ゆめみ時…3夜が明けないもの達15
セカイと名乗った少女とライと逢夜は更夜達がいる部屋へ裏から回った。
「……。入れ。」
静かに千夜の声がし、逢夜はそっと障子戸を開けた。
「……ん?」
千夜は逢夜に目を向けた後、セカイに目を向けた。
「私はセカイと言う名の人形。弐の世界のシステムの一。Kの使い。」
セカイは丁寧に自己紹介をすると静かに頭を下げた。
「Kの使いだと……。」
千夜の目が鋭くなりセカイを射抜いた。
「はい。あなた達……更夜さんとスズさんは弐の世界のシステムの一。時神なので助力をしようと参った。セイは私が追い払った故、心配は無用。私はそれよりも話をしにきた。」
セカイは魔女帽子を正すとその場に座った。スズはもう部屋に戻ってきており、セカイを戸惑いながら見つめていた。
「何の話だ?」
更夜が掌くらいしかない小さな少女を鋭い瞳で見据えた。
「セイを救う方法を提示する。セイが暴れる事は弐の世界にとってマイナス。だからといってセイを弐の世界から消してしまうとあなた達の心に障害が残る。故に、セイを消さずにこれを乗り越える方法を提示する。」
「そんな方法があるの?」
ライは少しだけ希望が出てきたのか真剣な表情でセカイに声を上げた。
「神は人間とは違い、プログラムのようなもの。神は人間が自分達の心、感情のコントロールの為に創ったプログラムでしかない。幻想、妄想……弐の世界もそれと同じようなもの。人や動物の想像……、死後の世界観……それが組み込まれてこの世界がある。人間や動物が生み出す感情というエネルギー物質は今も、弐の世界を変え続けている。……セイは人間が創り、想像してできた神。神はプログラムのようなものだから虚像の世界である陸と一つにできる可能性がある。」
セカイの説明はあまり理解できるものではなかった。とても離れた所の話をしているようだ。
「あー……何言ってんかわかんねぇな……。」
逢夜は頭を抱えながらセカイにつぶやいた。しかし、セカイは話す事をやめない。
「電子……パソコンで説明すると壱の世界のセイのプログラムと陸の世界のセイのプログラムの統合。そして新しいプログラムを生み出す。壱と陸のセイを融合させ、一つの神にする。そのセイが壱の世界で存在し始めると『一神では許されない。存在する者は虚像の世界にも存在する』という壱と陸の世界のルールから陸の世界に新しく生み出したセイが生まれる。つまり、壱と陸にプログラムを改変したセイが誕生する事になる。そうすれば弐の世界も安定する。」
「ごめん。全然わかんないの。陸の世界って何?まず。」
スズはポカンとしながらセカイに説明を求めた。
「陸の世界は現世である壱の世界とまったく同じだが虚像の世界。神も動物も人も他のものも壱の世界に存在すればまったく同じものが陸の世界にも存在している。壱の世界は陸の世界と実像と虚像の世界。陸の世界から見れば壱の世界は虚像の世界。」
「ええと……つまりはライも壱の世界と陸の世界にいるって事?」
スズはライにちらりと目を向けると疑問を口にした。
「そういう事。」
セカイはこくんと頷いた。
「現世、壱の世界で起きた出来事は陸に反映されるのか?」
更夜は部屋の隅に片膝を立てて座りながらセカイに目を向けた。
「……反映されない事もある。」
「では壱の世界で俺が唐突に死んだとする。そうしたら陸の俺はどうなるんだ?もし反映されないのだとしたら死んだ俺は弐の世界に入るわけだから矛盾が生じるな。」
更夜の疑問にセカイは表情を変えずに説明した。
「矛盾は生じない。あなたは壱の世界の弐で存在している事になる。この世界は生死でコントロールされているわけではない。壱のあなたが死んでも陸のあなたが死ぬとは限らない。」
「壱の世界の弐、陸の世界の弐があるという事か……。となると……今のあなたの話をまとめ、考えると『陸の世界のセイはおかしくなっておらず、まだ現世に存在している』と言っているように見えるが。」
更夜の言葉にセカイは大きく頷いた。
「その通り。だいたいわずかなズレしかないのだがセイはまだ現世で存在している。そして壱の世界のセイと同じことをこれからする予定のよう。」
「……っ!」
そこまでセカイが言った時、ライはセカイの打開策が何かがやっとわかった。
「陸の世界のセイちゃんが壱の世界のセイちゃんと同じことをしないようにすれば良いって事なのかな?」
ライの発言にセカイはまた小さく頷いた。
「その通り。」
「……憐夜もそれで救ってやれてたら……。」
千夜がせつなげに小さくつぶやいた。それを聞きとったセカイは重そうに口を開く。
「それは無理。……神は想像でできたもの……特に芸術神は人間自体に関わってはいけない事になっている。それを破った今回の行為は世界としてはいけない。本来ないはずの行為で現世を生きていた死ぬはずのない人間を二人も殺した。故に修正がいるが憐夜さんの場合は理にそったもの。自然。それはこちらの管轄外。」
セカイは淡々と言葉を発していた。
「そうか。陸の世界では憐夜はどうなっていたのだ?」
千夜の質問にセカイはまた重そうに口を開いた。
「……陸では多少のズレはあったものの結末は一緒だった。憐夜さんを殺したのは逢夜さんではなく……更夜さんだった。それだけしか違わない。」
「俺が……憐夜を……。」
更夜は何とも言えない顔で畳に目を落とした。
「憐夜さんを逃がそうとした更夜さんは世界から救ってあげる方法として殺す事を選んだ。優しい言葉をかけ、憐夜さんに優しく振る舞いながら背中から憐夜さんを刺した。人の生は多少のズレがあるものの結末はだいたい変わらない。人間を形造るプログラムDNAとは違い、これは世界のプログラム……つまり運命。」
「更夜……憐夜を俺と同じ方法で殺したのかよ……。」
逢夜は顔をしかめて苦しそうにつぶやいた。
「よくわからないが人形のようなあなた達が干渉するかしないかは起こるはずのない運命か……起こる運命かの違いか……。」
千夜はかなしみを含んだ声で静かにつぶやいた。
セカイは再び小さく頷いた。




