ゆめみ時…3夜が明けないもの達19
「ところで……憐夜はKについて他に何か知っているの?」
ネガフィルムのように入り混じっている世界を飛びながらスズは隣にいた憐夜に声をかけた。憐夜は更夜に抱えられていた。
「……ずっとKを追いかけまわしていてたまたま不思議な世界に紛れ込んだの。……そこには十人の少女がいたわ。皆楽しそうにしてた。国はバラバラで肌色が黒い子、白い子……どこかの民族衣装の子、色々な国の女の子がいた。その中に日本かなって思う女の子がいてその子と目が合ったの。その瞬間にネズミなのか猫なのかよくわからない動物姿のぬいぐるみが『こっちに来ちゃいけない』って言って私が本来いるべき世界に私を連れて行った。後はほとんど覚えていないの。」
憐夜はそこで言葉を切り、目を細めた。
「どこかの魂の世界に入り込んだのか?」
更夜の問いかけに憐夜は首を振った。
「あれは……きっとKの世界です。あのぬいぐるみもきっとKの使いだと思います。Kが一人じゃないんだとしたらあの少女達が全員Kなのかもしれない。あの少女達がKかどうか調べたかったのとこの世界を作ったのがKだとするならばあの少女達を恨もうと思ってました。」
「……そうか。だが憐夜、憎んでも悲しいだけだ。俺も恨むものがほしかった。恨まれる事の方が多かったからな。だが、恨んでも憎んでも悲しくなるだけだと俺はある時、気がついた。いっそのこと感情がなくなればいいと思った。だが、感情がなくなったらそれはそれで悲しいのだ。俺は死んでから恨むとか憎むとかそういう事はせずに今、あるモノを大事にし、ずっと守って行こうと思った。憐夜にそれを押し付けるつもりはないができれば俺は楽しそうに生きているお前が見たい。」
更夜は憐夜に再び優しく声をかけた。
「……まさか死んでからこんな幸せな気持ちになるなんて思いませんでした。Kについては解明したいのですが私はこちらで楽しく生きる事にします。恨んだり憎んだりするよりも楽しく生きていた方が確かに心が軽いです。」
「憐夜……。」
憐夜は更夜の胸に顔をうずめ、甘えていた。憐夜の心も若干ほぐれてきたようだった。だがまだ、運命を恨む感情は完全には消えていなかった。
「憐夜、憐夜がいいっていうなら友達になろうよ。」
スズは憐夜に期待を込めて声を上げた。
「友達……?友達!仕事以外で人と仲良くなっていいの?お兄様がお許しになってくださるならその……。」
憐夜は更夜を怯えた目で見上げた。いまだに憐夜を縛る望月家の恐怖はそう簡単に消えるはずはなかった。
「俺に聞かなくていい。友達になりたいかなりたくないかで判断しなさい。判断は全部お前に任せる。」
更夜はあえてこう言った。更夜が友達になれと言ってしまったら憐夜は自分の感情なしに無理やりでもスズと友達になろうとするからだ。
「私、友達になりたいです。一緒に遊んだりしたいです。お、お兄様……。」
「俺に聞かなくていい。お前がなりたいならなればいい。」
更夜はまわりの気配を伺いながらそっと憐夜に囁いた。
「……あの……。」
「じゃあ、友達でいいわね。よろしくね。わたしはスズ。わたしも忍だったんだよ。」
まごまごしている憐夜にスズはさっさと話を進めた。
「う、うん……。よ、よろしくね。」
憐夜は押されるようにかろうじて声を上げた。
「……スズ、すまんな。ありがとう。」
更夜はスズにホッとした顔でお礼を言った。
「はいはい。」
「スズ、憐夜、例の世界が近い。話は後にしろ。」
更夜はスッと表情を元に戻すと憐夜とスズを黙らせた。




