ゆめみ時…3夜が明けないもの達13
一方スズは才蔵と半蔵の側にいた。
「スズ、バレていますよ……。出て来なさい。」
才蔵に言われ、玄関先に隠れていたスズはため息をつきながら出てきた。
「やっぱりバレてしまうのね。」
「おめぇさん、全然隠れられてねぇですからな。」
今度は半蔵がスズに対し、ため息をついた。
「そんな事よりもセイがなんだか暴れているようですね。私達の安全は確保されているのでしょうか?」
才蔵は薄く笑い、スズを仰いだ。
「さあね。」
スズはそっけなくつぶやいた。才蔵と半蔵にいいように扱われた自分が少し腹立たしかったためだ。
「しかし、この影縫い、なかなか素晴らしいですな。まったく動きやせん。」
半蔵はクスクスと笑いながら黒い瞳をスズに向けた。
「……やっぱり凄いわね。」
スズはそれだけつぶやいた。スズは半蔵と才蔵がただで会話をしない事を知っている。この会話もスズから情報を聞き出すための手口なのだ。
「お前は幼く死んだはずですがなかなか頭が良いようですね。」
「……こちらでの生活のせいかな。」
才蔵の言葉に軽く答えたスズは才蔵の横に腰かけた。遠くで爆発音がするがスズは落ち着いていた。
「スズ、これは単純な質問ですが……答えなくても構いません。……お前は生前、後悔をしましたか?」
「……え?」
才蔵の質問にスズは戸惑いを見せた。才蔵の瞳はせつなげでとても優しかった。
「別に答えなくても構いませんよ。ただの興味ですから。」
「……後悔……?わたしは……よくわからない。忍が仕事だったから。別の生き方なんてなかったし、考えてもいなかったから……だから後悔がなんなのかよくわからない。」
スズは話している内に子供の姿になっていた。これはスズの本心だった。スズはこの世界で見聞を広げたが弐の世界では毎日が不変。当然、本人の心は成長もしない。スズはいまでも十二歳の少女のままだった。本心を語る時のスズはあの時代のあの時のままの子供だった。
「そうですか。」
才蔵はそれだけ言うと口を閉ざした。そのかわりに半蔵が口を開いた。
「いやね、それがし達はもう後悔なんてなかったはずだった。平和に自分の世界を生きていた。……魂を呼びよせられて気がついた。こちら側にそれがしらの世界はないと。」
「……?どういう事?」
「わかんなくてもしかたねぇですよ。こちらの世界では自分の世界を持つことができる。しかしな、いままで平和に過ごしてきたそれがし達の世界がこちらにはないんだ。」
スズが困っていると半蔵はケラケラと笑い出した。
「おめえさんはこの世界の事……どれだけ知ってる?」
「……知らない……。まったく……知らない。」
スズが小さくつぶやいた時、空弾が横に逸れ、激しく爆発した。
「あなた達の心はもうすでに負の感情から解き放たれているはず。あの少女、音括神セイが負の感情を再びあなた達に植え付け、こちらの世界に呼んだ。」
ふと誰の声でもない女の声が響いた。
「……?誰?」
スズは声の主を探した。しかし、声のみ響いてどこにいるのかわからない。
「この周辺の弐の世界は後悔を持つ者が創り出す世界。あなた達二人の魂はもうすでにここの領域にはない。故に自分の世界が見つからない。本来はここにいてはいけない魂。」
声はスズのすぐ下で聞こえた。スズは慌てて下を向く。
「えっ!?」
するとすぐ下に十一センチくらいしかない少女がとんがりぼうしとマントをなびかせて立っていた。
「なんですかい?……こいつぁ……人間ですかい?」
半蔵のつぶやきに少女は別に隠す風もなく答えた。
「わたくしはKの使いの人形、名をセカイと言う。」
「Kの使い!?」
「ええ。この世界は時神の世界、トケイが手を出せない今、わたくしが守らねばと思い参上した。」
セカイと名乗った人形は丁寧にお辞儀をした。
「Kの使いとはなんです?」
才蔵は顔を曇らせてセカイに目を向けた。
「Kの使い。そのまんまの意味。」
セカイは可愛らしい瞳を才蔵に向けるとそのまま答えた。
「Kという者の使い……って事ですかい?」
半蔵がさぐるようにセカイを見据えた。
「……ええ。私はこの弐の世界、『後悔』を担当するシステム。」
セカイは何事もないかのように普通に答えた。
その会話を聞きながらスズは半蔵と才蔵がKについては何も知らないのだという事に気がついた。
……逢夜の話によると才蔵と半蔵は憐夜が追っている者の正体を知りたいと言っていたとの事。わたし達はもうすでに憐夜に接触したライから憐夜はKを探しているのではないかという事を聞いている……。つまり、わたし達の方が情報は先に進んでいるって事ね。
スズはそう思い、あまりボロを出さないように気をつけようと決めた。
「……あなた達……早めにこの世界から出る事をおススメする。セイに攻撃される前に。」
「そうしたいのはやまやまなのですが……動けませんので。」
セカイの言葉に才蔵はため息交じりに答えた。
「では私は全力で守る事にする。」
セカイはごり押しをしてくるわけでもなく、素直に意見を変えた。
「ねえ、Kって何者なの?」
スズは自分が不利にならないよう気をつけながらセカイに尋ねた。
「……お答えできない。少なくともあなた達の前に現れることはない。」
「そう。」
スズはそれ以上セカイから何かを聞くのをやめた。とても口が堅そうだ。
「ところで何故、音括神セイがああなってしまったのか知っていないか?」
「ああ、それは……。」
「なるほど。」
スズはまだ何も言っていないのだがセカイは何かを理解したようだった。
「あ、あのねぇ……まだ何も言ってないんだけど。」
「人形は人の心に作用する物体。人の心、魂は簡単に読める。」
「そ、そう。じゃあなんで聞いたの?」
スズは呆れた顔でセカイを見つめた。
「……質問を投げかけてその答えを人は想像する。私はそれを読み取っただけ。」
「ふーん……今のわたしの心を読んだって事?凄いのね……。」
反応に困ったスズはとりあえず納得をしておいた。
「では、私は一時的にセイを遠くに飛ばす事を最優先に考える。」
セカイは可愛らしい瞳を伏せ、丁寧にお辞儀すると消えるようにその場からいなくなった。
「……速い……。」
才蔵と半蔵はセカイの足の速さに目を疑ったが人ではないのだと思い直していた。




