流れ時…2タイム・サン・ガールズ8
サキは小学生サキの部屋で来客用の布団をひいて眠っていた。
その隣で小学生サキも寝ている。
サキは来客用の布団が押入れにしまってある事を知らなかった。
ここはやはり自分が知っている家ではないらしい。
だがサキにはそんな事どうでもよかった。寝て起きたら夢だったという展開を期待していたため、深い事はあまり考えずに眠った。
そんな眠っている二人を眺めながらダイニングにある椅子に座り女は手を組む。
……すべて計画通りね……。
歴史の神……流史記姫神……だったか、あれが私のやろうとしている事に気がつき、阻止してくるとは思っていた。
あの神はサキに近づき、サキを守るため時神を呼び寄せる結界を張った。あの神が時神をすべてこの時代に集めてくれた。
あの神はうまく私の計画を阻止できたと思っているのだろう。
マヌケね……。
あなたからすれば守らなければならないサキはこの小さいサキなのに……。
女は小学生のサキをいとおしそうに見つめた。
太陽にいるやつらには命令は出してある。勝手に行動する事はないだろう。
ただ、一匹を除いて。
とりあえずこちらで月が出ている間は何もできない……。
しばし休むとしましょう。
女は口元だけでクスッと笑うとゆっくり立ち上がった。
お昼をまわった。白熱したババ抜きは百二十戦をむかえた。
「あー……なんていうか……もう嫌だな……。」
プラズマがうんざりした目で一枚だけになったジョーカーを眺める。
「集中力はもう限界でござる……。」
サルもげんなりした顔を向ける。栄次はいつも一番に勝ってしまうので座禅を組んで時間を潰していた。
「ええ……もうパターンが決まってきたわね……。サルが負けるかプラズマが負けるか……。ちょうどいい時間だしお昼にでもしましょうか?」
アヤはやや疲れた顔で大きく伸びをした。
「賛成。なんかあるのか?メシ……。」
プラズマがちゃぶ台に突っ伏しながらアヤに聞く。
「鰈とカレールーならあるわ。」
「ダジャレか?まあ、いいや。」
「俺は鰈しかわからんが……なんか新しい食べ物か?」
プラズマに向かい栄次が声を発した。
「混ぜたらいいんじゃないか?なあ?栄次に新種の飯を食わせてやろう!アヤ、台所借りる。」
「ええ……いいけど。」
そそくさとアヤの部屋を後にしたプラズマを眺めながらアヤはため息をついた。栄次はきょとんとした顔をアヤに向けていた。
「なんか嫌な予感がするが……。」
「大丈夫よ。たぶん。カレールーはなんにでも合うように作られているから。」
しばらくぼんやり待っていたらプラズマが鼻歌を歌いながら土鍋をひとつ持って来た。
「ほれ。」
ちゃぶ台に土鍋を置き、フタを開ける。真っ白な湯気の中で茶色になった鰈の切り身が浮いていた。匂いはもちろんカレーである。
「おいしそーって反応はできない出来ね。」
アヤがお椀やハシを準備しながらつぶやく。
「ふむ。これは体験した事のない匂いがするな。」
「とりあえず食べてみるでござる。」
栄次とサルは恐る恐る鰈の切り身をお椀にうつし、一口食べた。
しばらく無言で咀嚼している二人を見ながらプラズマは返答を急かした。
「なんか言えよ。」
「まあ、普通に食べられるな。」
「案外普通でござるな?」
栄次とサルはふむふむと唸りながらもくもくと食べる。
「普通ってなんだよ……。一番微妙な答えだな……。まあ、確かに普通以外なんも言えないけどな……。」
プラズマは若干むくれながら鰈を頬張っていた。
「きっと甘さが足りないのね。」
アヤは吟味しながら食べていた。
これはもしかしたら晩御飯のメニューに付け加えられるかもしれないと思っていたからだ。
「アヤは気に入ってくれたみたいだな。」
「別にそうじゃないけど……。」
アヤ達は特に会話もせず鰈を頬張り、午後のまったりした時間に入った。
暇を持てあましたアヤがトランプで七並べを考案した時、何とも言えない殺気が漂ってきた。栄次がそれにいち早く気がつき、目を見開いた。
「なんかいるわね……。この辺に。」
「ずいぶんとむき出しな殺気だな。俺達を外におびき出させるためか?」
アヤとプラズマも気配を探ったが栄次よりは感じ取れなかった。
「……太陽の者が動き出しているようでござるな。」
サルは冷や汗をかきながら不安げにアヤ達を見つめた。
「ここで籠城しててもしかたないわ。どっちにしても太陽へは行かなければならないんだから。太陽の神々は私達を外に出させようとしているわけでしょ?中に入って来ないんだからね。だったら今出ちゃいましょう?」
「アヤはけっこう無茶ブリするのか?」
アヤの言葉にプラズマが眉を寄せる。
「だってしょうがないじゃない。」
「相手は複数の太陽神、使いのサルだ。俺達人間上がりの神が勝てる相手なのか?」
栄次は刀を左腰に差しながらつぶやいた。
「もうこのまま太陽まで逃げながら行くしかないでござるな。」
「このまま外に出たら思うツボじゃないのか?」
プラズマはやれやれとため息をつく。
「しかたないのでござる……。
どっちにしろ、太陽へ行くには太陽神を祭っている神社へ行く必要があるのでござる。近くにギリギリ太陽神として祭られている神がいるのでござる。
昔から食物神だが時間がたつにつれて、食物が育つために大事な太陽も信仰心として手に入れたらしいのでござる。」
「それって、うちの近くの神社?ちょっと行った所にあったわね。そういえば。」
サルの言葉にアヤが口を挟んだ。
「そうでござる。そうと決まったらさっさっと行くべきでござる!」
「やけに急いでるな……。やっぱり本能には逆らえないか。」
サルがあまりにもそわそわしているので栄次もゆっくりと立ち上がった。
「窓から飛び降りよう!こういうのはいきなりがいいんだ!」
プラズマは窓を開けるとアヤを指差してにこりと笑い、ぴょんと飛び降りて行った。
「いきなりすぎるわ!ちょっと……ここ四階……きゃあ!」
アヤが戸惑っている暇もなく、栄次に担がれ、そのまま外へと連れ出された。
サルも後に続く。
「きゃああ!」
アヤの絶叫をうるさそうに聞き流した栄次はもう前を走り去るプラズマを目で追っていた。いつのまにあそこまで行ったのかサルがプラズマの前を走っていた。
それを追うように太陽神達が群がっている。栄次は四階から飛び降りたが何事もなく着地し、アヤを抱きなおした。
太陽神、使いのサル達はいきなりアヤ達が飛び降りてきたので驚いていた。固まっていた陣形がだいぶん崩れている。
「もうやだ……。私の部屋、四階なのよ!なに馬鹿な事やってんのよ!」
「神社はあっちだな?しっかりつかまってろ。そんな簡単にいかせてはくれないようだ。」
栄次は片手でアヤを抱きながら右手で刀を抜く。
色々とすごい力の持ち主だ。
栄次は走り出した。
アヤにはよくわからなかったが栄次が振るった刀の先で金属音が響いていた。
太陽神か使いのサルが金属製の武器で栄次を襲っているに違いなかった。
しばらくして栄次はプラズマとサルに追いついた。
「お、やっと来たか。アヤはこういうのに慣れてなさそうだからなあ……栄次じゃなきゃ守れないな!俺は刀とか使えないし。」
プラズマはなぜか楽しそうだ。
アヤのような身体能力の高くない神をあまり見た事がないらしい。
「あなた達みたいに化け物じゃないの。
私は普通の高校生だったんだから。こないだまでね。
足だって速い方じゃなかったし、体育のマラソンだって後ろの方だったし……。ごめんなさい。栄次、ありがとう。驚いて取り乱したわ。」
「これはプラズマが悪い。無茶をしすぎだ。」
栄次は刀で太陽神の攻撃を弾く。
「悪かった。でもしかたなかっただろ?敵は外にうじゃうじゃいたんだからさ。ちゃんと合図だしたじゃないか。」
「ああ、アヤを連れて来いって合図か。俺がわからなかったらどうするつもりだったんだ。」
どうやらアヤに笑いかけたのには理由があったらしい。
「あんなにわかりやすくやったんだ。普通にわかるだろ?ここでアヤをほったらかしにして飛び降りてきたら俺、お前軽蔑するかもな。」
プラズマは攻撃を軽やかに避けている。
「まったく、めんどくさい男だ。」
「悪かったな。」
太陽神達は日の力を使っているのか熱風をまき散らしている。
太陽神に触れてしまったら火傷では済まないだろう。
どの神も人型で剣に鎧を身に着けている。
神格はあまり高くなさそうだがかなり危険だ。
太陽神達は剣先から熱を持った光を一直線に飛ばしてきて対角線上にいるサルが持つ鏡を模した盾に反射させ、不規則にこちらを襲ってきていた。
その熱光線も当たったらタダではすまない。
「お!鳥居が見えてきたのでござる!」
サルは石段の先にある鳥居を指差した。
「待て!」
サルではない他の猿がサルを止める。
「そういえばなぜ、小生達を襲うのでござるか?」
サルは猿に声をかけた。
サルの手にはいつの間にか剣が握られていた。
太陽神、太陽の使いサルの主な武器は剣のようだ。
「我々はお前達を止めろとだけ命令を受けている。」
サルは猿の剣を受け流す。
「誰にでござる?これだけの太陽神、サルを使えるのは相当な力を持っておる者でないと……。」
「アマテラス様だ……。」
「!」
猿は剣を振るう。一瞬止まったサルに対し、栄次が素早く弾く。
「まさか……!アマテラス様は我々の概念ではござらんか!今はもうおらん!」
「……。」
サルの言葉を無視し、猿はサルを襲う。
「おい!しっかりしろよ!」
プラズマが銃で猿の持っている剣を弾き、軌道を変えた。
「す、すまんでござる。」
サルは動揺した声であやまった。
「鳥居、くぐっていいんだよな?」
気がつくともう石段を登り終えていた。
鳥居は人間の世と神の世をわける結界である。言わば玄関。神同士でも気を遣う所である。
「ここの太陽神ももしかしたら小生らを襲うかもしれぬ……。」
「知らないな。とりあえず太陽へ行くんだろ?さっさとくぐる!」
迷っているサルを押し、プラズマは鳥居をくぐる。
他の猿達はなぜか鳥居をくぐれず、うろうろしていた。
「なんだ?入ってこれないのか?」
栄次はアヤを担ぎながら少し迷ってから鳥居をくぐった。
猿とは反対に太陽神達はおかまいなしに鳥居をくぐってきた。
「どうやらここの神には命令がいっていないようでござるな。
猿達は太陽神の命令で動く、ここは全く関係のない神社なため、猿達は入って来れんのでござるな。」
サルは太陽神に剣先を向ける。猿がいなくなった分、対峙しやすくなった。
栄次もアヤをおろし、刀を構える。
「とりあえず、太陽神達を倒してここから太陽に行けばいいんだろ?」
「この場合、そうなるでござるな。小生は反逆者でござるよ……。」
プラズマが銃を構えて怯えているサルを睨む。
「お前は早く太陽への道を作ってくれよ……。どうやるか知らないがな。」
「うむ……。」
太陽神は五、六人いた。どの神も大きな剣を持っている。それと鏡を模した盾を装備していた。
「簡単じゃないな。俺は人間しか相手した事がない。」
栄次は刀を構え、太陽神に向かって行った。
それを皮切りにサルとプラズマもぶつかっていく。
アヤは巻き添えを食わないように少し遠くから戦況を見守る事にした。
「お、おいおい……。俺の神社で何が起こっちゃってんだ?」
アヤが逃げていた時、上の方でひときわチャライ声が聞こえた。




