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ゆめみ時…4夜は動かぬもの達1

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

 白い花畑に勢いよく風が通り過ぎる。それはただの風ではなく、銀髪の姉弟と黒ずくめの男二人が駆け抜けた時に発生した風だった。


 銀髪の低身長の女、望月千夜は黒ずくめの男、服部半蔵の攻撃を軽やかにかわしていた。


 「っち、なかなか当たらねぇな。女の身体能力をはるかに超えていてなおかつ身軽。男の世を渡り慣れてやがる。だがな、それがしをなめてもらっちゃあ困ります。」


 半蔵は高速で千夜に近づき、回し蹴りを千夜の脇腹目がけて繰り出した。その蹴りは千夜に当たる事はなく、なぜか煙のように消えてしまった。


 「後ろですな……。」


 半蔵はすぐ後ろで揺らめく影に向かい、再び蹴りを入れた。しかし、それも千夜に当たる事はなく、再び煙のように消えた。


 「……やるな。……下……と見せかけて真横ですな。」


 半蔵は目線下に揺らめく影を無視し、左横を無造作に蹴り上げた。今度は何かが当たった気配があった。


 「……なかなか一筋縄にはいきませんねぇ。落ちなかったですかい。」

 半蔵の目線の先で腹を軽く押さえた千夜が立っていた。


 「かなり重たい蹴りだ。こんなのを喰らったのは久しぶりだ。」

 千夜は表情なしに半蔵にささやいた。


 「おめえさんはかなり打たれ弱いようですな。故にそれがしの攻撃が当たらないように逃げている。」

 半蔵の言葉に千夜は軽く笑った。


 「それはそうだ。屈強な男の蹴りを喰らったら死んでしまう。だから男と渡り合う術を身につけてきた。」


 「!?」


 千夜が少し右手の指を動かすと半蔵の右足がまったく動かなくなった。


 「なるほど。蹴りを受けた直後にそれがしの右足に糸縛りの術をかけたってわけですかい。だがな、糸縛りは簡単に解けますよ。」


 半蔵は右足に巻きついている糸を軽く取ってしまった。


 「それはそうだろうな。」

 千夜はまったく焦る様子もなく、指を二本立てた。


 「!?」

 今度は半蔵の身体全体が動かなくなった。


 「私が今更、そんな初歩的な術のみをかけるとでも思っていたのか?」


 「っち……影縫いですかい。」

 半蔵はため息をついた。


 「しばらくおとなしくしていろ。」


 「……まいったねぇ。よくもまあ、こんなスキのない影縫いがかけられますな……。」


 半蔵の言葉を無視した千夜はとっさに飛び上がった。


 「っち……。」


 千夜の後ろに突如半蔵が現れ、半蔵は千夜を小刀で凪いだ。しかし、千夜は素早く飛び上がり、半蔵と距離をとって着地した。


 先程、話していた場所には木の枝が落ちていた。


 「変わり身か。」


 ふと半蔵の後ろから千夜の声が聞こえた。千夜はもうすでに先程のところにはいなかった。


 「はやいですな……。もう後ろに回ったのかい。それがしも余裕がなくなりそうだ。」

 半蔵は自身に火を放った。


 「……っ!」

 千夜が少し怯んだ。炎は高く上がり、半蔵を飲み込んだ。


 「うぐっ!」


 刹那、千夜が低く呻いた。千夜は何が起こったのかわからないまま地面に倒れた。


 仰向けに倒れた先に半蔵が立っていた。半蔵は上半身裸の状態だった。


 「火遁からの糸縛り……そして影縫いか。流石だな。」

 千夜は冷酷な瞳で焦ることなく半蔵を睨みつけていた。


 「……なんて目をしてやがる……。お前さんはまだ若いんだろ?若い娘がそんな顔をしなきゃあならねぇんなんてまったく悲しい時代に生まれたもんですな。」


 「死んだのは三十一の時だ。そんなに若くもない。」

 「おっと。」

 半蔵は千夜の右手がわずかに動いているのを見つけ、右手を踏みつぶした。


 「……っ。お前の目も冷酷すぎるほどに冷酷だ。」

 千夜は怯む事なく、今度は左手をわずかに動かした。刹那、半蔵の体に数本の針が刺さり、影にも針が刺さった。


 「っち。人体のツボ……的確ですな。力が入りやせん。」

 半蔵はその場に膝をついた。


 「影縫いもかけた。しばらくお互い動けないな……。このまま私とじっとしていろ。」

 千夜は半蔵に冷笑を向けた。


 「……この世界を知るものが間近にいるというのにどうして知りたいと思わないんですかい?」

 半蔵はふと表情を柔らかくして千夜に問いかけた。


 「……。」


 千夜は光りのない瞳でじっと半蔵を見つめていた。


 「お前さん、本当は忍なんてなりたくなかったんだろ?そこには自由はなくてお前さんは運命に縛られていた。違いますかい?」


 「そうだな。私は弟と妹を守らねばならなかった。私は自ら率先して危険な場所に行き、弟達に危険が及ばぬようにしている最中に死んだ。忍の末路はいつだって悲しい。」


 千夜は苦笑しながら半蔵に言葉を発していた。


 「お前さんはその運命を恨まなかったんですかい?」

 「恨んだことはない。だが、死んでからも切なさは残っている。」


 「そうですかい。話になんねぇな。」

 千夜の話を聞き、半蔵はため息をついた。 


 「時に半蔵、さきほどは急所をはずしたのか?」

 千夜の問いかけに半蔵の目が少しだけ揺らいだ。


 「ふん。女相手だと腕が鈍っちまってしょうがねぇんです。才蔵みたく冷酷になれたらいいんですがね。だからこんなザマだ。」


 半蔵はまったく動かない体を無理に動かそうとはせず、あきらめたかのように目を閉じた。


 「……ではもう諦めて更夜達のすることを見ているのだ。あやつらはある意味運命を変えるようなことをする。セカイに尋問しKについて色々と聞き出すのはその後でもよかろう。」


 千夜の瞳が鋭く揺れた。


 「……っ。お前さん……まさかそれがし達と目的が同じなんですかい?」


 半蔵の鋭い声に千夜は不敵にほほ笑むと

 「さあな。」

 とつぶやき黙り込んだ。




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