ゆめみ時…3夜が明けないもの達最終話
「あ、あの……。」
ライは先程話した提案がどこまで通ったのかを確認するために声を上げた。忍達は皆、複雑な表情を浮かべていたがライの提案に乗る気のようだった。
「なんとかしてノノカちゃんの心を軽くしてあげないといけませんね。」
チヨメが潤んだ瞳でサスケとマゴロクを仰ぐ。
「その流し目、やめてくれないか……。俺はあんたの手助けをしてやろうとしてんだからさ。」
マゴロクはチヨメの流し目に流されかけたがライの策に乗っかってくれるようだ。
「チヨメ、そりゃあ、長年の癖かェ?おめぇみてぇな女は危険な香りがするから男が怖くて寄ってこねェよ。ま、今回はあんたらに従うとするかィ。タカト君を救えるならァな。」
サスケもそれしか手立てが浮かばず、あまり納得がいってなさそうだったが乗っかってくれた。
「サスケさん、チヨメさん、マゴロクさん。ありがとうございます。」
ライは三人を眺め、お礼を言った。
刹那、目の前に更夜、スズ、憐夜が現れた。
「遅くなってごめんね。ライ。……って……あんたらは……。」
スズは声を発すると共に素早く構えた。しかし、それを更夜が柔らかく止めた。
「ちょっと更夜?」
「あなた達は何故、ここにいる?ライに何かしたか?」
更夜は感情なく三人の忍を見据えた。
「別にィ。ライちゃんの策に乗っかってやろうって話をしていただけだィ。な?」
サスケがマゴロクに同意を求めた。
「ま、そういう事だね。」
マゴロクも感情なく頷いた。その横でチヨメがハッと目を見開いて憐夜に目を向けていた。
「あら?あなたは憐夜ちゃん?あの狂った家系は辛かったでしょう?あなたの所の望月家と他の望月家で修練があった時、更夜ったら私の色香を痛みで飛ばすのに何の感情もなしに左腕にクナイやら小刀やらを刺して襲って来たのです。ただの練習だったのですよ?あなたのとこの家系、やばすぎ……って思いましたわ。自分の腕に何の躊躇もなく刃物を刺せて表情も無表情。化け物かと思いましたわ。」
チヨメは憐夜にそっと微笑んだ。憐夜は何も話さなかったがそっと更夜の影に隠れていた。チヨメはそのまま言葉を続ける。
「あなたが抜け忍になったって聞いた時、望月家が集まっていたのだけれど、わたくしは後から集会所に行ったのよ。そうしたら、あなたのお兄さんかしら?血まみれでよくわからなかったのですが、身体中、鞭痕と打撲痕だらけで全裸で吊るされていましたわ。意識がなくて死んだかと思っていましたね。それで血まみれの拷問道具が……。」
「チヨメ……。もうやめてくれ。」
チヨメの会話を更夜が打ち切った。
「あら……ごめんなさい。もう言いませんわ。」
チヨメは憐夜を見て口を閉ざした。憐夜の顔は恐怖とせつなさが混じったような表情で目には涙を浮かべていた。
「……お兄様……ごめんなさい。」
「……憐夜。大丈夫だ。大丈夫。」
更夜は震えている憐夜を抱きしめ、そっと頭を撫でてやっていた。チヨメはその光景を見て首を傾げた。
「更夜、あなたの家系はそんなに優しくする家系ではなかったはずですが。……ちなみにあなた達とは腹違いの子、狼夜はお仕置きの最中に死んでしまったとか。狼夜が弱かったとあなたの父親、凍夜がもう一人の奥さんを攻め立てたそうですね。やはり狂っていますね。」
「……そうか……。狼夜には会った事はないがこちらの世界で幸せに過ごしている事を願う……。俺は……俺達兄弟は小さな世界に縛られ狂っていた。あの時、全員で抜け忍になっていれば良かった……。その考えが俺達の頭になかった。」
更夜は憐夜を強く抱きしめ、チヨメを見据えた。
「……あなたにも後悔があるのですね。ちなみに言っておきますが狼夜は死後、わたくしと仲良く生活していますからご安心を。まあ、今は仕事中なのでほったらかしですが。」
チヨメは軽く微笑んだ。
「……そうか。」
更夜はどことなく安心した顔で一言つぶやいた。
「まあ、あんたらのそういう話は後でいィ。ワシもマゴロクも甲賀にいたが家系が違ったからなァ、ほとんどおめィらを知らん。それよか、これからどうすんだィ?」
サスケが話に加わり、話を元に戻した。
「……ところでライ、あなたの策とやらはなんだ?」
更夜はライに目を向けた。
「あ、えっと……。先程、セカイさんが言っていた事なんですが、陸の世界のセイちゃんとノノカさんを救うってお話です。もしかしたらノノカさんの心を軽くしてあげられるかもしれないと思って……。」
ライは更夜に先程話した内容を説明した。
「……そうか。それでトケイも元に戻るのか?」
更夜の問いかけに今度はセカイが答えた。
「……トケイは今、弐の世界の脅威を払う存在になっている。この一件が落ち着けば元に戻るがそれまではセイを消そうと動くだろう。トケイがセイを消してしまったら最悪の方面にいく。」
「しかし、セイは一つの世界で消されてもまた別の世界では生きている事になるのだろう?」
更夜の問いかけにセカイは首を横に振った。
「その認識は間違い。神は元々想像の存在。現世の神が死に、その神が弐の世界に来て弐の世界で死んでしまうともう存在するという定義が崩れてしまう。故にトケイは完全にセイを消し去る事ができる。」
「そうなのか。」
「トケイさんが……セイちゃんを消してしまう……。どうしよう……。」
ライは怯えた表情で更夜を仰いだ。
「その前に行動すればいいのだろう?今回は協力者がいるんだ。問題はない。」
更夜は鋭い瞳でサスケ達を睨んだ。
「そんなに睨まんでもいィ。なんだィ?セイに見つからんようにセイを監視すりゃァいいのかィ?」
サスケは不敵に笑いながらライの肩に乗っているセカイに目を向けた。
「その役目は必要。セイがトケイに襲われたら私を呼んでほしい。すぐに飛んで行き、トケイを遠くに飛ばす。襲われていない時、私はその間に陸の世界を出す準備をする必要がある。」
「んじゃァ、マゴロクのが適任かもなァ。自分はその場から動かずに動物を使って相手に連絡ができるんだからなァ。ほら、おめェは蛇とか猫とかがいるだろィ?」
サスケは気難しい顔をしているマゴロクに不気味に笑いかけた。
「俺の仕事仲間かな。まあ、いつも手伝ってもらっているしいいが。」
「で、おめェが勝手な行動とらねィようにワシもその任につく。」
「まあ、別にいいが……足手まといはごめんだな。」
「へっ、いうねィ……。」
サスケとマゴロクは勝手に話を進めていた。
「それで?陸の世界とやらが出てからどうするのですか?」
今度はチヨメがセカイに質問をした。
「そうしたら陸の世界に行く。後はノノカさん次第。私達はお手伝い。」
「では、ノノカちゃんを連れて来なければなりませんね。」
チヨメの言葉にセカイは頷いた。
「その役目、わたくしがやりましょう。ノノカちゃんを連れてきます。」
「そうしてほしい。」
セカイはまたこくんと頷いた。その中、スズだけは納得のいっていない顔だった。
「なんだか、皆敵同士だったのにすぐに仲間になったり、飲み込み良すぎじゃない?」
「忍はそういうものだ。今回は目的が一緒だっただけだ。」
更夜が深いため息をついた。
「じゃ、ワシはさっさと行く事にすらァ。」
「では俺も。」
サスケとマゴロクはこちらが了承する前にさっさと消えて行った。
「ではわたくしも。」
チヨメもライがぽかんとしている間に素早く去って行った。
「え……。え?あの……。」
ライはあっという間に決まった事に頭がまだついていっていないようだ。セカイとスズと更夜の顔を交互に見ていた。
「話は進んだ。俺達も何かできる事があればする。」
「では私の警護をしてもらいたい。」
更夜の言葉にセカイはまた大きく頷いた。
「更夜、お兄さん、お姉さんの事、心配じゃないの?」
スズは眉をひそめて更夜につぶやいた。
「……俺が心配したら失礼に値するくらいあの二人は強い。……問題はない。」
「ふーん……。心配だったらわたし、戻ってもいいよ。様子だけでも見てきてあげる。更夜は怪我しているから無理だけど。」
「駄目だ。お前は戻るな。」
「そ、即答?わ、わかったわよ。」
更夜の鋭い声に委縮したスズは素直に頷いた。
「わ、私も何かお手伝いできる事があればします!逢夜さんと千夜さんの助けにも頑張ってなります!」
今度はライが声を発した。
「あなたも行ってはいけない。あなたは自分の事だけ考えていればいいんだ。」
「は、はい……。」
しゅんと肩を落としたライを見つめながら更夜は少し嬉しそうにしていた。
「お兄様……?どこか嬉しそう……。」
「……いままでずっと独りでいたせいかこんなに沢山の仲間を持つことがどことなく恥ずかしくてな。それにお前とも和解できた。俺は今、こんな事を言っている場合ではないが幸せを感じているのだ。すべては絵括神、ライのおかげだな。」
憐夜のつぶやきに更夜はぶっきらぼうに答えた。
「そ、そうですか。」
憐夜は更夜の脇腹あたりに顔をうずめながら小さくつぶやいた。
「わ、私のおかげなんてそんな……!私こそ更夜様達にたまたま会えてすごく良かったです!」
ライは顔を真っ赤にしながら上ずった声で更夜に叫んだ。
「ふむ。そう言ってもらえるとこちらもやりがいがあるな。これも運命か。運命はよくも悪くもよくできている……。」
更夜はしみじみとつぶやいた。
「ここまで来たら最後まで付き合ってあげるよ。」
ライ、憐夜に挟まれたスズはため息交じりに声を漏らした。
「スズちゃん、ありがとう。」
「では、この世界を使い、陸を出す準備をする。ここはノノカさんのお姉さんの世界。ノノカさんがいる陸の世界に繋がりやすい。」
セカイの言葉にライ達は大きく頷いた。
どうやって陸の世界を出すのかはわからないがライは少しだけ安心した。




