもう逢夜はその場にいなかった。才蔵は逢夜の羽織を横に切り刻んだだけだ。逢夜は素早く才蔵の後ろに回った。


 ……糸縛り……


 逢夜は糸を才蔵に巻き付け術をかける。

 才蔵は糸縛りが完全にかかるほんのわずかな時間で火打ち石を地面に放った。


 石と石が合わさり地面に着くと同時に火が付いた。刹那、地面がまた大きな爆発を起こした。


 地面に爆弾が仕掛けられていたようだ。逢夜を巻き込み、才蔵は自分もろとも爆薬の火の粉を浴びた。


 煙が辺りを覆い、逢夜は体中血にまみれながら立ち上がった。着物は焼け焦げ、ボロボロで髪留めは吹っ飛ばされて消えたため、長い銀の髪が纏まりもなく垂れ下がっている。


 「……あの野郎……。糸縛りを切るために自分もろとも吹っ飛びやがった。」


 そうつぶやいた逢夜は傷だらけにもかかわらず、後方を小刀で凪いだ。


 キィンと金属がぶつかる音がした。今度ははっきりと才蔵を捉える事ができた。


 後ろから逢夜を狙った才蔵も体中から血を流しており、着物もボロを纏っているようだった。


 気が付くと才蔵の小刀と逢夜の小刀がぶつかりあったまま止まっていた。


 「まだ生きていましたか。」

 才蔵がはじめて口を開いた。


 「おめぇもな。」

 刀同士がつば競り合いのように均衡を保ったままぶつかっている。


 ……こりゃあ、どっちかが動いたら動いた方が弾き返されるな。弾かれたら隙ができる。おそらくこいつも動かねぇだろう。


 逢夜は完全に固まっている体のまま相手の出方を伺っていた。

 お互い、片手でつば競り合いをしているため、もう片方の手が空いていた。


 二人はお互い気が付かないように空いている方の手を動かしていた。

 そして同時に針を投げた。


 ……影縫い……


 「っち。」


 「……。」

 逢夜と才蔵はお互いに影縫いをかけ、その場に倒れた。


 「お前、やり方が強引すぎんだよ。」

 影縫いをかけられて動けなくなっている逢夜は投げやりに声を発した。


 「お前はしぶとすぎますね。更夜の兄とのことですが確かに人間離れしています。」


 「おめぇもな。術解くために自分の足元爆発させるなんてこたぁ、普通はできねぇよ。」


 逢夜は真っ青な空に目を向けながらこれからどうするかを考えていた。


 「お前のところの家系ならば普通にやるのではないですか?」

 「俺はやらねぇよ。」


 「しかし、気になりますね。お前ほどの力を持つ忍がどうやって殺されたのか。」

 才蔵の言葉に逢夜は顔を曇らせた。


 「ふん。戦時中に見ず知らずのガキを庇って死んだんだよ。憐夜に似てたんだ。

放っておけなかった。まったく……馬鹿なことをして死んだもんだ。」


 「そうですか。それは誇れる死に方ではありませんね。」

 「ああ。まったくだ。負け戦だったからな。あの小娘が生きていたとしてもとっ捕まって男共の玩具だぜ。」

 逢夜は不機嫌そうな声で言い放った。


 「で……お前は本当にこの世界の事を知らなくてよろしいのですか?」

 「知ってどうすんだ。知らない方がいいこともあんだろうが。」


 「知らなくていいことの判断をお前ができるのですか?」

 投げやりな態度の逢夜に才蔵は感情なくつぶやいた。


 「しらねぇ。俺は別にどうでもいい。」

 「そうですか。」

 逢夜と才蔵はそこから何も話さなかった。




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