ゆめみ時…3夜が明けないもの達18
ライは一足先に西洋風のお城が建っている世界へとたどり着いていた。
「やっぱりきれいな世界だわ。」
ライは目の前にそびえる美しい城をぼんやりと眺めた。刹那、ライの肩先から声が聞こえた。
「人が想像するエネルギーとはすばらしいもの。存在するとはとても大切な事。」
「うわぁ!セカイさん!」
驚いたライの肩にセカイがちょこんと乗っていた。セカイはスズの肩から知らぬ間にライの肩に乗り換えていたらしい。
「そう。私はセカイ。……この世界に三つ……迷っている魂がいる。」
「三つの魂?……忍者さん達か、ノノカさん達か……よね。」
「……。」
セカイはライの声には反応を示さず、ただ一点を凝視していた。
「セカイさん?」
ライがセカイを不安げに見た時、すぐに聞き覚えのある声がした。
「あんたがKの使いとか呼ばれているやつかィ?ワシはァ、あんたに用があって来たァ。」
ライの真下で銀の髪が揺れ、目の前にサスケが現れた。
「うっ……。」
ライは嫌な事を思い出し、顔を青くしたがサスケはライをまるで見ていなかった。
「で、ワシは笛が本神に渡ってしまったんであれから色々調べたわけよォ。タカト君はただノノカちゃんを助けたいだけだからァな、別に笛を壊してセイを殺そうとしなくてもいいってわけ。なんかわかんねィがセイは死んでも弐の世界で蘇っちまったァ。こりゃあこれからセイを殺そうとしても意味はねィ。違う世界で何度も蘇っちまうからァな。笛を壊せばセイが消えるかと思ったがァ……よく考えりゃァ死んだらこっちの世界に来るだけだァな。」
サスケはうなずきながら説明をした。
「セイちゃんは私の妹。なんで殺そうとかそんな事を言うの……?酷いよ。」
「わるィ。これは主の目的だァよ。」
悲しげに瞳を伏せたライにサスケは感情なく言い放った。
「それで?私に用とは?」
セカイはそっけなくサスケに言葉を発した。
「……ワシはてっとり早い方法を考えたィ。Kに直接ノノカちゃんを救ってもらえばそれでいいってなァ。」
サスケがそこまで言った時、すぐ近くでまたも聞き覚えのある声がした。
「……それじゃあ、ショウゴ君の恨みが晴れないだろう。俺はショウゴ君を落ち着かせてあげないといけないんだよ……。」
「やっぱり来たかィ。マゴロク。」
サスケはカゲロウのように現れたマゴロクを鋭く睨みつけた。
「ついでに言いますと……わたくしもおりますよ。」
「望月チヨメまで来たかィ……。」
サスケはマゴロクの隣にいた女に目を向けた。
「まあ……どいつも同じ考えに至ってここに来たんだと思うがね。どいつも同じKについて調べてたって事だ。」
マゴロクはうんざりした顔でサスケとチヨメを見た。
「しかしまあ、こんなにかわいらしいお人形さんがKの使いだったとは思いませんでしたけど。どのように動いてらっしゃるのか少し疑問ですわね。」
チヨメはセカイにそっと目を向けた。セカイは瞬きをしただけで特に何も言わなかった。ライはふとセカイが先程言っていた事を思い出し、言ってみる事にした。
「さ、サスケさんにチヨメさんにマゴロクさん。実はノノカさんの心を救ってあげられるかもしれない方法があるの。ノノカさんの心を救ってあげればもしかしたらショウゴさんもタカトさんも救えるかもしれない。私、気づいたの……。ノノカさんの心がタカトさんとショウゴさんを作っているんだと。タカトさんはノノカさんの心の葛藤で生まれている。いまでも自分を守ってくれる存在という理由で、ノノカさんの心にはタカトさんがいる。ショウゴさんは逆。ショウゴさんには恨まれても仕方がないという感情でノノカさんはショウゴさんを作り上げてしまっている。」
「ほう……それでなんだィ?」
ライは一生懸命に言葉を発したが忍達は感情的になるわけでもなく冷静だった。
「現世はもう一つあるの。陸の世界という現世。そっちの方ではセイちゃんはまだ狂っていなくてタカトさんもショウゴさんも生きているわ。でも同じ結末に向かおうとしている。だからノノカさんに陸の世界を救ってもらう。そうすれば陸の世界は平穏に進んで現世にいるノノカさんは少し救われると思うの……。」
「世界が二つあるという事はあまり信じられませんがもしあったのならばそれは……現世のノノカちゃんを完全に救う事にはなりませんね。その陸の世界とやらのノノカちゃんなら救えますけど。」
チヨメの言葉にライは何も言えなくなった。今を生きているノノカを救う術はない。もうタカトは死に、ショウゴも死んでいる。一度犯した過ちは消える事はない。
ただ、心は少し軽くなるかもしれない。
「……現世を生きるノノカさんの心を軽くするには自分自身の心で解決するしかない。それのきっかけを作るのに陸の世界の自分を救うのはいいのかもしれない。」
ふとセカイが口を開いた。
「それよりもだな、Kがなんとかしてくれれば丸く収まるんじゃないか?」
マゴロクはセカイを鋭く睨みつけた。
「Kは……万能ではない。起こってしまった事実を変える事はできない。心はあくまで自分自身のモノ。自分でなんとかするしかない。そのお手伝いはする事はできる。」
セカイは淡々と言葉を紡いだ。
「……そうか。Kに頼れば何とかなると思っていたが間違いだったようだな。そもそもKとはなんだい?」
「お答えできない。」
マゴロクの質問にセカイは先程と同じ回答をした。
「……答えられないのか?」
「……。」
マゴロクの問いかけにセカイは再びこくんとひとつ頷いた。
「じゃあ、そこの芸術神の方法を試してみるしかねィって事かェ?」
サスケがポリポリと頭をかきながらセカイに尋ねた。
「……私達はそれ以外にする事はない。陸の世界を救う事は我々にとってもプラス。それはお手伝いする。それ以外はノノカさんの心次第。」
「……心次第……。心が変われば後悔が蠢く世界から出られるの?」
チヨメは小さくつぶやいた。黙り込んだ忍達を見つめながらセカイはそっと目を閉じた。
「……後悔という感情はなかなか取り除けない。もう取り返しがつかない事が多いから。だからこういうたぐいの感情のエネルギーは同じところに集まり、渦巻いてしまう。……やはり人の感情が一番不可思議。あのまま伍の世界が続いてしまっていたら人は戦争をやめなかっただろう……。肆……未来も変わって良かった。」
「……え?」
ライは後半のセカイの独り言に眉をひそめた。しかし、セカイはそれ以降は何も話さなかった。




